2019年面白かった本 ベスト5

年末すべりこみで振り返り。
そもそもたくさん読めていないのですが、自分では選ばない本をいくつも読めた良い年でした。 

1. 東畑開人「居るのはつらいよ」


東畑さんに「いるのはつらいよ」と言ってもらえて救われた人が、いったいどれだけいることでしょう。
私は、子育てのしんどさがうまく言葉にできなかったとき、ものすごく救われました。

いま振り返ると、息子が1歳を過ぎるころまでは、めまぐるしい非日常の連続で、アドレナリンが出まくってどうにかなる、みたいな感覚でした。
しかし、仕事にも復帰して、子育てが日常になった途端、どっと疲れるように。

息子はめちゃくちゃかわいくて、
家事はものすごく手抜きして、
休日のうち半分は夫に任せきりなのに、
なんでこんなにしんどいんだ、、
母親どころか人としてダメなんじゃないか、、

そう落ち込んでいるときに、この本で「依存労働」というワードを見て、ああ、一緒にいることそのものがしんどくてもいいんだと、ほっとしたのを覚えています。

子育て中じゃなかったとしても、私たちは社会の中でずっと誰かをケアし、誰かにケアされ生きていくと思うので、これからも大切な一冊であること間違いなし。

今年のじんぶん大賞、納得です。


2. 打越正行「ヤンキーと地元」

沖縄の厳しい地元社会を、10年以上暴走族の「パシリ」となって、内部で聞き取りをつづけた打越正行さんの記録です。

上間陽子さんの「裸足で駆ける」では、沖縄で暴力を受ける女性たち、子供を抱えて右往左往する女性たちが描かれていますが、打越さんの「ヤンキーと地元」は、その男性側の社会を描いた一冊。対になっているかのような。

彼らは時にパートナーを殴り、後輩を殴る。その背景には、いったいどんな社会構造があるのか、彼らはなぜ殴るのか。誰に殴られてきたのか。それで社会はどう成り立ち、どう変遷しているのか。

一人ひとりがどう生きてきたのかを、善悪ではなく、敬意を持ちながら参与観察をつづける打越さん。
その、とっても貴重な調査の記録です。必読。


3. 岸政彦「マンゴーと手榴弾」

岸政彦さん、大好きなんです。
今年は初めて朝日カルチャーセンターで講義を受けることが出来て、忘れられない出来事のひとつになりました。
最前列で聞いちゃったよ。爆笑の連続でした。

本書は2018年10月発行なのですが、ちゃんと読めたのが今年だったので、勝手に2019年扱い。
特にほれぼれした章がふたつありました。

ひとつは、岸さんの生活史の聞き取りへの姿勢。
相手の言葉をかぎかっこに入れたまま扱う、それは本当に誠実なのか?というお話。
「この人はこう語りました」として扱うだけではなく、語りの中身を「事実」として扱わなくていいのか?
かぎかっこを外すことは、本当に暴力なのか?


もうひとつは、沖縄戦の聞き取りで語られた、「タバコ」についてのエピソード。
赤ちゃんも大人も日々死んでいくような生活の中で、それでも大人の男性はタバコを手作りしていたのよ、という笑い話。
「この笑いのある語りは、沖縄戦の悲惨さを減じるのか?」という問いに、明確にNOと言い切ってくれた岸さんに、ありがとうを言いたいです。

私にとっては、多くの支持を得ている「この世界の片隅に」も同じようなイメージで、あの笑顔にあふれる温かい日常は、けして戦争の悲惨さを減じるものではない、と思います。

そして岸さん、これだけ人の話をまっすぐに聞きつづけて、冷静に文章にできるなんて、どういう精神構造なのかと思っていたら、精神的にも疲弊されているそうで。
非常に納得ですが、心配。


4. 鈴木大介「老人喰い」

振り込み詐欺の集団がどういう人たちで形成され、どうやって組織化されているのか、というルポタージュ。
夢中になって、ページをめくる手が止まりませんでした。

著者がメンバー一人ひとりと関係性を築いて取材しているので、彼らの根底にある思考、そこに至るまでの境遇を、ていねいに拾い上げています。
特に、振り込み詐欺集団の研修とその後を、ストーリー仕立てで描いている章は圧巻。
この集団が、社会から振り落とされた一定の人たちの受け皿になっている事実を突きつけられます。

「払えるとは思えないギリギリのローン組ませて破産させるのは合法で、
何億も持っている年寄りから数百万もらうのは違法って、おかしくねえか」
という問いに、あなたは何と答えるでしょうか。

単なる内情だけでなく、詐欺集団が時代に合わせてどういう局面を迎えているのか、私たちはどうとらえるべきなのか、著者の考えがきっちりと書かれています。
一つの対象を追っていくと、社会全体の歪みが浮かんでくる。そのお手本のような一冊でした。


5.劉慈欣「三体」

内容をだいぶ忘れてしまったのですが、ものすごく久しぶりに、小説を一気読みできたことだけは覚えています。

理論物理学がストーリーの根幹部分に関わっているんですが、理論や物理に詳しくない自分でも、手に汗握って、睡眠時間を削って読んでしまいました。

自分の生きる拠りどころを失うと、一気にバランスを失って生きていけなくなることがありますが、それが宗教ではなく理論というストーリーは、やはり中国だからこそなのか。
とにかくダイナミックで、ものすごく面白いSF映画を見ているような気持ちになれます。
続編も早く読みたいです。



以上、2019年、面白かった本ベスト5でした。 

ファクトフルネス、三つ編みも今年でしたね。よかった。もちろん読書会入門も…!!
あと、1975年に出版された「ひとり暮しの戦後史」。独身女性にスポットをあてて、いかに彼女たちが時代に翻弄されているかを浮き彫りにした良書でした。 

本ではないけど、Amazonプライムビデオで公開された「一人っ子の国」にも圧倒されました。一人っ子政策のあいだ、何が起こっていたのか。国が出産に介入することの恐ろしさ、政策が終わっても彼らの人生は終わらないという事実に愕然としました。


読みかけは以下の通り。
・不寛容の果てに(まずこれを読むぞ)
・AI vs. 教科書が読めない子どもたち
・その後の不自由

来年はたくさん読むぞ!とは言えないので、コツコツと。

そういえば、読書会に通っていた時期は、周りが難しい本ばかり読んでいて、だいぶ雰囲気にのまれていたなぁと。そういう時期も貴重ではあるんですが、しばらくは読みやすい本を、生活のお供にしていたいと思います。


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