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世界の終わり #2-11 ギフト


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 正門前に郡部代表の姿はなく、訪ねてきた〈九州復興フロンティア〉の者は、二〇代前半と思しき若者数名であった。
「正門前にいた彼は、そちらに戻っていないのですか? 連絡が取れないとはどういうことですか。急いで捜索にあたるべきでしょう。最近はあまり見かけませんが、この辺りは感染した野犬の群れが蔓延はびこる危険区域です。わたしたちもお手伝いします。大至急、手分けして連絡の取れない彼の捜索を行いましょう」
 いらぬ腹の内を探られる前に、掛橋は捜索に協力する意向を示し、さらには〈九州復興フロンティア〉の落ち度を責めた。
「どうして昨日のうちにご一報いただけなかったのですか。連絡をもらえれば、様子を見に行くなり、保護するなり、わたしたちでなんらかの手がうてたというのに。夜間の移動が禁止されていますから様子を見にくることはできなかったのでしょうが、仲間を心配するのであれば、連絡を寄越して当然でしょう。相反する面が多く、やり取りすることを嫌っているとはいえ、人命に関わる問題ではありませんか!」
 掛橋は捲し立てた。事実を隠蔽するために〈九州復興フロンティア〉の行動の遅さを必要以上に責め続けた。そして掛橋が望んだとおりに、ことは運びはじめた。
 施設内及びその周辺を〈TABLE〉メンバーが――ほかのエリアを〈九州復興フロンティア〉の者たちが捜索することに決まり、みなはそれぞれの役割を果たすべく散り散りになった。ただし西条の居場所を知っている〈TABLE〉メンバーが、捜索を行うことはない。

「掛橋さん、逃げだしたグールは何体だったのですか」正門から離れる際に、三枝が尋ねた。
 掛橋は小獣舎で見たままを三枝に伝えた。逃走したグールはいなかったが、新たなグールが敷地内に侵入している可能性は残されている。
「決して個人行動をとらないように。それではみなさん、気をつけてグール捜索にあたってください」
 掛橋が指示し、メンバーが四方へと散った直後、
「掛橋さん」痩せた若い男が掛橋を呼びとめた。「先ほど、小野が無線で知らせてきました。山岡を捕らえたので、科学館まできて欲しいとのことです」
 汗ばんだ手のひらを太ももに擦りつけながら、掛橋は表情を変えることなく、短く答えた。「わかりました。ありがとう」と。

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