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【一日一文】湯川秀樹「苦心惨憺の後に」

9月8日。
理論物理学者・湯川秀樹の回想録より、一文をご紹介します。

ユークリッド幾何を習いはじめると、直ぐその魅力のとりことなった。数学、ことにユークリッド幾何の持つ明晰さと単純さ、透徹した論理—そんなものが、私をひきつけたのであろう。

しかし何より私をよろこばしたのは、むずかしそうな問題が、自分一人の力で解けるということであった。幾何学によって、私は考えることの喜びを教えられたのである。何時間かかっても解けないような問題に出会うと、ファイトがわいてくる。夢中になる。夕食に呼ばれても、母の声は耳に入らない。苦心惨憺(さんたん)のあとに、問題を解くヒントがわかった時の喜びは、私に生きがいを感じさせた。

『旅人 ある物理学者の回想』より抜粋


「考える喜び」にあふれた文章、一気に引き込まれました。

ヒントそのものは、苦心の末に得られるもの。
考え続け、努力し続けた結果なのですね。謙虚な姿勢に、人となりをうかがい知ることができました。

学ぶ喜びがストレートに伝わります。
それは、生きがいに通じるもの。シンプルに教えられました。

湯川秀樹は中間子の存在を予言し、戦後間もなく日本ではじめてノーベル賞を受賞しました。晩年は平和運動に貢献したことでも知られています。

研究成果を直接軍事利用されたわけではありませんが、科学者としての立ち位置を今でも示唆しています。
多くの著作やアインシュタインとの逸話もあるなか、抜粋された一文はまるで生きる原点のように感じます。

今日もゆたかな「一文」に出会えました。感謝を込めて。

※ タイトル画像は「d_tsujimoto」さんにお借りしました。ありがとうございます!



「一日一文」不定期に更新を始めます。
哲学者・木田元(きだ げん)氏編纂の本「一日一文」から、心にとまった先人の言葉をご紹介したいと思います。

ひとつは自身の学びのため。
ひとつはすこしでも豊かな気持を分かち合うため。おつきあいいただけると幸いに思います。


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