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『風通しのよさ』とはなんなのか!

求人サイトを見るとしばしば見かける言葉がある。

風通しのよい会社です!

何だか誇らしげに書かれているこの一文にいつも違和感を感じていました。

このコロナ禍の世の中では「風通しのよさ(空間)」はきっとオフィス環境の良さを伝える指標の一つとなるかもしれませんが、今回ここに綴るのは、風速計では測定することのできない『風通し』、そう、偉そうなおじさんたちが念仏のように唱える『風通しのよさ』です。

今回は以前から感じていたこの言葉の違和感について熟考した結果をまとめてみました。

転職活動界における都市伝説

私はこれまで数回転職をしています。

転職活動中に何回か耳にしたことがあり、きっと転職者たちの間に都市伝説のように囁かれている言葉があります。

風通しのよい会社には気をつけろ

風通しの良い会社に気をつけろとは全く穏やかでない感じですが、この言葉が表しているのは、風通しが良いと自慢している会社ほど何かきっと裏がある考えた方が良いということです。

現在の日本においては、私のような複数の会社を経験していることは少ないと思います。きっと大多数の人たちは新卒で入った会社に定年まで勤め上げるというキャリアを歩むことでしょう。

さて、このような日本のスタンダードのキャリアを歩んでいる人たちが、本来の意味でのコミュニケーションが闊達な「風通しの良い会社」に入社して、会社員生活を送っていることとします。

この「風通しの良い会社」の社員は現在置かれている状況が会社についてが認識の基準になることでしょう。いわゆる「あたりまえ」です。

この当たり前のように風通しの良い会社の社員が採用活動をするときに、敢えて求人広告に「弊社は風通しの良い会社です」などと書くでしょうか。風通しのよさは空気のように存在し、認識する必要のないような状況になっていると推測できるので、敢えて言葉にするという思考が生まれるでしょうか。

例えるならば、「弊社には屋根があり壁があり、机も椅子もあり、PCも完備しています」と求人広告に書かないのと同じレベルで「あたりまえ」のことに触れるでしょうか。

わざわざ、「風通しのよさ」に言及している求人広告を掲載した企業はもしかしたら、会社の風通しについて何らかの認識があると思われます。

それはもしかしたら、以前は風通しが悪かったのを涙ぐましい努力により克服した結果かもしれません。

一方で、「風通しの良い会社です」と言っている会社では、一部のメンバーのみが風通しのよさを実感し、実際は風が循環せず空気が澱んでいるような会社かもしれません。実際、このようなコミュニケーション不全な会社があることも身をもって経験してきました。

そして、現在勤める会社では、とある事件をきっかけに風通しのよさを追求し始め、事あるごとに「風通し」と声高らかに叫びまくる光景が繰り広げられています。

その結果、風通しのよさは一段と悪くなり、非常に残念な日本企業へと変貌を遂げつつあります。

風通しのよさの様態を分類してみる

これまで実際に経験してきたことを踏まえ考えてみた結果、風通しの良さは3つに分類できるのではないかと考えました。但し、この3分類の中には本来の意味での風通しの良さは含まれていません。なぜかって?それは空気みたいなものですから・・・

その3分類とは以下の通りです。

・『サークル型』風通しのよさ
・『参勤交代型風』通しの良さ
・『ダウンバースト型』風通しのよさ

それぞれについて、詳しく書いていきたいと思います。

サークル型風通しの良さについて

一見すると、コミュニケーション闊達で楽しそうに働いている様子が垣間見れる「サークル型風通し」の会社。

サークル型風通しの会社は営業主導の会社や比較的構成員が若い会社(部署)に見られます。

まるで大学のサークルのように皆ワイワイと楽しげに、自由に発言できる雰囲気が垣間見れます。上下関係もさほど厳格ではなく、皆それぞれ構成員として団結し、絆という言葉を胸に日々奮闘しているイメージです。

確かに、そのサークルのようなグループに所属することができれば、日常から情報の共有も行われることでしょう。

しかし、会社で働く人すべてがワイワイと明るくコミュニケーション取れる人間とは限りません。中にはすごく優秀なのに大人しく口下手な人、ワイワイとテンションが高いことが苦手な人もいます。この人たちのような人たちは情報共有の輪から漏れてしまい必要な情報を得ることができません。そして、ワイワイと楽し気なグループも大人しい優秀な人の知恵を得ることなく仲間内の勢いだけで進んでいってしまうこともあるでしょう。

