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昔の自分を諦めて、新しくなる。(NHKスペシャル 山口一郎 “うつ”と生きる)

同じ病気を患っているから、見ておきたかった。

わたしの周りには現状うつ病の人はいないので、ほかの人がどんなことを考えていて、何がつらいのかを聞きたい気持ちがあった。
カメラの前で自分のことばを発せるまでに回復した山口さんをみて、勇気をもらいたかったというのもあるのかもしれない。


50分間のドキュメンタリーは、共感でいっぱいの時間だった。

なにかに取り組むときに、やり尽くさないと不安になってしまっていたこと。
好きなものからできなくなっていくこと。
うつ病になった自分を、周囲に「もうだめだ」と諦められるんじゃないかという恐怖。
あがいてもがいて、でもうまくいかないときに、みんなからおいて行かれてしまうんじゃないかというような気持ち。

闘っていた2年間、「またこの感じからはじまるのか」と朝に絶望して、明日を迎えるのが怖いような眠りたくないような気がして、体は鉛のように重く、どれだけ心がぐらぐらしたことだろう。見ていてキュッと胸が締め付けられる。


なんでなっちゃったんだろうとか、これはいつまで続くんだろうとか、前はできたのに今はできないとか、そんな思いが渦巻いていたことを思い出した。そしてそれは、今は完全になくなったのではなくて、時折姿を見せる。

わたしは、昔の自分に戻ろうとすることをなかなか諦められなくて、山口さんの倍以上の年数がかかった気がする。
おそらく、昔の自分もそんなに大層なもんじゃなかったのだけれど、うつ病というマイナスの世界から見ると、思い出美化のように「前はもっとできてたのに」ときらきら見えるのだろう。
今は大方受け入れられたからそういう考えも浮かぶけれど。
これは本当に気持ちの整理がつかなかった。


番組の最後、山口さんがサカナクションのメンバーへ少し思いを吐露する場面があった。

病気になって、本当にみんなにいろんな迷惑をかけた。申し訳ないです本当に。すみませんでした。今もまだ本調子じゃないけど、どんな苦しみがあって、どんな症状があってとかさ、くわしいことをみんなに話したことないけど、このツアーの中でちょっとずつ伝えていけたらいいなと思うし、この病気のことをちょっとずつ分かってもらえたら。分かってもらえるようにやっていこうと思います。

山口一郎 “うつ”と生きる〜サカナクション 復活への日々〜

このことばはとても響いた。そして、わたしの考えと似た人がいた! と嬉しくなった。


わたしも、うつ病であるということをなるべくオープンにするようにしている。誰でもかれでもということではないが、知り合った人で「この人ともっと話してみたいな」と思う人には、自分から打ち明けるようにしている。それが今の自分だから。それでも話してみたいから。

やはり大半の人は、まだまだうつ病患者に接した経験は無い。もしくは少ない。
接したことがないからという理由で、うつ病患者と非患者の関係が深まらないのは悲しい。だから、うつ病であることと一緒に、こんな感じになることがあると症状の面まで踏み込んで話す。そして症状がでたときは伝えるから、復調するまで少し待っててくれるとすごく嬉しいとお願いする。


能動的なうつ病治療者になる。


それは、「自分はうつ病だから甘やかしてほしい」とか「いつもいつも配慮してほしい」とか、そういうことではない。ただ、「そういう症状がある」と胸襟を開いて接したいのだ。隠したままだとほんとうの自分じゃない気がするから、開くのだ。


そしてもうひとつ、深く刺さったのがこのコメント。

何か自分だけ闘ってきてたつもりだったけど、メンバーもこの二年闘ってたんだなというのは、感じ取りましたね。

山口一郎 “うつ”と生きる〜サカナクション 復活への日々〜


うつ病になって病気休暇や休職制度を利用すると、世間的には休養に見えるかもしれないけれど、本人的には闘いの日々だ。
でも周りも、深く長い手探り状態で闘っている。
本人にどう接すればよいか。
休んでいる分の分担をどうするか。
負のスパイラルに陥って大変なことにならないだろうかという心配。

うつ病患者にしかわからない苦しみがあるように、きっと、周囲の人にしかわからない苦しみもあるのだと思う。
だからわたしは、感謝をしながらこの病気をうまくいなしていきたいと思う。

それを山口さんは、「『この野郎』って肩を組むぐらいの気持ちで、うまく付き合っていく方法を見つける」と表現していた。

わたしもそんな気持ちを持って新しい自分でいたい。
昔の自分に戻ることを諦めたのだから。

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