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全てをひとり占めしたかった君へ。



 第2回夏の思い出成仏会です。どんだけ苦い思い出の多い人生なんだ。いつも、”大丈夫、人間は忘却の生き物だから、忘れていくことの方が多いよ”って思うんだけど、忘れたくないことの方がすぐどこかに行っちゃうの。好きな人と一緒に食べたアイスとか、好きなお弁当のおかずとか。わたしが間違えそうになったときは、「僕が好きなお弁当に入ってる卵のおかずと言えば?」ってクイズ出してね。



 学校を卒業して仕事を始めて少したった頃、専門の時から付き合っていた恋人と別れた。フリーになって、フットワークが軽くなったわたしは、地元に戻らなかった専門時代の友人とよく会うようになった。学生時代にバイトをしていたその子は、近くの大学にも友人がいて、一緒にいると交友関係が広がって楽しかった。

 外で飲んだ時に、気になる子ができた。大学生だった。彼女に尋ねると知り合いだったので、みんなで飲み会をすることになった。趣味は全然合わなそうだけど、かわいらしい見た目で見ているだけで癒された。恋人はいなくて、いじられキャラ。彼の家がみんなのたまり場だった。
 わたしからその子の話をされる前、彼女がどれだけその子と親しかったのかはわからないけれど、わたしがその子のことを気になっていることを話した途端に仲良くなったように見えた。そして、最終的には付き合った。 




 別の日、タコパしようと招集された。ひとりは軽音部に所属していて、いくつかの楽器ができて、そのときはまだそんなに有名じゃなかったマイヘアをカラオケで歌う男の子。もうひとりは彼の後輩で、彼とは対照的な、大人しめで真面目な印象だった。お昼にタコパしながら、花火したいねなんて話になって、夜には海に花火をしに行った。
 彼女がその男の子を気に入っていたのは知っていたけど、恋人もできたしわたしがちょっかいかけても平気だろうと思って、「わたしも寂しいときとかあるし、誰かと会いたいとき、彼と会おうかな。」みたいなことを伝えたら、はっきり「それは嫌。」と言われた。それに加えて「後輩くんは、(友達)のお気に入りだからだめだよ。」とまで言われる始末。
 そんなわけで、わたしは律儀に彼女の忠告を守って、寂しい夜には一人で飲み歩いた。




 彼女は彼氏ができてからも、ひとりで過ごす時間には耐えられなくて、隠れて外に出るようになって。彼氏も少しずつ壊れていって、ドアの隙間にシャー芯挟んでおいて、外に出たら分かるように小細工なんてするようになって。結局、別れてしまった。
 わたしは、この子と恋人関係になりたいと思っていたわけではなかったからいいけれど、相手が相手なら、ブチ切れ案件よね。ただ、この子たち経由で恋人ができたので、感謝している部分もある。

 軽音部の彼も、けっこうな遊び人だったけど、新しくできた彼女で落ちついたような話を聞いた。いつか、よく行くバーで会ったときに「久しぶり!相変わらず、ちっちゃいなぁ!エマ、かわいいから、大丈夫だよ!」と言って頭の上に手をのせられた。そういうところ全てが、どうしようもなく沼らせの天才っぽかったなと懐かしい気持ちになった。

 いまは、誰のこともなんとも思ってない。


***


 全てをひとり占めしたかった彼女のところには、結局、何も残らなかった。いまは、住むところも離れてしまったから、直接会うことはなくなったけれど、彼女には心身ともに健康でいてほしい。特に心の安定する相手と一緒にいたらいいなと思う。

 きょうも読んでくれてありがとうございます。またね。




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