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世界の終わり #2-6 ギフト


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 感染者はグール――屍食鬼と呼ばれているが、実際に人肉を好んで食すわけではない。しかしながらグールは人の腕や首筋など、肌の露出した部分へと噛みつく習性を持っており、その様は傍から見れば人を喰らう屍食鬼そのものである。
 感染した者は短時間で醜悪な姿へと変化し、思考力も衰えて人間らしさを失うが、生得的に持つ動物的な行動様式や日々の生活の中で習慣となっていたことは顕著に表へとでてくる。七〇年代に公開されたジョージ・A・ロメロ監督作品に登場する屍者がショッピングモールへ足を運んでいたように――エドガー・ライト監督作品に登場する屍者がパブへ足を運んでいたように、九州に蔓延るグールたちも感染前と同じ行動を繰り返す傾向にあった。意思の疎通が敵わず、言葉も交わせなくなったグールではあるが、行動基本は人間そのものであって、動物的本能も健全なのである。また、感染の影響で痛覚が鈍くなっていることから防衛意識を著しく欠き、己の拳が砕けることを気にかけなくなっているため攻撃態勢に入ると容赦がない。普段は乳児が床を這う程度の鈍い速度で移動するグールだが、手の届く範囲内に近づくことは至極危険な行為であるのだ。

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