「出られない」感のある装丁が作りたかった話(クリアカバー本の制作)
4月、5月のイベントは残念ながらなくなってしまったのですが、迷いつつも紙で刷って本を発行しました。もともと電子書籍も発行しているので、電子のみにした方が赤字や在庫を抱えない分安全なのですが、それでも刷りました。
それは、どうしてもやりたい装丁があったからです。
新刊は「セックスしないと出られない部屋から出られない話」というタイトルで、タイトル通りの状況でどたばたするラブコメなのですが、せっかく「出られない部屋」という設定なので、何か仕掛けをした装丁にしたいなと考えていました。
最初に考えたのは、箱入りにすることです。
プリントオンさんのオプションとして、実際に本に合わせた箱を作ることができます。
↑プリントオンさんのサイトより
箱にトムソン加工をして、本体の表紙が最初から除いているような窓を開けた箱をつくったら面白いのではないか。
箱から出して本を読み始める=二人を部屋から出す、という意味合いにもできてよいと思いました。
↑作っていたイメージデータ。主人公たち二人の顔が覗いている部分は、箱に四角く穴を開ける加工をして、下の本の表紙が見えるようにする構想でした。
ただ私自身、箱入りのハードカバー本は持っていますが、文庫本は持っていません。
確かに箱があると楽しいです。でも、現実的に収納するときは文庫本なら、箱から出して中身だけしまうかもしれません。本棚に箱入りのままはとても並べにくいです。
いちいち箱の中から出し入れをするのも現実的には面倒くさい。トムソン加工は、本棚の出し入れの際に破れやすい加工でもあります。
率直に言えば印刷費の面でも、この箱形案はとても嵩みます。
それよりももうちょっと、本の形自体は変えずに、収納もしやすい形の装丁にした方が現実的ではないか。
その結果、今回はクリアカバーをつけることにしました。
全体は白い曇ったような色になっていて、表紙右側の人物(市谷:受)の手で擦った部分だけ中が見えている、そんなイメージの表紙になっています。作者名とR18表記も、中の本の表記を見せるようにしました。
裏表紙は、カバーをしているときはただの箱です。
あらすじが拭ったような形で読めるようになっています。
カバーを外したところは実物でご確認ください。
これだと本体の文庫本だけでもちゃんと成立しますし、本棚にも入れられます。カバーをかけることで本自体が傷つきにくくなるといった、本来のカバーの効用もあります。
印刷費も別段安いものではないとはいえ、もともとカバー付きの文庫を作ることが多いので、つまりはその用紙を特殊なものに変えたというだけです。
カバーは白+CMYK印刷です。白が思ったより薄めなので、二度塗りだともっとよかったかもしれません。
↑実際に印刷に使った白の版(K100データ)。
今回、カバーはプリントオンさん、本体はいつものブロスさんという別々の印刷所への発注だったので、ずれが出ないかひやひやしました……。
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なるべく売り上げへのダメージを減らすために今回はシンプルな装丁で刷り部数を減らす、ということも考えましたが、もともとこの本が「出られない部屋」というテーマを扱っているから、作りたかった装丁です。他の話でやっても面白いかもしれませんが、それでは意味が変わってしまう。
また、少部数だとかえって単価が高くなるのでこの装丁がやれません。
そんなわけで、しばらく赤字になると思いますが、3年くらいかけて捌けたらいいかな、という気持ちで通常通りの数を刷りました。
遠い目をしつつ、気長に頒布していこうと思います。
通販はこちらです。よろしくお願いします。すべてカバーはつきます。
https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.php?product_id=644255