また、サークルのように楽しいこと優先なので、いざ問題が起きた時にはコミュニケーション不全に陥りがちです。楽しさと勢いで進んできたため、躓き、勢いがそがれた時にはそれぞれが守りに入り、蜘蛛の子を散らすように瓦解し、個人主義の方向へと走り始めてしまうこともあります。

このサークル型風通し企業が「真の風通し企業」になる方法を考えてみました。

それはデジタル技術を活用したコミュニケーションを取ることです。

いま、強制的にテレワーク社会への変貌を遂げている真っ只中ですが、そのおかげで、TeamsやSlackに代表されるようなコミュニケーションツールやナレッジ共有ツールが脚光を浴びてきました。

これらのコミュニケーションツールがワイワイとしている人間とおとなしい人間との懸け橋になる可能性があります。そして、おとなしい人間とコミュニケーションツールには比較的親和性が高いような気がします。

困りごとをコミュニケーションツールによって共有し、おとなしい人の知識経験を引き出す。今までは、会話の輪に入れないのでワイワイとしていた人たちが持っていた問題点におとなしい人たちは触れることはできませんでした。しかし、コミュニケーションツールによって、おとなしい人は画面を通じて問題があることを把握し、会話ができるのでコミュニケーションに参加し、解決策を提示できるかもしれません。また、ワイワイした人々は意外にも大人しい人から解決策を提案してもらいおとなしい人々の知識が必要と認識するかもしれません。ワイワイの民のアクセルとおとなしさの民のブレーキを両輪として、どんな場面にも対応できる可能性が高まります。

お互いを認め合うというマインドセットは必要ですが、情報を相互に共有していくことで、真の風通しのよい会社へと変貌を遂げる可能性があるのがサークル型風通し企業だと考えます。

実際、コミュニケーションツールを導入した企業では、同僚の意外な良い側面が見えたとの意見もあるようです。

参勤交代型風通しのよさについて

皆さんも歴史の授業で習った参勤交代。江戸時代に行われており、将軍のいる江戸に数年に一度馳せ参ずるという制度です。参勤交代には将軍の威光を大名に知らしめる意味もあったとか。

そして、その参勤交代が現在の会社でも行われているのです。例えば、喫煙室(通称・タバコ部屋、ヤニ部屋)や地方拠点の社員が本社に来た時、お昼休み・定時後などなど。

参勤交代型風通しの特徴は権力・情報を掌握している人物のもとへ馳せ参じたものだけへと情報の共有がなされるのです。

参勤交代という言葉を思いついたのは、普段は地方拠点にいる出張者が、私のいる本社へ来た時のことでした。その出張者、なんと本社に来た時にご丁寧に菓子折りを持って出張してきたのです。当時、入社したばかりの私は「あの人は退職するんだな」と思っていました。しかし、その人はただ業務で本社に出張してきたのです。当時の私はカルチャーショックを受けたことを今でも忘れません。地方拠点という距離的な制約があるため、中央権力に認識されるためにはどうやら貢ぎ物が必要なようです。

この一件以来、会社の様子をいろいろと観察してみたところ様々な参勤交代を見つけることができました。

参勤交代その1:喫煙室

権力を持った人間が喫煙室に向かうときに、すかさず同じタイミングでタバコ部屋へ向かう人間が数名いることを発見しました。しかも、ついさっきタバコ吸ってきたばっかりじゃないかというときも、すかさず権力者のあとを追うのです。

そして、喫煙室で密なコミュニケーションを取り、常に顔見せをすることにより自分の存在を権力を持つ人に認識させるのです。そのため、健康のために禁煙をしたにもかかわらず、喫煙室で受ける恩恵と自分の健康を天秤にかけた結果、また喫煙を再開するという人を実際目撃しました。

喫煙室はいつしか、一部の喫煙者という人間の公式な社交場となり、喫煙室という密室での会話によって会社の方向性や人事異動が決められることが日常となっていくのです。それが数世代にわたり行われることによって、喫煙室はどの会議室よりも重要な決定が行われていく神聖な場所と進化していくのです。

健康経営が叫ばれるようになった昨今、喫煙室廃止の動きもあるようですが、喫煙室の恩恵を受けてきた人間の断固とした抵抗により今もなお喫煙室は重要な決定がなされる神聖な場であり続けるのです。

