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書を持ち理科教育を始めよう

こんにちは。今回この記事は,理科教育アドベントカレンダー2020の企画の1つとして,12/12担当の私が書かせていただいたものです。

思い切ってアドベントカレンダーに参加させていただいたものの,大学院生の私が何を書くべきか正直迷いました…一度は自分の研究テーマについて書こうと思ったのですが,書いていくうちに心の中のリトルikenagaが「長いしわかりにくいのにこれを載せるのか?」とパワハラをしだして苦しくなったので,他に私が書けそうなこととして,理科教育の勉強・研究をはじめる際のおすすめ図書を紹介したいと思います。

こんな方におすすめ

本記事で,私がこれから紹介する本は,「理科教育のこと勉強したい」,「理科教育学研究室に行きたい」,「理科の授業をよりよくしたい」,「でもどの本から読めばいいのかわからない」という方におすすめです。
研究を始める学部生・院生,授業改善に熱心な先生方にお役に立てると幸いです。

世の中には,理科教育に関連する本はたくさんあります。おそらくどの本も読めば学びがあるでしょうし,「とりあえず何でもいいから読んだらいいやん」精神で読んでいくアグレッシブさも重要でしょう。

しかし,一方で世の中には,少なからず私のように「そんなこと言わずおすすめ教えてよ~」と思う同士もいらっしゃるでしょう。実際,自己研鑽をするための最初の1歩はしばしば苦しいものだと考えられます。

なので,そんな苦しくも大きい1歩を踏み出す後押しをお助けできるよう,本記事では,私が研究を始めた学部3回生のときに読みたかったと思う内容になるよう心掛けました。なんだか偉そうなことを言っていますね。

以下で紹介する本は,なるべくAmazonで買えるものを取り上げています(在庫が少ない or 中古しか出回っていない or ゆえに値段が高いものもありますが…そんなときは是非図書館なども活用してください)。

科学哲学系の本

まずはじめに,科学哲学に関する本を紹介したいと思います。「理科ちゃうやん」という声がさっそく聞こえてきそうですが,実は科学哲学は理科ととても関係しています。

そもそも科学哲学は,ざっくり言うと「自然科学の目的と方法」などについて考える学問であるといえます。また,理科という教科は,自然科学(以下,科学)を親学問として成立し,その学習内容が構成されています。したがって,科学の活動を取り入れた理科授業を作っていく上で,「そもそも科学の活動って何?」ということを考えている科学哲学の知見を参考にすることは,とても重要であるといえます。

本記事で紹介する科学哲学系の本は,「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」と「1冊でわかる 科学哲学:A Very Short Introduction RHILOSORHY OF SCIENE」の2冊になります。以下,少しだけそれぞれ紹介します。


「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」

私の過去のnote記事でも紹介させていただいた本ですが,とてもおすすめです。本書の前半では「科学の目的と方法」について,後半では「市民に必要な科学リテラシー」について書かれています。

特に前半の「科学の目的と方法」に関する内容では,「仮説・理論」,「科学的推論の種類」,「仮説演繹法」,「因果関係」といった理科において重要なトピックが盛りだくさんです。また,それらがとても平易な文章で書かれており,わかりやすい具体例もそれぞれ挙げられています。もちろん,後半の「市民に必要な科学リテラシー」も重要ですが,理科教育をはじめるにあたっては,まず,本書の前半部分を読み込むとよいでしょう。


「1冊でわかる 科学哲学:A Very Short Introduction RHILOSORHY OF SCIENE」

科学哲学に関する本としては,こちらの本もおすすめです。先程述べた理科においても重要な科学哲学のトピックをこちらでも扱っていますが,この本ではさらに,「科学における説明」,「実在論と反実在論」,「科学革命」,「諸科学の哲学的問題」といった,理科の親学問である科学をより理解する上で重要なトピックが扱われています。また,「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」よりも少し固めな文章ではあるものの,この本もかなり読みやすいと言っていいでしょう。

