【短編】旧人類

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いつだったか、
『君の痛みがわかるよ』
とヒトに言われた時に、
『キモチワルイ』と感じた。
抱きしめてくれた腕を
今すぐ拒絶したかったけれど
それをするのはあまりにも
可哀想だったから
仕方なく受け入れた。

その時、
私は『オワッテル』と思った。


鼻の骨の上を横切る涙が
シミになっていくのを感じながら
脳を溶かしてしまいたいと思った。


優しくありたいと努め、生きたのに
誰にも何も言われず
それを嘆くと同時に
対価を求める自分が醜いと感じた。


いつだったか、
『君の愛は胸焼けがする』
と、ヒトに言われた時に、
『ニンゲンナンテシンジナイ』と感じた。
でも、孤独の振りをして私は
きっと、
誰かに愛されたかった。


対価を求めて優しさを売った少女には
冷たい雪しか降ってこなかった。
気休めのマッチの灯火で
誤魔化しながら生きてきて
でも身体はかじかんだままだった。


言葉にしなきゃ分からないと
Googleで出てきた
どこの誰が言ってるのかわからない
嘘くさいサイトを信じて
言葉にしたらヒトに捨てられた。

扉を閉じて、鍵の場所を忘れてしまって
『素直に生きるのがいいよね』と、
笑顔で語るあのヒトの心無い正論を
鋼鉄の笑顔で受け止めながら
でも体に鏃が刺さったまま
見えない血を流して
今日も、生きている私は、


黄色信号が主役の道路の真ん中。
白線の上を闊歩して
都合よく突っ込んでくる塊を期待しながら
河川敷をめざして歩く。
飛び込む勇気なんかないくせに。
同じ朝を迎えるくせに。



ほら、どうせ。
気づいたら、ベッドの上で。
愛が滅んだ世界で
最後の生き残りが
雑踏の中、生き長らえるために
満員電車に揺られていくの。

ヒトは私を子供だと笑うだろうけど
どうせヒトには分からないから
私は、たったひとり。
この世界に取り残された旧人類。


fin.

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