参勤交代その2:お昼休み

お昼時、オフィスの入り口では、まるで大奥の廊下の行列(こちらは男ばかりですが)か「白い巨塔」の教授の回診のような行列をしばしば見ることができます。

これは権力者を先頭にランチタイムという戦場へ出陣する行列なのです。まるで、討ち入りに向かう赤穂浪士のごとく凛々しく定食屋へ向かって行きます。もちろん、行先の決定権は先頭を歩く権力者。どんなに苦手な食べ物があろうが、アレルギーがあろうが、決定されたお店に文句をつけることは許されません。文句をつけてしまえば、このお昼の出陣式に二度と入れなくなってしまうことも否定できないのです。

このように参勤交代型風通しではランチタイムでもまた貴重なコミュニケーションの時間です。お昼は栄養を取る時間ではないのです。権力者が把握している情報を聞き出し、また会社がどのような方向に向かうかを把握する時間なのです。

このため、参勤交代の参加している人は概ね早食いです。きっと早食いしすぎてお腹も出ている傾向にあるかもしれません。

参勤交代その3:業務終了後

参勤交代型風通しにおいて忘れてはならない、むしろ、これぞ参勤交代というものが、業務終了後の飲み会の席です。世の中には、飲みニュケーションという忌々しい言葉が一般的に知られているくらい大切な時間です。

飲みニュケーションと本来の意味での『風通しの良さ』は対局にあるものではないではないかと私は思います。

飲みニュケーションに参加した人々はお互いの時間を共有し語り合うことで絆を深めていくことでしょう。そして、アルコールによって思考能力も低下し同じことを何回も言われたり、挙句の果てに、謂れもないことで説教を受けたりすることもあります。

しかし、こんなことで憤ってはいけません。耐えるのです。むしろ、耐えるという感情はないかもしれません。何世代も受け継げられてきたこの儀式は参加しているメンバーにとっては当たり前のことかもしれません。様々な情報を得て、会社の方向性をいち早く確認するためには、何があろうが飲み会には参加しなければならないのです。

そして、次の日の仕事はじまりには、「昨日はありがとうございました。(決して、おごってもらっているわけではない)」などと、お互いが飲みニュケーションの一員であると改めて確かめ合うのです。

これら3つの例にあるように、参勤交代型風通しの良さは権力を見せつける場でもあります。そして、その権力を称え、自己犠牲を厭わない者のみに情報が与えられるのです。そのため、お酒が飲めない、タバコを吸わない人たちや、お昼はゆっくり過ごしたい人々には全く情報共有がされないのです。しかし、参勤交代に参加している人は自分は我慢をしてでもコミュニケーションの場へ参加しているため、自己犠牲をしない人々が情報を得られないのは、当然であると考えます。情報を得るためには自己犠牲が必要という文化ができあがり、一部の人間のみによる闊達なコミュニケーションの場が出来上がるのです。

ダウンバースト型風通しのよさについて

ダウンバーストとはいわゆる下降気流のことですが、ただの下降気流ではなく風が地面に到達したときに災害を起こすほどの気流のことをいうそうです。

そして、ダウンバースト型風通しとは、ダウンバーストのごとく一方的に情報が流れており、しかも強風であるので、逆風を吹かせることは一切不可能な状態のことを言います。

ダウンバースト型風通しは、独裁的な経営者により行われていると思われるかもしれません。しかし、経営者だけではなく一部の部署による一方通行のコミュニケーションによって行われている場合もあります。

独裁的経営者によるダウンバースト型コミュニケーションは想像がつきやすいかと思いますので、今回は一部の部署によるダウンバーストについて書いていきます。

一部の部署によるダウンバースト型コミュニケーションは会社が何か重大な危機に陥った時に行われがちな様態です。そして、風の吹き出し口となるのは経営企画や総務部・人事部などのいわゆる管理部門といわれる部署です。

会社に何か問題が発生したときには、その問題を分析し、問題が起こった原因を是正していかなくてはなりません。会社でよく聞くPDCAサイクルを回すというフェーズに移行します。PDCAサイクルのP(プラン)を立てる部門こそが管理部門なのです。

そして、管理部門が問題を分析した結果、行きつく先が「コミュニケーション不足によるもの」という結論に概ね至ります。
往々にして、管理部門というものは問題に対して全体を眺め省みて、未来志向の新たな手立てを立てるのではなく、対症療法的な施策しか実施しません。

