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海外の医療制度⑥ デンマーク

電子政府ランキング1位(2018)、世界幸福度ランキング2位(2019)、汚職が少ない国ランキング1位(2019)・・・
デンマークといえば様々なランキングで世界のトップにたつ注目の国だ。テクノロジーを活用しながら幸福度が高いクリーンな国というイメージだろうか。

もう少し、デンマークを描写するキーワードを考えて見ると以下のようなものが出てくる。
・人間中心思考
・循環型社会
・ITリテラシー強国
・国民の政治への参加
・高負担・高福祉
・オープンデータ化
・全国民コホート参加
・ヒュッゲ
・多様な専門家による産官学連携
・高付加価値の産業創出
(かつてのGoogle mapやSkype、レゴなど)
資源は少ないながら、自国のバリューを定義し、発揮するためのデザイン設計を包括的に行なっている。人間を中心におきながらその制度設計は非常にコンセプチュアルでかつロジカルだ。こういう点が我が国とはまた違った印象を受ける。
そんなデンマークでは国民の健康に関して中長期的な観点も含めてどんな施策が取られているのか。特徴的な点を5つのキーワードからみていきたい。

①高負担・高福祉
福祉制度に関してデンマークは大学院までは教育費が無料だ。そして医療・介護費用も無料。
なぜこんなことが実現できるのか。それはデンマーク国民が負担するこの高い税率によって成り立っていると言える(消費税でいうと25%)。そのため政治への参加も活発で、一人一人がしっかり意見を持っている。国民は総じて高負担から得られる見返りに納得しているという。

②GP制度
デンマークはフランスやイギリスと同じくGP制度を採用しており、GPがゲートキーパーの役割を果たしている。専門医や検査機関にはGPからの紹介によりアクセスできるようになっている。因みにGPは大体600名を担当することになっており、デンマーク人の90%は1年に1回はGPと連絡を取っているそうだ。

③患者中心の医療情報共有システム
デンマークは国民のITリテラシーが極めて高い国。2015年段階で国民の95%がインターネットにアクセスできる状態を作っている。しかし、デジタル化戦略は短期間で推し進めてきたわけではなく、政府、地方自治体などが2001年から継続的に取り組んできた結果でもある。
2000年初頭に電子書面の導入を皮切りに、税金還付や年金受給の公共決済口座NemKonto、医療ポータルサイトのsundhed.dk、雇用や失業・結婚や離婚など様々な行政サービスをワンストップで済ませられる市民ポータルサイトborger.bkなどのサービスが開始された。これにより、デンマーク国民は好きな時にサイトにアクセスし、個人データを閲覧できるようになり、暮らしにかかわるさまざまなサービス・手続きがオンラインで受けられるようになった。
かかりつけ医は2004年にsundhed上で患者の医療データを共有することが法的に義務づけられるようになり、患者に過去の検査、通院、入院、投薬履歴などの医療情報が共有された。これにより患者と医療従事者が対等な立場で治療に当たれるようになった。患者の個人データは医療情報含めて患者に帰属し、開示も国民が選択する。

④オープンデータ化
デンマークでは市民のサービスに関わるデータが大量に公的機関にストックされているといる。日本ではマイナンバーが2015年に導入されたが、デンマークでは1968年にCPR(Central Persons Registration)ナンバーが導入されており、すでに50年以上の実績がある。このマイナンバーには学歴、職業、医療情報に到るまであらゆる情報が紐づいている。データは自治体が管理しており、都市開発や社会課題の解決において公的データを自由に活用できることや環境を整備することを目的に運営されている。
また、オープンデータを活用して遠隔医療への取り組みも積極的に行われている。デンマークは人口密度が低く、医療機関も少ないためなるべく簡単に病院に出向くことができない。現在は妊婦の合併症防止やCOPDの治療に適応が注目されている。

⑤全国民コホート参加
デンマークでは多くの患者情報が公共機関でストックされているが、そのデータは全国民が対象で、全国民がコホートに参加している。
その情報の一元管理を行う上で中心的な役割を担っているのがDanish National Biobankの存在だ。2012年にデンマーク国立血清研究所が主導し、各病院等に散らばって保存されていた血液やDNA等のデータがバイオバンクに集められた。
特に1976年以降に生まれた全デンマーク人に関して出生時に踵から血液を取り、凍結保存。DNA情報も登録されている。バイオバンクの保存するデータは世界でも最大規模を誇り、2019年6月時点で約2,530万の生体サンプルを保存しているそうだ。なので後に病気になった時に過去の健康だった時との血液サンプルの比較ができたり、健常の同年代の層と比較することができる。そこから何か有益な情報が得られるかもしれない。このバイオバンクのデータは審査を経て、国民の利益になると判断された場合に研究者に無料で提供される。運営はデンマークの大手企業の出資によって支えられている。

このように、デンマークでは国民からの理解を得ながら、電子化を推し進め、医療者と患者間でのシームレスな医療情報の共有を実現し、高付加価値な健康サービスをために国民全員を巻き込んでデータの収集が積極的に行われてきた。デンマークは国としての構想をコンセプチュアルに描き、そのための仕組みを着実に整備してきた。
日本でバイオデータの収集は東北メディカル・メガバンク機構などで行われ、サンプルも3世代分には積み上がってきいるが、国を巻き込んでのプロジェクトとはなっていない。
国民を巻き込んでの政策推進に関してデンマークに学ぶところは多いにあると感じた。


参考文献・記事:
税金の高さは世界トップ。国民が喜んで払う理由とは?
デンマークのスマートシティ

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