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世界の終わり #5-4 グール

 涼は本当に九州へ逃げたのだろうか。藤枝の言葉を鵜呑みにはできなかったけど、九州に上陸して、荒木さんの行動を観察しているうちに、これはなにかある――フィギュア回収という目的の裏に、なにか隠されていることがあるって思うようになった。涼の居場所に関する情報を荒木さんは握っているような気がする――それが、九州で数日間をすごしたわたしが抱いた考え。

 わたしたちはリストに記された家だけじゃなく、無関係な民家や分譲マンションにも立ち寄ったりしていた。
 正しくは、わたしたちではなくて、荒木さんひとりが車を停めて勝手に中へ入っているんだけど、その理由は謎。というか、教えてもらえない。
 尋ねても、「個人的な用件だから、気にするな」と返されるので不明なままなのだ。
 一度、気になってこっそりあとをつけてみたことがあったけど、空き家を訪問している理由はわからずじまいだった。
 家の中で誰かと会っているわけではなく、盗みを働いている様子もなかったし、なにしろ荒木さんは、家の中に入って一分も経たずにでてくるのだから、大したことができるはずもない。
 でも、きっと行動の背景には重要な意味が隠されているに違いない。
 荒木さんの行動を注意深く観察して、立ち寄ったお家についても色々と分析してみれば、見えてくるものがあるんじゃないかなって思う。その答えは、きっと涼の居場所にも繋がっているはず。って――考えていたんだけど、まさか市民団体〈TABLE〉の本部で、呆気なく、涼に関する情報を入手できるとは思ってもいなかった。

 本当にいたのだ。
 九州にきていたのだ。
 藤枝がいったように、涼は九州に逃げていたのだ。


「……あ、そうだ。九州を走っている車って、GPSで監視されているのよね?」柏樹さんの車とは別の道を進みはじめてから三〇分ほど経ったころだろうか。大事なことを思いだした。「目的地に到着する前に、邪魔されちゃ困るの。GPSの装置、いますぐ外してくれる?」
「これの、ことですか」ハンドルを握っている丹田さんへいったつもりだったけど、言葉を返してきたのは日並沢さんだった。
 見ると、右手に携帯端末のような黒い物体が握られていた。
 いましがたポケットから取りだしたものらしい。
 柏樹さんは車に取りつけるタイプのものっていっていたけど、ひょっとしてわたし、騙されてた?
「それがGPS?」
「え、えぇ。渡されているのはこれです」と、掲げて見せる日並沢さん。
 やっぱりそうだ。そうだったんだ。柏樹さんがいっていたGPSを車に取りつけるって話は、作り話だったんだ。
「渡して。丹田さんも。もってるんでしょ? ひとり一個ずつGPSをもたされているんじゃないの?」
「丹田さん――」
 日並沢さんが不安げな声で呼びかけると、渋々ながらも丹田さんはポケットへ手を突っこみ、GPSの装置を取りだした。
 やっぱりふたりとももっていた。
 かまをかけてみてよかった。
「ありがとう。渡して、ふたつとも。悪いけど外に捨てるわよ」
「ま、待ってください。捨てる必要はありませんよ、電池を抜けば済みますから!」
「そうなの?」
 GPSの装置から、日並沢さんは電池を抜き取る。
 使えなくなった装置を受け取って、ポケットの中へ。
 電池も預かってポケットへ入れた。
 これで軍や警察に居場所が知られる心配はなくなった。と、思うけど、カーナビは大丈夫なのかな。電波を拾われて、居場所がばれたりしないだろうか。
 でも地図が見られなくなるのは困るし、こんな場所で道に迷ったら――って考えていたら、日並沢さんがカーナビの電源を落としてくれた。
 以心伝心って感じで嬉しくなる。
 ピカチュウの話がちょっとだけわかった。

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