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Amazonプライムで「一人っ子の国」を見た


プライムビデオで、「一人っ子の国」が公開されていたので見た。
昨日今日と、通勤時間とお昼休みで3回も見てしまった。

監督のナンフー・ワンは、一人っ子政策まっただ中の中国で生まれた女性。
「ナンフー」というのは、「男の大黒柱」という意味だそうだ。
母親の名前は「ザオデイ」で、「弟を願う」という意味。
この時点でなかなかすごい。

そうやって、代々男の子が望まれる国で、一人っ子政策が実行された。
元々、自然な出生であれば男女比に大きく差は生じないが、
現在の中国では、女性より男性の方が3000万人多いと言われている。


じゃあ、存在するはずの3000万人の女性はどこにいるんだろうか。


ナンフーは、自分の親、祖父、村の元役人、助産師らに聞き取りを重ねる。
私が生まれたとき、一体この村で何が起こっていたのか?


Amazonオリジナルと聞いて、刺激性の強い映像やエピソードばかりが出てくるのかと思っていたら(偏見)、
ナンフーが自分の足で一人ずつに聞き取りを重ねる、地道なドキュメンタリーだった。
途中、残酷な写真が何度か出てくるが、あくまでもメインは聞き取りの映像だ。

年老いた彼らの語りは、とても静か。
声を荒らげる人は少ない。
ナンフーの母親も、おじもおばも「仕方がなかった」と繰り返す。
生まれたばかりの娘をバスケットに入れて山を登った、あの日を忘れたことはない。
でも、「あれは仕方がないのよ」と言い切る。


彼らは、一人っ子政策のずっと前に、大躍進(という名称と正反対の失策)によって何千万人が餓死する地獄を経験している。
だからこそ、党は一人っ子政策を人口に対する戦争だと喧伝する。
全員が生き延びようとしたら、みんな死んでしまう。
だから、仕方ない。戦わなければいけない。
私たちは、こうしないと生きていけないのよ。仕方ないわ。


一人しか生めない、
それ自体は強制力を持った政策だ。
じゃあ、男の子じゃなかったら。
もし、二人目を妊娠してしまったら。
そういう事実が目の前に並んだときに、多くの人は自ら選択する。
どれも最悪な選択肢の中から、そのうちのどれかを自ら選ぶ。

私たちからしたら、信じがたい境遇でも、彼らは確かにその中で生きている。
そこで、いろんな現実を選択して生きている。
それは最悪でもなんでもない、その人の日常なんだと突き付けられるドキュメンタリーだった。


(ちなみに、ドキュメンタリーの後半では、
一人っ子政策にさらされた家族や村の暮らしにとどまらない、もっと国や他国が絡んだ話も出てくる。
まったく知らなかったことだらけだった。)


30年以上つづいた一人っ子政策は、2015年に終わった。
村のいたるところに書かれた「2人目は産ませない」のスローガンは、もう「ふたりっ子はすばらしい」に書き換えられている。


多くの人は、その村に、昔からずっと住んで、現在も生活を営んでいる。
当時、村の女性に手術を受けさせた元役人も、
手術をした助産師も、
一人っ子の男の子も、
娘を捨てたあと息子が生まれずに子供を持てなかった家族も、
みんな同じ村で暮らしている。

それは、いったい何を意味するんだろう。
見終わってから、ずっと考えている。
彼らは今日も、あの村で暮らしているんだなと思う。


※付け足し 

アクトオブキリング、かぞくのくに(ヤンヨンヒ監督)が好きな人は必見。あとは、小説の大地(パールバック)やワイルドスワン(ユンチアン)を読んだ人は、そのあとの中国を見ている気持ちに。

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