【短編】もう、寝ようか。
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もう、寝ようか。
剃刀で、指を切った。
血が止まらなくて、
じんじんとうずいて、
僕の体液がどくどくと、
白を、染めていく。
誰かに知って欲しくて、
誰かに聞いて欲しくて、
真夜中の掲示板、
書き込む途中で我に返る。
ああ、早く寝なくっちゃ。
明日も、太陽は
知らん顔で追いかけてくるから
今は、今は眠りにつこう。
そうして、言葉を忘れるの。
思考が停止した昼下がり
君はいつもと変わらず笑顔で
私もいつもと変わらず笑顔で
たわいのない言葉は
喧騒の中に吸い込まれていく。
確か、あなたに
知って欲しいことがあって
確か、あなたに
伝えたい感情があって
幸せな太陽は無残にも
オモイをオモイを
溶かしていって
春の匂いは無情にも
キモチをキモチを
流していった。
もう、寝ようか。
先取りで、海へ行った。
空が海に溶けて、
ざあざあとひびいて、
僕の心臓がどくどくと、
闇を、叩いている。
あなたに知って欲しくて、
あなたに聞いて欲しくて、
携帯の文字盤、
叩く途中で我に返る。
ああ、今は迷惑だな
昨日も、やりとりは
深夜2時まで続いていたから。
今は、今は眠りにつこう。
そうして心を忘れるの。
思考開始の明け方に
君との夢を見たけれど、
僕との夢を見たけれど、
幸せだった記憶は
時計の針にかき消されていく。
確か、あなたに
知って欲しいことがあって
確か、あなたに
伝えたい感情があって
確か、あなたに
知って欲しい言葉があって
確か、あなたに
伝えたい想いがあって
ああ、今日はもう寝なくちゃ。
ベットの上で溶けていく。
心も、体も、全て。
もう少し、もう少しで
この胸の痛みは消えるから、
言葉さえ、残らなければ
形さえ、残らなければ
この感情は消えるから。
だから、もう、
寝ようか。
。