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コントのなかから愛を込めて


新入社員「ウィーン(手で開くジェスチャー)ここが予約した居酒屋か〜幹事は緊張するな〜」

店員「あー、いらっしゃいませ」※気怠そうに

新入社員「〇〇株式会社45名で予約した△△と申します。絶対頑張ります!」

店員「(…やけに張り切ってるな)こちらの部屋へどうぞ」※暗転、宴会場へ

新入社員「恩に着ます!ところで下座はどちらでしょうか!」

店員「こちらの席だとおもいますが…(?)」

新入社員「ありがとうございます!ハンガーありますか?さきほど着た恩が暑いので一旦脱ぎたいのですが。ところで取締役の上座はあちらですよね。なんか物足りないな、玉座とかないですよね?ないか、はは、ウチの会社にも勿論ないです。(電話の音)はいもしもし。え、まだみなさん新座ですか!?早くしてくださいよ!うわ!足がもう痺れた!下座は座り心地も悪いんだ!ズコー!!」

店員「いや、やかましいわ!!!」




まぁ普通に席に座って話してればいいから、今日はよろしくね。

ふと声が聞こえてパッと暗転するとそこはいつものオフィスの中で、目の前には上司がいた。
ほとんど聞いていなかった話の生返事をして時計を見る。あと1時間で終業のはずなのに、時計の針は逆回転をしはじめた。

上層部を含めた大規模な社内の飲み会が開催される。コロナ禍を越え、気の知れた仲間以外の飲み会が億劫になった私の気持ちを沈めるには十分過ぎるイベント。同僚がこういう時いつも虚な目のままかけてくる言葉がある。


コント「飲み会」やるしかないか



人生はコントである。という言葉をどこかで聞いたことがある。
コントとはフランス語で「寸劇」を意味しているが、日本では「お笑い」をイメージさせることが多い。

例えば会社では決められた職種、役職に従って仕事が割り振られる。学生時代だってずっと同じで、周りから期待されるそれぞれの役割をそれぞれが自然と確立していた。寸劇のように振る舞うことに抵抗はないはずだ。これまでがずっとそうであったように。

我々の共通認識の「コント:飲み会」に関してはどこかで古い風潮が残る弊社へ皮肉であり、上手に馴染むことのできない社会生活からの逃避でもあった。
どうせコントならばいっそのこと血液がドロドロになってしまいそうなほど退屈なこの時間をどうにかできないかと考える。隣で赤く火照っているハゲ頭を何の躊躇もなく引っ叩くことができれば、腹の底から笑えるだろうか。


あぁ、なんてつまらないコント。




キングオブコント2023。ベテランの優勝コンビから若手まで一組残らず面白かった。日々退屈で憂鬱なコントの中で彷徨っている人々を救っているのは、紛れもなく彼らだ。

1組目のネタから傑作。後輩の取引先へのミスを先輩が謝罪しに行くというネタだが、誰しもが想像できるシチュエーションである。誠心誠意でケツを出して謝る姿に、どこか憧憬を覚えてしまう。あの緊迫した場面で思い切りケツを出してみたい。廊下に声が漏れるほど大声で叫んでみたい。
他にも長年付き合っていた彼氏から別れを切り出されて泣いている女の子や、モノマネ芸人の苦悩。今日どこかで誰かが抱えている苦しみを、目の前で笑いに変えている。


特にファイナリストの中には個人的に思い入れのある組がいる。彼らが地元のスーパー銭湯でネタ合わせをしていた時、私も同じ湯船の中にいた。自分と同い年で故郷も同じということが後ほどわかり、応援するのにこれ以上の理由はなかった。

結果的に優勝は逃してしまったが、彼らを筆頭にこの先の時代はうんと明るくなっていくとその場の全員が思ったはずだ。
いつかコントの王様になっても、またおふろの王様でネタを合わせていて欲しい!
くだらないコントの中にいる私たちに、いつも手を差し伸べてくれてほんとうにありがとう!


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