その結果、謎の儀式が会社に追加されることあります。

・コミュニケーションのために社員に3分スピーチをやらせよう
・コミュニケーションのために上司へ一方通行の報告書を書かせよう
・理念が浸透していないので、皆で理念を唱和しよう
・部下の業務を把握するために、何時に何をしたか記録させよう

嘘のようなびっくりな出来事ですが、実際にこれらすべて経験しました。これらの儀式は上手くやれば、良い方向性に向かうこともあるかもしれません。しかし、ダウンバースト型風通しにおいては一方通行のため、フィードバックがないのです。やることに意味があるから振り返りなんて必要ないのです。
企業理念について、かの有名な経営学者『ドラッカー』もその重要性について様々な著書に記しています。経営理念はその会社が果たすべき使命を表明するものであり、社員はその理念に基づき行動すべきものです。大乗仏教が如く念仏のように経営理念を唱えるだけで、理念の共有がなされるでしょうか。しかも、無理やり言わせることになんの意味があるのでしょうか。
私が以前所属していた企業グループでは、新しいコーポレートメッセージを制定した際に、全グループ社員に対しとてもわかりやすい動画を配信し、そのメッセージの意味することについて丁寧に説明をしました。それを見た私は、『夢をかたちづくりたい』と思ったものです
しかし、ダウンバースト型風通しにおいては、怪しい宗教団体が洗脳をするが如く、同じことを何度も言わせ、考える気力・疑問に思う気持ちを奪っていくのです。

また、管理部門というところはまだ対外的に発表されていないセンシティブな情報にふれることができるため、一部の人間は「選ばれし者」感を感じ始めるものが現れます。

そのような「選ばれし者」のコミュニケーションは一方的な情報の搾取です。選ばれし者はセンシティブな問題に対応するために、我々経理に相談をたまに持ち掛けてきたりもしますが、そこは選ばれし者なので情報を開示することなく一方的な相談のみをしてくるのです。
経理としては、全体像がつかめないので一般的な方法しか回答できませんが、あとになって情報が開示されたときに、あのときもっと詳しく聞くことができれば、もっと他の対応策を提示できたのにと後悔することが多々あります。
どの会社でも総務人事と経理は何故か仲が悪いことが多いのですが、同じ管理部門なのでもう少しこっちを信頼してくれればなと思います。

そして、経験上、総務や人事の人々は何故かIT技術に疎い方が多いので対応策がパワーで乗り切る脳筋な施策になりがちです。
そのような結果、先ほど挙げたような、スピーチや唱和のような謎の文化がうまれるのです。

このような施策を策定した管理部門の人々は社員が、皆同様に、スピーチし、報告し、理念を唱和するため、コミュニケーションが闊達になったという錯覚に陥ります。実際にコミュニケーションがとられているかどうかは確認する必要はありません。自分たちが計画したことが滞りなく行われることがコミュニケーションなのです。これが一部の部署によるダウンバースト型風通しなのです。

風通しを良くするために実施した施策なのに一方通行とは本末転倒な結果です。

風通しについておもうこと

以上、3つの風通しについて書いてきました。私はどちらかというと偏った考え方を持った人間なので、参考になるかどうかわかりません。むしろ、変な人間の長いつぶやき程度に見てもらえると嬉しいです。

しかし、このnoteを読んだ人が、自分の会社を考え、本当の風通しのよさについて思いを馳せ、風通しが良くなかったら本来の意味での風通しの良さを目指すきっかけの一つにでもなってくれたらいいなと思います。

ダイバーシティという言葉が認識されるようになった昨今、世の中にはいろんな人がいていろんな考え方があってそれをお互いに認め合い助け合うようなコミュニケーションが取れることが理想だと思います。

むかし、エヴァンゲリオンで人類補完計画というものがあり、人類が液体化しお互いの思考が通じ合い一つになってしまうというものがありました。
そこまでになる必要はないですが、コミュニケーションツール等を用いて必要なレベルに応じて必要な情報が得られ知恵を共有できる仕組みができたらいいなと妄想しております。
上辺だけのコミュニケーションなんて必要ないのです。ワイワイしてなくても必要な時に必要な人が必要な情報を得ることが出来さえすれば、それでいいのです。知恵の共有が業務を加速度的に進歩させるかもしれません。
3人寄れば文殊の知恵といいますが、何人も集まったら釈迦の知恵にまで匹敵できるかもしれませんよ。

以上、おわり。

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