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消えた小人とブラックホール

今年の春、大学を卒業して実家に戻って
きた娘。あれから1ヶ月が経ったが
娘と共に運び込まれた大量の荷物は
ほとんどが手付かずの状態だ。


下宿をスタートした18歳からの4年間、
爆発的に物が増えたためだ。洋服、
ヘア&メイク用品、趣味のコスプレ衣装。


ウイッグに至っては、お店が開けるほど
持っている。薄毛に悩む時が来たら、私も
借りようかしらん。髪色も様々で
ファンキーなおばあちゃんになれそうだ(笑)

画材も増えた。芸大だから仕方ないが、
アナログで絵を描く時の画材は一通りある。
実家に戻ってくる前に、かなり処分したのに
行き場を失った荷物があふれかえっている。
これだけのものが、よくあのワンルームに
収まっていたなぁ。


当然、常に探し物をするハメになる。
と同時に、びっくりするくらい物をよく失くす。
部屋が片付かない原因にもなっているのだが
どこにでも物をポンと置くクセがある。


本人いわく、「考え事をしながら物を置くから
置いた場所を全く思い出せない」のだそうだ。
駅のトイレで携帯電話や財布を忘れたことは、
一度や二度ではない。


幸い、全て手元に戻ってきたので良かったけど。
私は「ポッと置き星人」と名付けている。


先日は、家の中で
「韓国のりがどっか行った!」と大騒ぎしていた。
10枚入りの小袋が忽然と消えたと言う。
「今から食べようと思って楽しみにしてたのにぃ」
と口を尖らせている。家族総出で探したけど
本当に見つからない。


Siriを呼ぶように

「Hey,Nori!」

って言ったら、出てくるかも。


我が家では、まことしやかに囁かれている噂が
ある。「この家にはブラックホールがある」説だ。
ある日突然、そこにあったはずのものが姿を消す。
そして、それは高確率で娘の持ち物なのだ。


今日は出かける前にベルトを大捜索。
「確かにここに置いたのに!」という娘の記憶が
正しかった試しがないので、ブラックホールの
仕業だと疑いつつ、また家族で探す。


その横で「もー、ベルトにGPS付けたい」とか
言って口を尖らせている。全く、困ったものだ。


でもね。私は知っている。

本当のことを。


かつて、我が家には女の子の小人がいた。
三番目が生まれて家事と育児に追われていた
私は、末っ子のお昼寝の時に疲れて寝落ちして
しまうことがよくあった。たぶん、30分くらい。


「しまった!」と思って慌てて目を覚ますと、
そこには信じられない光景が広がっていたのだ。
散らかったおもちゃや絵本はきちんと片付けられ
シンクにたまっていた食器も洗われていた。

寝ぼけたのかと目をこすったが、夢ではなかった。


「小人の靴屋」という物語に出てくる小人が、
我が家にもいたのだ。


『小人の靴屋』あらすじ〜

腕利きの靴職人のおじいさんと、それを支える
おばあさんは、靴が売れなくなってどんどん
貧しくなってしまう。

ある日、材料の革を置いたまま寝たところ、
翌朝立派な靴が出来上がっていた。
高値で売れた靴のお陰で、二人は豊かな
暮らしを手に入れた。夜中に靴が作られる
秘密を探ろうとこっそり見張ったところ、
それは小人のしわざだとわかる。

これまでのお礼に小さな服と靴をプレゼントすると
小人は喜んでそれを身につけ、二度と現れる
ことはなかった。しかし、二人はいつまでも
幸せに暮らした。 


事態をなかなか飲み込めない私の視界に、
娘が飛び込んできた。当時、小学校低学年
くらいだったと思う。満面の笑みで、
ぴょんぴょん飛び跳ねている。


「娘っちが片付けてくれたん?洗い物も?」

「うん!嬉しい?」

「うわー!お母さん、めっちゃ助かる!
ありがとうね」

それからも時々、私が末っ子とお昼寝している
間に、せっせとお片付けをしてくれた。


だから、知っているのだ。
本当は片付けが出来るんだってことを。


喜ぶ私を見て、嬉しそうにぴょんぴょん
飛び跳ねていた姿を、今でも鮮明に覚えている。
いつしか現れなくなったのは、なぜだろう。


「片付けても片付けなくても、
元気でいるだけでお母さんは嬉しいんだ」
ってバレてしまったのか。


消えた小人とブラックホール。
我が家最大のミステリーだ。


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