なお,この本と同じような内容の本として,「科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる」が挙げられますが,個人的には「1冊でわかる 科学哲学:A Very Short Introduction RHILOSORHY OF SCIENE」の方が読みやすく,わかりやすかったです。もちろん,微妙に内容の違いもありますし,どちらも良書ですので,科学哲学にハマってしまった方はどちらも読んで最強を目指すとよいでしょう。

また,ほかにも,「疑似科学と科学の哲学」「科学論の展開」「科学革命の構造」などもおすすめです。

なお,余談ですが,理科教育には科学哲学に関する知見等をもろに理科の学習内容として扱う,「科学の本質」という研究分野もあります。気になった方は,こちらの記事も暇つぶしに読んでいただければと思います。

メタ認知系の本

次に,メタ認知系の本を紹介したいと思います。一向に理科の本になりませんね。しかし,理科授業において学習者は,仮説設定,実験・観察計画の考案・実行など,科学的推論をはじめとした認知を必要とする様々な活動に取り組みます。したがって,これらの活動をよりよいものにするためには,認知をよりよくはたらせるための高次の認知,すなわち「メタ認知」が必要となります。そして,メタ認知は色んな本で,さも「みなさんご存じメタ認知です」といった感じでスッと出てきます。

そんなゲリラメタ認知にも対応できるよう,「そもそもメタ認知とは何なのか」について書かれている本として,「メタ認知で〈学ぶ力〉を高める」を紹介させていただきます。

「メタ認知で〈学ぶ力〉を高める」

この本ではメタ認知の説明やメタ認知に関連する知見を簡潔にまとめていて,とても読みやすいです。まさに「はじめてのメタ認知」として最適でしょう。

メタ認知について詳細に書かれている本としては,「メタ認知:学習力を支える高次認知機能」なども有名なのですが,これは少々難しい印象です。「メタ認知に着目した研究をしたい!」や「もっとメタ認知について知りたい!」という方におすすめです。

なお,メタ認知に関連して,認知心理学について勉強したいと考えている方は,「認知心理学キーワード」「グラフィック認知心理学」などで,認知心理学の歴史的な変遷や基礎的な概念などを学ぶとよいと思います。認知心理学関連の本は,どれも難しめない印象がありますが,最近では,認知心理学の範囲を拡大した認知科学の学術書として,「イラストで学ぶ認知科学」という本も出版されていて,今後も読みやすい入門書が増えてくることが期待されます。

動機づけ系の本

続いて動機づけに関する本です。理科に限らず,様々な教科の学習でも動機づけは重要ですよね。理科教育の研究の文脈でも,動機づけに着目した研究がみられます。

ではそんな授業改善に必読の動機づけの本として,今回は「自律的な学習意欲の心理学」と「学習意欲の理論」の2冊を紹介させていただきます。

「自律的な学習意欲の心理学」

近年重視されている自律的な動機づけに関する知見が簡潔にまとめられています。「動機づけ気になるな~」という学生や先生方には最適だと考えられます。とても読みやすく,なによりわかりやすいです。

余談ですが,子育てにも役立つ内容もたくさん書かれています。

「学習意欲の理論」

動機づけにハマってしまった方,興味津々な方にはこちらの本もおすすめです。先程の「自律的な学習意欲の心理学」と比べてかなり分厚いですが,その分より広範囲の動機づけに関する知見が詳細に説明されています

余談ですが,私は動機づけに関する研究を行っているわけではないのですが,論文や学術書などで知らない動機づけの概念に遭遇したときに,この本を辞書として使用しています。

学習科学系の本

続いて学習科学に関する本を紹介させていただきたいと思います。学習科学というのは,認知心理学や認知科学の知見を利用して学習をよりよくしていくことを目的とした学問なのですが,この学習科学の知見は,理科教育への示唆を多分に含んでいます。ですので,研究を始める学生や先生方にとっても必読であると考えられます。

