「まほろ駅前多田便利軒」の感想文

三浦しをんさんの直木賞受賞作です。主人公の多田啓介は便利屋を営む中年男性ですが、ある日高校時代の同級生と再会します。その同級生は行天春彦と言って、高校の三年間一度も話をしたことがありませんでした。

行天は見た目も成績も良かったのですが、誰ともしゃべらない変人として通っていて、実は多田は彼をよく思っていませんでした。その行天が見違えるほどおしゃべりになり、多田の下で住み込みで働くことになります。

二人で様々なお客さんに出会い、困りごとを解決していきますが、この二人はそれぞれ心に鬱屈したものを抱えていました。

以上があらすじです。中年男性二人の面白い話ですが、考えさせられる場面も多かったです。お客さんは癖があって嫌な人もいますが、この二人はそういう人のためにも一肌脱ぎます。

お客さんのルルとハイシーは明るい人たちで、性格もいいです。ルルが自分をコロンビア人だと言い張っているのが面白くて好きです。それとは逆に多田の元奥さんは好きになれないです。そんな人いるの?と思いました。

二人は仕事以上にお客さんのことを考えがちです。便利屋だからというよりも性質からきているようで、二人を好きになりました。どちらも人のことなんて関係ないという感じですが、本当はやさしいということがわかります。

高校時代無口どころか沈黙の人だった行天が、なぜおしゃべりになったのかはここでは言えませんが、彼らしい理由があります。多田にも経緯がありますが、書くわけにはいきません。どちらかというと私は行天の方が好きです。

二人ともぶっきらぼうを装っているけれども、実は人の役に立ちたいのでしょう。でも生活できるのかなと思ってしまいます。多田も一人なら何とかやっていけるのに行天が増えて、頭が痛かったのでしょう。出て行ってほしいとも思ったはずです。

でも一年も一緒にいると情が移るのはわかります。高校時代仲良くなかった二人が再会し、友達になったかどうかはわかりませんが、お互いを思いやるようになっていきます。友達である必要もないですしね。友達って何なのでしょうか。

無理に定義づけしないでいいです。ただ一緒にいて楽しい、イラつくことも多いけれど、いないと心配する、二人はそういう関係です。お前は俺の友達だ、なんて絶対言わないと思います。

変な人もたくさん出てくるけれど、心に響く言葉も出てきます。でも言葉にしなくても分かり合える二人の物語です。続編はまだ読んでいないのですが、そのうち読むつもりです。







この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?