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映画評「いとみち」〜圧巻の演奏〜

オール青森ロケ、鬼才横浜聡子監督、「市政の人々」を描いた最高傑作。こんなタレコミで、しかも2021年キネマ旬報第9位。観ないわけにはいかず、早速観てみましたの感想を報告します。

1.あらすじ

青森県の高校に通う相馬いとは、民俗学者でシングルファザーの父と津軽三味線の名手である祖母との3人暮らし。強烈な津軽弁がコンプレックスとなり、人付き合いが苦手となっていたいとは、いつの間にか心を閉ざすようになり、得意の三味線からもすっかり遠ざかっていた。そんな自分を変えようと、意を決してメイドカフェで働き始めるいと。

2.キャスト・スタッフ

キャスト
駒井蓮(相馬いと)
黒川芽以(葛西幸子)
横田真悠(福士智美)
中島歩(工藤優一郎)
古坂大魔王(成田太郎)
ジョナゴールド(伊丸岡早苗)
宇野祥平(青木)
西川洋子(相馬ハツヱ)
豊川悦司(相馬耕一)

スタッフ
監督・脚本:横浜聡子
原作:越谷オサム
音楽:渡邊琢磨

3.感想・考察

「人が歩けば道ができ、道を振り返れば歴史という景色が見えるど言う。わあの歴史はまんだ、どごさも見当たらね」
このナレーションから始まるこの映画は、言ってしまえば少女の成長ストーリーである。主人公の相馬いと(駒井蓮)は激しい津軽弁を駆使する生粋の青森人で、三味線の使い手である。

しかし、思春期になり人見知りも激しく、父親にも絶賛反抗期中である。そんな「いと」がふとしたことをきっかけに「メイド喫茶」でバイトを始め、様々さな経験を通じて成長していくお話しである。言ってしまえばそれだけである。

因みにこの映画では激しい津軽弁が連発されるが「字幕」はない。なので、途中聞き取れない部分も多分にある。それでも映画は観客を取り残してかまわず進んでいく。

母親も三味線の名手であったが早くに他界し、お婆ちゃん、父親、いとの3人家族でる。父親役を豊川悦司が演じており、この父親との距離感が少しづつ縮まっていく過程もいい。トヨエツの距離を置いて見守っている感じがとても丁寧に描かれている。

また、祖母役の「西川洋子」さんは実際の三味線の名手で、演技は初めてとあるが
このお婆ちゃんの演技もなかなか見事である。

メイド喫茶の先輩の幸子さんがまた、厳しくも優しく「いと」を見守っていく。まるで母親のように。その母親との思い出とリンクするシーンもあるので是非見て欲しい。

「いと」はバイト中にお客さんから痴漢行為をされるシーンがあるのだが、その際にも怖くてただ謝っている「いと」に対して「間違っていない
なら謝るな、そがいなことしたら、わ(自分のこと)もみんなもみんな傷付く。」とビシッと戒める。

メイド喫茶はオーナーの不祥事に巻き込まれながら、店長とバイトで必死に立て直しに動き、集客に「いと」がお客の前で得意の三味線を披露するクライマックへと向かっていく。このクライマックスの「いと」こと駒井蓮さんの演奏が圧巻である。

調べると駒井さんはこのために1年間必死に三味線を練習してきたとのこと。
三味線の良し悪しはわからないが、とにかくこの最後の演奏は『圧巻」である。
吹き替えでないこの演奏を見るだけでも、この映画を観る価値があると言っても過言でない。観客の中にお婆ちゃんがいるのだが、その表情は演技上の「孫」を見守る表情だけでなく、三味線の師匠としての温かな、包み込むような笑顔である。
それだけで駒井さんの演奏が高いレベルであることを証明しているのである。

ラストのシーンはわだかまりの解けた父親と登山で「岩木山」に登り、山頂から自分の住んでいる家の方へ向かって手を振りながら叫ぶシーンで終わる。最初の人見知りで声が小さく、父親ともギクシャクしていた思春期の少女が大きく成長したことをこの場面で描いている。そして、その手を振っている先にカメラは切り替わり、夕暮れ時で薄暗い道で優しく手を振る女性の後ろ姿を映し出す。それは娘を見守り、その成長を喜んでいる亡き母親の後ろ姿なのである。(きっとそうである。)

最後の岩木山


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