光を透かす刺繍 プルスレッド刺繍/アジュール刺繍

アジュールとはフランス語で透けるという意味です。国によっては呼び方が異なり、pulled theread embroidery(プルドスレッド刺繍)とも呼ばれます。

文献を探すにも、アジュール刺繍ではあまり出てきません。フランスやベルギーなどフランス語圏より、スカンジナビアの方でよく使われたテクニックだったので、プルスレ刺繍やカウントワークというワードの方が広く採用されているように感じます。

この刺繍はおもしろくて、布の織り糸をぎゅーっと引っ張って穴を開けながら模様を作っていきます。糸を抜いたり、布を切っていないのに穴があいているのがすごいところ。

穴が空いているので、光に透かすとすごくきれい!

たまにレースとカテゴライズされる時もありますが、刺繍の一種です。プルスレ刺繍は、画像のように、幾何学模様的にマス目を区切って、中をいろんなステッチで埋めていくことが多いです。植物などの模様を図案にする場合は、植物のアウトラインをチェーンステッチなどで縁取ってから、中にプルスレ刺繍をほどこします。

画像1

光を透かせたところ。

画像2

プルスレッド刺繍(長いので、以下、プルスレ刺繍)の歴史をさかのぼってみると、17世紀頃のイタリアのアッシジ刺繍など、ステッチに濃い赤や緑を色を使うような刺繍の背景として、プルスレ刺繍が使われてたのが始まりのようです。モチーフを引き立たせるために使われていたのかなと思います。17世紀頃は、フォーサイドステッチではなく、2サイドクロスステッチが使われていました。

18世紀になるとヨーロッパ各地(フランス、ドイツ、デンマーク、イギリスなど)で、それぞれの発展をしていきます。特にデンマークではTonder embroideryという、まさにこのプルスレ刺繍の技術を使った刺繍がでてきます。お花の中にプルスレ刺繍のステッチを入れたものです。

アンティークの刺繍アイテムは、赤ちゃん用の帽子やよだれかけ、靴などが多いのですが、プルスレ刺繍は赤ちゃん用の衣類がほとんどないそうです。このステッチや生地が赤ちゃん用品に適していなかったと思われていたのでしょうか。プルスレ刺繍が発展してできたアイシャー刺繍は、ベビーグッズがたくさん残されているので、すごく不思議です。。この時代は、男の人の洋服にも刺繍がたっぷり施されているのが良しとされていました。なので、男性用のチョッキが多く残されています。

19世紀になるとサテンステッチやブロドリーアングレーズ(カットワーク刺繍)にとってかわられるようになり、プルスレ刺繍はあまり見られなくなります。

プルスレ刺繍のステッチは、ドイツのシュバルム刺繍、ドレスデン刺繍などと共通なのが面白いところ。白糸刺繍は共通項が多く、ヨーロッパ各地でいろんな刺繍技法が、お互いに影響し合いながら発展していったんだなぁと感じます。

刺繍を生業にしている人たちや、貴族のおうちに使える侍女の人たちは、お洗濯をするときに、いろいろな情報を交換していたそうなので「◯◯刺繍のサンプラーを手に入れたわよ」とか、ゴシップの間に刺繍話も入れていたんだなと思うと、胸がキュンとします。


Voicy
刺繍ラジオfromデンマーク
よかったら刺繍や編み物の作業のお供に聞いてください〜。
リンクは再生回数が多かった手芸留学のエピソードです。

この記事が参加している募集

404美術館

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?