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北海道から届いたマスク

マスクを求めて

あれからもう一年以上経つんだなぁ。


どこを探しても、マスクが手に入らなかった
日のことを思い出す。布マスクでさえ、
作るための材料が品切れしていた。


コンビニ、ドラッグストア、スーパー。
どこかで売ってはいないかと、みんなが
あちこち探し回っていたと思う。


当時、受験生が二人いた我が家。
体調管理には細心の注意を払っていた。
マスクは喉から手が出るほど欲しかった。


買い置きのマスクが底をつきそうになり
「ハンカチとヘアゴムで即席マスクを
作るしかないね」と夫と話していた。


やっと見つけたマスク


そんなある日、フリマアプリで
使い捨てマスクが売られているのを見つけた。


転売が規制される前のことで、法外な値段の
ものが飛ぶように売れていた。


さすがに、50枚で8000円とかになると
我が家では手が出ない。ふと目に止まった
「7枚で送料込み500円」


これにしよう。その頃としては
妥当な価格だったのではないだろうか。



購入ボタンをポチッと押す。
待つこと数日。
A4サイズの茶封筒が届いた。

サプライズ


開けてみると、マスクは14枚ある。

あれ?別の人の物が間違って届いた??



すぐにメッセージを送った。


「7枚しか購入していないのですが
14枚入っています。もしかして
宛先をお間違えではないですか?」

すると返信があった。


「あれは私の気持ちです。少しでも
行き渡ればと送らせてもらいました。」


送り主は北海道の方だった。
当時、流行が深刻だった地域である。
にもかかわらず、分けて下さったのだ。


「よかったらお使いください」というメモが
なかったのは、善意の押し売りみたいに
なるのが嫌だったのかも知れない。


きっと謙虚な方なのだろう。
お気持ちが嬉しく、丁重にお礼を伝える。
後日、その方から同じ商品を再度購入した。

二度目のサプライズ


今度もA4サイズの茶封筒。
しかし、中にはマスクがぎっしりと
詰められていたのだ。


数えてみると28枚もある!
手紙も添えられていた。


「何人かの方に販売しましたが
枚数が多いと伝えてこられたのは
あなただけでした。

我が家も去年は受験でした。
大変な時期ですが、どうか
無事に乗り越えられますように!」




マスクの転売が法規制され
ドラッグストアやコンビニの
店員さんも心をすり減らしたと聞く。


世の中はギスギスしていたが、
私の心は温かくなった。



いきさつを聞いた子どもたちも
「ええ人やなぁ…。受験頑張るわ」
とつぶやいた。


見知らぬ土地の見知らぬ誰かが
合格を祈ってくれている。


エールの込められたマスクを付け
子ども達は神妙な面持ちで
受験会場へと向かって行った。


2020年 春。
おかげさまで、二人の息子は無事に合格した。


桜が咲いたご報告とマスクのお礼を
したためた手紙は、可愛らしいパッケージの
紅茶セットと一緒に、北の大地へと旅をした。


あのマスクは、どんな街から
我が家にたどり着いたのだろう。
いつか、自由に旅ができる日が来たら
訪ねてみたい。


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