学習科学のおすすめ図書としては,「学習科学ガイドブック」と「授業を変える」の2冊が挙げられます。

「学習科学ガイドブック」

学習科学の本の多くは日本語訳されたものであるため,初めて読むと難しく感じるかもしれません。しかし,この「学習科学ガイドブック」は,国内の研究者が執筆しているためとても読みやすく,学習科学のトピックを学ぶ上でストレスを感じることが少ないです。「構成主義」や「ラーニング・プログレッションズ」などの重要な知見も書かれています

各章で様々なトピックを扱っているため,自分の興味のある章にしぼって読んだり,仲間と定期的に読書会で読み進めるなどしても楽しいと思います。

「授業を変える」

理科教育学で研究していると,遅かれ早かれこの本を読むことになるでしょう。読み応えのある1冊ですが,学習指導に関する知見が盛りだくさんなので,研究を進めていく上で必読です。

なお,姉妹本に「授業が変わる」という本もあります。

また,学習科学の本をもっともっと,という方は,「学習科学ハンドブックシリーズ」がおすすめです。

なお,余談ですが,学習科学の本では,認知心理学や認知科学,そして動機づけなどの様々なトピックが扱われています。うかつに読むと知識の洪水で溺死してしまうかもしれないので,先程挙げた「メタ認知系の本」や「動機づけ系の本」をご活用していただけば,転ばぬ先の杖になるでしょう。

理科教育系の本

ついに理科教育に関する本ですね。「最初からこれだけでよかったやろ」と言われそうですが,理科教育は様々な周辺領域の知見を援用して授業改善していく営みであると考えられるので,悪しからず…

では,理科教育に関する本ですが,「なぜ,理科を教えるのか」,「今こそ理科の学力を問う」の2冊がおすすめです。

「なぜ,理科を教えるのか」

理科という教科の成立,学習内容の構成,学習指導の具体とその評価まで,具体的かつ平易な文章で書かれています。まさに理科教育の入門書という感じです。個人的には,本記事で紹介した「科学哲学系の本」と併せて読むとより内容が理解できると思います。

しかしなぜか現在この本は在庫少なめになっているようなので,その点は注意が必要かもしれません。

「今こそ理科の学力を問う」

日本理科教育学会が創立60周年記念に出版した学術書です。理科教育に関する様々なトピックを扱っています。関心のあるトピックの章を読んだり,研究テーマを探したり,これ知らないなっていうトピックを狙い撃ちしたりと,いろんな使い方ができます

ただ,絶版なのでいかんせん在庫はないし値段も高い…

また,興味のある方は,「理科ってどんな教科?」ということが書かれている「『理科』の再発見」を読まれてもいいかもしれません。

おまけ:議論とか発表とか

理科の授業改善に直接関係するわけではありませんが,理科教育のことを研究したり勉強していると,少なからず誰かと研究について建設的な議論をしたり,研究を発表したりする機会があります。

そんなとき,うまく話が噛み合わなかったり,発表することができなかったりするととても悔しいを思いをするので,そういったスキルを磨くための本もいくつかご紹介します。

まず,仲間や同僚と議論する際には,こちらの2冊

上記の2冊を通して,「トゥールミンの議論モデル(主張,根拠,論拠など)」と「理論語と観察語」について学べば,「なんかもやもやして話し合い終わったな~」ということは少なくなると思います。

次に,発表にはこちらの2冊

「1分で話せ」で発表の際の話し方を学び,「一生使える見やすい資料のデザイン入門」で発表資料の作り方を学べば,最強,だと思います…

最後に

今回,本記事では,理科教育に関係する様々な本を独断と偏見で紹介させていただきました。

以上で紹介した本は,理科の授業をよりよくしていくためのツールです。「科学哲学系の本」で理科授業の構造を理解し,「動機づけ系の本」で子どもを夢中にさせ,「メタ認知系の本」や「学習科学系の本」で充実した学習指導を行い,そして最後には「理科教育系の本」に立ち返って修正すれば,間違いなく理科の授業をよりよくしていくことができるのではないでしょうか。

なお,私も学びの途中の人間ですので,おすすめの本があれば是非とも紹介してください。




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