見出し画像

【創作小説】肉屋の正義の味方(リフォーム詐欺①)

前回こちら⬇

大沢津久子は、サクラ商店街の正義の味方、肉屋の女主人だ。
柔道4段の腕の持ち主で、そんじょそこらの悪漢には負けない。
時々、商店街などで迷惑行為をする者をふん縛っては、柔道技で投げ飛ばし、抑え込み、
「大人しく捕まらないと、『ミンチ』にするよ!!」
と、確保するとき雄叫びを……
いえ雌叫びをあげるのだ。

今日も、サクラ商店街の駐輪場で、自転車を薙ぎ倒して進む、不届き者をふん縛って雌叫びをあげていた。
「大人しく捕まらないと、『ミンチ』にするよ!!」
これでも、普段はやさしい、どこかの家のお袋さんのような心温かな人だった。家に飼っている子猫を愛する人だった。

あるとき、津久子は、自分の店の余った揚げ物を 商店街の近所の一人暮らしのトヨ婆さんの家へ分けに向かってた。

そのとき、玄関に見慣れない40絡みの男が2人。
なにやら、込み入った話をしていた。
玄関の戸を、いつものようにベルも鳴らさずに開けて入ると、その2人の男が、びっくりしたように振り向いた。
「お婆ちゃん、この人は?」
と、男たちの1人。
「ああ、近所の商店街の肉屋の津久子さんだよ。時々、余りもんを分けてもらってるんだ」
「あ、そうなの……。ご家族じゃないのね

男たちは、はっきりとホッとしたよう。
「じゃ、お婆ちゃん、明日来るね、よろしくね」
男たちはそそくさと出ていく。
津久子は、不審そうな目つきを浴びせて彼らを見送る。
「トヨさん、あの人たちは?」
「あ、津久子ちゃん、あの人たちは、リフォーム会社の人達だよ。なんでも、通り掛かって屋根を見たら、うちには直すところが沢山あるって……」
津久子は、そのときは何とも疑問に思わなかったが、そのリフォーム会社の男たちの津久子を見たときの慌てぶりは、ちょっと気になるところがあった。一応、顔は覚えておこう、と思って記憶にとどめておいた。


2、3日後のことだった。
テレビのニュース番組で、特集が組まれる。
「最近、リフォームをめぐって詐欺が多いそうです。『家の前を通ったら、屋根が壊れてるのを見かけた』と架空の破損を騙って、家にあがり込み、屋根を調べさせてくれ、となにかと破損箇所を見つけては、雪だるま式に工事を増やして 高額請求をするそうです……お年寄りの一人暮らしのところを狙う場合が多く……」

津久子は、すぐに思い出した。
(そういえば、トヨさんのところにも、リフォーム会社が来てたけど、大丈夫かしら?私を見たときギョッとしてたけど。なんか、このテレビの手口に似てるわね)
気になったので、また後日、トヨさんのところへ行ってみて、それとなく聞いてみることにした。
ちゃんとした会社から彼らが来たのか、そして、リフォームすると言っていたところは、本当に壊れているのか。

「津久子さん、聞いてくれよ、あの人たち、ここを直したら、また、ここが壊れてる。
ここを直したら、また、ここが壊れてる、ってあちこち直しまわるんだよ、お金が追い付かないよ……」



              つづく

トップ画像は、メイプル楓さんの
   「みんなのフォトギャラリー」より
    ありがとうございます🍀

©2023.7.28.山田えみこ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?