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大嫌いな2年間に、ありがとう

ずいぶん難しいお題だなぁと感じた。
働いて笑顔になる?そんな人いるの?って思ったから。
なぜならこのお題が出された2週間前、私は自分の仕事が苦痛で退屈で大嫌いだったからだ。
その状態ですでに2年が経過していた。
私はその2年間、仲間と協力して色んな人や色んな事と闘った。
でも何の成果も出せないまま、刻々と無駄に時間だけが過ぎていった。
だから今回はこの投稿はできないなと、諦めていた。

だけど最近、笑えるようになってきた。
好きな場所で好きな仕事ができるようになったから。
そうしたら、自然と思い出したんだ。
自分が笑顔で働いてた日々のことを。

22歳、ロンドン

思い出すだけで泣きそうになるくらい楽しかった経験がありますか?
私は、ある。
ロンドンで仕事を探してた私に、友人が偶然教えてくれた求人。
紳士服店での通訳の仕事だった。
ダメもとで応募して、すぐに使用期間が始まり、間もなく本採用された。
通訳と言っても、まだそこまで上手にしゃべれなかった私は、勉強しに行くような気持ちで毎日通っていた。
プロの同時通訳のできる人とはワケが違うけど、人と人の懸け橋になれる通訳の仕事はとてもやりがいがあったし、自分のできることを最大限に生かせる仕事は、生活の全てを充実させるのに欠かせない要素だと知った。

そこの職場は年上のオジサンとマダムが多い職場で、私は落ち着いて働くことができたし、馴染むのにちょっと時間はかかったけど、娘ほど年の離れた私をみんなとても可愛がってくれた。
一番恵まれたと思うのは、英語の、特に奇麗な発音を毎日身近でよく聞くことができたことだ。
ある日、友達と話をしてるとき、こんなことを言われた。
「Ellie のしゃべる英語はとても綺麗だけど、何かジジ臭くない?」
あーそうか、毎日オジサンとしゃべってるから、私の英語はそっち寄りになってしまっていたようだ。
それから私は、流行りのTVなどもよく見て、若者英語を勉強するようになったのは、今では鉄板の笑い話である。

20歳、舞台上

働いてて幸せだと感じたことも、1度だけある。
ロンドンで通訳をするよりも前、女優の仕事をしていたことがあった。
9歳のときからお芝居を始めて11年、もうそろそろ辞めようかなと思っていた時だった。
そのとき私は舞台の仕事をしていた。
これが、最後の舞台かなと思いながら、今までの芝居人生を振り返り、1つ1つに思いを馳せながら演じた。
舞台は、いつも通り当たり前に楽しかった。

千秋楽の前日の夜の公演が終わり、あと1回だなと会場のロビーに出たとき、出待ちをしていた(私の出待ちではない)女性に声を掛けられた。
「〇〇の役をやってた人?あなた、1番よかった!」
そう言って彼女は私の手を握った後、私の後ろにいた目当ての役者さんの方へ行ってしまった。
だけど、私はそのとき、本当に本当に嬉しくて、とても幸せだと思った。
実は芝居をしていると辛い時や苦しい時があって、現実と物語の世界を行ったり来たりするものだから、私の場合は現実に戻ったときにとても落ち込むのだ。それが結構キツイ。
逆に言えば、元々現実の世界に不満や不安があるから逃避できる芝居にのめりこんだわけで、その現実で「あなたが1番よかった」とわざわざ声をかけてくれた人がいたのだ。
たぶん、私が本当の意味で芝居に踏ん切りがついたのは、その一言があったからだと思う。
大好きで楽しかった芝居だけど、自分の縛りとなって苦しめてきた芝居。
芝居だけが私を形作るものだと思っていたから、やめるのが怖かった。
小さい頃からやってきた芝居がなくなれば、私はただの空っぽの人になってしまうと自分に自信がなかったのだ。
でも、そのあまり好きではなかった現実社会に、私の芝居を1番と言ってくれた人がいた。
関係者でなく、身内でもなく、何の関係もないただの知らない人。
だからこそ、それが私の自信になった。
その自信があれば、私は私自身のままその現実世界へ出ていける。
そういう安堵に私は幸福感を覚えた。
だから私は自信をもって、感謝の気持ちと共に芝居をやめることができた。
そして限りない自由を手に入れた私は、間もなくイギリスへ飛ぶことを決心するのだった。

そして今、

そして今、私はマーケティングや広報の部門で働いている。
やはりそこには文字や言葉が関わってきて、グローバルな表現の世界でもある。
その言葉とグローバルな表現の世界に戻ってきたとき、私はいま笑顔で会議に参加し、意見を交換し合い、充実した日々を送れている。
停滞期だったこの2年間、「私って何だっけ」と自分を見失うことが幾度もあって、その度に考えて、過去を振り返って、なりたい未来を思い描いたりしたけど、ダメな時ってダメなんだよね。

あの時は若かったから、熱かったから。
あの日々は過去だし、もう戻ってこないし。
楽しかったけどそれはそれ。

そういうふうにせっかく頑張った過去の自分を思い出せなくなっていた。
でもそれでも、何かが違うと一生懸命足搔いて闘って、探して、そうしたらまた笑顔の自分を取り戻せた。過去の自分にもまた会えた。
諦めないで頑張ってよかった。
この現実世界を、また少し好きになれた。

だから、この無駄とも思える大嫌いな2年間にどうもありがとう。

#はたらいて笑顔になれた瞬間

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