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ルーム 4 臨死体験 第1話

第1話

白鳥



オレンジ色のダウンジャケットが引き裂かれ
白い羽が空へ舞い上がる。

痙攣した人が横たわる。
瀕死の白鳥。

交差点の真ん中。

3メーター上から私はその白鳥を見ていた。

その白鳥は私だった。

次の瞬間、その白鳥に吸い込まれた。

意識を失った。


宇宙


全身の痛みに顔を歪めた。
手術室の大きな昆虫の目玉のような照明が
こちらを焼き付ける。
真っ白な光が突き刺さるほど明るい。
女医さんの声が遠くで聞こえる。


「これから麻酔が効いてきます。

1、2、3、、、、、、、」


ブラックアウト

眠りに落ちた。



次の瞬間、私は真っ暗な宇宙を飛びながら
長い旅をしていた。
しかし、自分の体を感じることはなかった。
意識だけがあり、
気持ちよく遊覧飛行をしている。


スキューバーダイビングをしている時のように、
水中で中性浮力を楽しみながら移動している気分だ。



それはあたかも母親の子宮の中で浮いているよう。
なんの抵抗もない。
完璧な無重力の世界。


私はいつの間にかその真っ暗な世界に潜り込み、
長く留まっていた。


自分の呼吸とともに視界が上下にかすかに揺れる。
何も物体は見えないが、
水中眼鏡で外を見ているような感じ。


視覚だけ存在している。
体はどこにもない。


寂しくもなく、不安もなく、孤独も感じない。

人肌の温かさのような、
ふわっとした柔らかい温かさで
全身が包まれていた。

宇宙の大きなブランケットに包まれているようだ。



不思議なことに誰の存在も見えないのに、
誰か他の人と繋がっているのを感じた。
エネルギーのようなものだ。


もし、魂というものがあるのなら
それがもっと大きく拡散したような
優しいエネルギーが私という存在と
ほか全ての存在を繋げているように思えた。


完全な肯定感。

真理


その時、すべてが私だったことに気がついた。

普通に体を持ち地上で生きている時は、
それぞれが個の存在で切り離されていると思っていた。
しかし、実はみんな一緒で、
すべて私の体の一部である粒子と同じなんだと感じた。


人や生物は死んで分解する。
私も死んだら私という存在はなくなり分解する。
粒子は散り散りになる。


その後に新たなエネルギーがどこかで発生し
そこに色々な粒子が集まってくる
そして、重なり結合し
他の物体となってこの世に現れる。


その真理を悟った瞬間、
全てを包み込む愛みたいなものを感じた。

この世界に一切の否定はない。


受け入れられている、守られている、繋がっている。
ここに永遠に留まりたいと願った。
それほど心地が良いところだった。

しばらく漂っていると、突然、また私の意識が飛びはじめた。

時空1jpg


第2話に続く


「ルーム 4 臨死体験 第2話」    、    「ルーム 4 臨死体験 第3話」


#創作大賞2022

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