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ルーム 4 臨死体験 第2話

第2話


時空


光の速さよりも早く、流れ星のように飛んでいる。
何も見えないが今度は周りは真っ暗ではない。
光の中にいるようだった。


私自身が光になった。


少し経つと
地球の上空を旋回しているようだった。
今までの生きてきた時間が高速で
風のように私からすり抜けていく。



ふと下を見ると
4つの部屋と4つの壁が見えた。



建物の天井が抜け、空から俯瞰で
部屋を見下ろしている。



それぞれの部屋の壁の厚みまで見えた。
コンクリートで出来たグレーまじりの
白っぽい50cm位の厚さの壁だった。



3つの部屋の記憶は残っていない。
だが最後のつ目の部屋の光景だけが
いまだにしっかりと記憶されている。



3つ目の部屋の上空を過ぎた所から下降。
白いベージュがかった石畳の路面から
1mほど上にいた。



路面と並行して私はスーと前に
ゆっくりと進んでいく。


視界はまた呼吸と共に上下に
かすかに揺れている。


また石畳と同じ素材の石や岩で作られた
さほど高くない塀が見えてきた。


その塀を越えると視線の向こうに

燦然と光り輝く青い海が
視界いっぱいに広がった。



対岸には何も見えない。
そこに見えるのはただただ光り輝く
真っ青な海と水色の空。
地中海のマルタ島のような風景だった。

はじめて見る景色だった。


周りには誰もいなかった。
他のエネルギーも感じなかった。


不思議と私はその塀から向こうに
行こうと思わなかった。
海の上を飛ぼうとも思わなかった。
しばらくその塀越しに美しい風景を見ていた。


マルタ2
マルタ島


どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえた。



その瞬間

白い塀からスーッと
引っ張られるように後退し、
一瞬で黒いチューブの中に入り体が浮いた。


足からウォータースライダーで
滑り落ちているような感覚だ。


誰かに足から引っ張られるように、
その黒いチューブの滑り台から
スルリと落ちた。


手術室の私の体に戻った。
女医さんの声が優しく聞こえた。

「手術は終わりましたよ」

その声はまるで母親のようだった。
私は深い安堵感で胸がいっぱいになった。

「先生、大好き」

私の口から自然に言葉が滑り落ちた。


天使か死神か



手術は6時間半を要した。

目覚めてからは手術中の
光景をすべて忘れた。



ただ、つの部屋と壁だけが
記憶に残った。

、、、


なんの意味だろうと
頭の中がという数字でぐるぐるした。



手術が終わったばかりで
周りは慌ただしく、
私はストレッチャーに乗せられ
部屋まで戻った。


母が心配そうに私を覗き込んでいた。


それからしばらくは、
手術後の回復に意識を集中させた。
唸るような痛みは7日目で治まった。




その晩、不思議な出来事が起きた。


就寝時間が過ぎ
ナースステーションも静かになり
個室でボーッと天井をみていると


突然、ドアも窓も閉まっているはずの
私の部屋のカーテンが


バサッ


と左から右にひるがえった。


誰かが猛ダッシュで横切ったように


ビュン


と風が吹き抜けた。
思わず

オー、マイ、ゴッド!!!


と声にならない声で
なぜか英語で叫んだ。


私はクリスチャンではない。
仏教徒だ。


開いた口が塞がらないとは
よく言ったものだ。


驚きのあまり本当に
開いた口が塞がらないのだ。


体が硬直した。


しかし、なぜか恐怖を感じなかった。



しばらく呆然と宙を見ていた。


次は天使か死神が窓から入ってくるのか?
ハラハラ、ドキドキしながら
時が過ぎるのを静かに待った。



恐る恐る首を左右に振り
窓とドアが閉まっているか再度確認した。
やはり閉まっている。



あ、あーっ、あれは、きっと


私自身だったんだ


と思った。



それか、もし本当にいるのなら

守護神


または最近よく聞く


ハイヤーセルフ


というものなのかと思った。



それまで私は全くスピリチュアルに
傾倒するタイプではなかった。


と言っても


子供の頃からジラジラと
生きた人間のように
青白く燃える火の玉が
まっしぐらに目的地に進んでいるのを見たり


大人になってからも
正直に言うとこの手術をする前まで
色々な体験をしてきた。


でも、この経験から少し状況が変わった。



あの風は私自身が
私自身を心配して見守っていたのかも
しれない。


精神的にも体力的にも回復してきたので

「もう大丈夫だよ」



と安心し立ち去ったのかもしれない。


私は見えないものに守られていると思った。

そして、この体験以降
もう心霊体験は起きなくなった。


前世


3週間の入院生活が終わり
退院し自宅に戻った。


つの部屋の意味が頭を離れなかった。


どうせ信じてもらえないだろうけど
一笑されて終わると思うけど
麻酔科医である夫に意を決して聞いてみた。

前世ってあると思う?




すると彼は

うん

と小さな声でパソコンを見ながら答えた。


彼は今までこういう類の話を
眉唾と言わんばかりに
全く意に介さないタイプの人間で



死んだら人は無になる。魂もへったくれもない。何もなくなるんだ。ゼロ



と20年間言い続けていたので、
私は天地がひっくり返るくらい驚いた。


そんな彼が「うん」と言った。


いま「うん」と言ったよな。
確かに「うん」と言った。
と自分で自分の耳を空耳でないか
確認しながら言葉を反芻していると、

ポッと私の思考回路がすべて繋がった。





4つの部屋は私の前世。
いままで4度生きた世界を垣間見たんだ。


手術中にみた世界の記憶を、
糸を手繰るように思い出した。

洪水のように記憶が蘇ってきた。


ということは
今回が5回目の人生を生きているんだ。


今生で出会った人は、
前世で出会っていた人達だったんだ。



親、夫、家族、友達、親戚、
今まで出会った全ての人に心から感謝をした。



とめどなく涙がこぼれた。

第3話に続く


ルーム 4 臨死体験 第1話」 、 「ルーム 4 臨死体験 第3話

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