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interview JTNC6:Camila Meza"Ambar" - 政府が真っ先に攻撃するのはアーティスト。アーティストは真実を語ってしまうし、会話の口火を切ろうとするから。

チリ出身のヴォーカリストでギタリストのカミラ・メサはダウンビート誌クリティック・ポール「Rising Star」にも名を連ねる現代ジャズ・シーン屈指のヴォーカリスト。何度も来日しているだけでなく、2019年にくるり主催の京都音楽博覧会に出演したこともあり、彼女のことをご存知の方も少なくないだろう。

これまでファビアン・アルマザンやライアン・ケバリーのアルバムで美しいアンサンブルの中の「楽器のひとつ」としてその声を響かせてきたカミラ・メサが自分自身のためにストリング・カルテットを加えたネクター・オーケストラを結成し、あの魅力的な声に色彩豊かなハーモニーを加え、素晴らしいアルバムを作り上げた。

そこには(軍事政権に支配された70年代にミュージシャンが抵抗の歌を歌い、今もその歌が歌い継がれている)南米の国チリ出身の彼女らしいやり方で社会へのメッセージを込めている。この『Ambar』はトランプ政権下のアメリカに向けた彼女なりのメッセージでもある。

Jazz The New Chapter 6に収録したインタビューをここで公開します。

取材:柳樂光隆 通訳:染谷和美 協力:CORE PORT (2019年9月)

――タイトルのAmbarってどういう意味ですか?

樹木が傷ついたときに自分の傷を守るために樹液を出して、それが固まって石のようになる。ことによって琥珀が出来上がる。琥珀にはネガティブなものをポジティブなものに変換していくヒーリングの力があると言われてる。だから、その意味を込めています。

少し前から音楽が持つ可能性を考えるようになって、そこでヒーリングの力の可能性について考えるようになったのがこのアルバムを作るようになったきっかけ。最初に作った曲は「Amber」で、2009年、NYに移ってすぐに書いた曲。祖父が亡くなったんだけど、でもそのタイミングで自分はチリに戻ることができなかった。大好きな人を無くした喪失感を自分で癒すために作った曲。私の祖父のスピリットと繋がりたい気持ちを唯一可能にしてくれたのは「Amber」を書く作業だったと思う。

メタファーとしての樹液のヒーリング作用と樹液が石に変わるってことの両方が、自分にとってはこの曲を生み出せたってことそのものだったと気付いた。ある一瞬の人生のモーメントを曲にすることによって、そのモーメントが形として残って、時を経て、その時の自分の気持ちを振り返る、みたいなことが可能になる。それが私にとっての「曲」だと思った。その曲を書いたときのコンセプトが気に入って、それがアルバムのために大きなコンセプトになっていった。

――このアルバムはCamila Meza &The Nektar Orchestraという名義ですが、ネクター・オーケストラについて教えてください。

私は今回のサウンドをすごく気に入ってる。小川慶太のパーカッションとノーム・ウィーゼンバーグのベースやピアノの貢献で出来上がったテクスチャーが豊かなサウンドがあったから、私はそこに乗っかって歌うことができた。シンガーとしては、アプローチがいくらでも創造できるようなサウンドだった。今回のオーケストレーションで感じるのはドラマ性と叙情性。そういったことを感じさせてくれる音なので、自分の中で高ぶってくる感情をそのサウンドが後押ししたり、引き出してくれたと思う。きっと聴いている人にも私の気持ちが伝わるはず。

――ストリングスが加わった特殊な編成ですが、その編成に合わせて曲を書いたのか、曲を書いてからアレンジを考えたのか。

「Amber」「Atardecer」はネクター・オーケストラ以前にさかのぼる曲。既に出来上がっていたんだけど、使わずに寝かせていた。なかなか完成を見なかったのが、今回の楽器編成にはめこんでみたらようやくくつろげる家が見つかったて感じで輝きだした。

「Kallfu」は最後に書いた曲。少なくとも弦が入るってことは自分の頭にあった。私はミュージシャンとしてハーモニーに重きを置く作曲をしているんだけど、私自身はギターしか持っていない。どうやってそれを実現したかって言うと、自分のハーモニックな部分を推し進めていくって感じの発想。今回はリソースとして弦が入ってくるってことがわかっていたから、ハーモニクスに関してはコードとしてはシンプルに3つしか使わないけど、テクスチャーを豊かにできたり、リズムの部分を工夫できたり、そういった余裕が生まるようにしようとした。だから、この編成のおかげでいつもの自分とは違うことができるかもって考え方になっていたんだと思う。

――「Kallfu」ってすごく変わった曲だと思うんですけど、どんな感じで書いたのか教えてください。

ツアーの移動中に電車に乗っていた時に、パソコン広げて、ガレージバンドについているキーボードをいじっていたら、ふっとメロディーが浮かんで、パッとレコーディングしようと思ったけど、「隣に知らない人が座ってるからどうしよう…」って感じでこっそりとメロディーを口ずさんで録音したところから始まった。隣の人が変な顔をしてこっちを見てたから、聴かれていたっぽいんんだけどね(笑)。

最初にそのくらい強いメロディーがパッと浮かんだので、そのあとはあまり理屈を考えずに書いていくことにした。この曲はセクションが二つあるんだけど、最初のセクションのコードはE7。その後の部分は自分がピアノなんて弾けないのにキーボードをいじりながらの作業だったから、こんな感じかなってフィーリングで作っていったら、ハーモニー的には理論にそぐわないFメジャーから、Dマイナー、それがE7に戻っていくっていう全然つながらないものになってしまった。でも、その時の勢いと、いいものが浮かんだってテンションで「いいよ、いいよ、気にせずやっちゃえ」って感じ書いたのがあのメロディーですね。

――なるほど。この曲はストリングスのアレンジもすごく面白いですよね。

ノームと一緒にアレンジを考えているころに、私はよくスティーブ・ライヒ「Music for 18 Musicians」を聴いていたことがモチーフになった。そこからライヒの音楽にあるフレーズがオーヴァーラップしていく感じをやってみようって話になって、他の曲とは違うアプローチをしようとしたのが「Kallfu」。だから、ストリングスに関しても、他の曲ではハーモニクス的な構成になっているんだけど、ここではストリングスに違う役割を与えてみようって感じで使ってる。リズムがレイヤーをなしていて、一つ一つの楽器が違うタイミングで入っていったり、リズムのアクセントが違うところで入ってきたり、みたいものが全体として進んでいって、そこに推進力が生まれていくようなアレンジになっていると思う。

――ストリングスのアレンジに関して、エレキギター、エレピ、ローズとかに合うような響きを狙っていたり、バンドもそのストリングスと溶け合うような演奏をやっているような気がしたんですけど、どうですか?

私もそう思います。今回の私とノームのコラボレーションに関しては、テクスチャーを意識しているから。私は「こんなテクスチャーが好き」とか「このメロディーを活かしたい」って感じで彼とやりとりしながらアレンジを作り上げていった。私はベース、ドラム、ピアノ、そして自分の歌とギターって編成のカルテットに長く親しんできたから、その編成で出来ることに関しては知識はある。でも、弦のカルテットが乗ってくることはとてもチャレンジングなことだった。例えば、一つ一つの楽器にどういう役割を持たしていけばいいのかを考えるのも、今までにはないことだったから。弦が4つとピアノとギターだとハーモニーをものすごく豊かにはできるんだけど、それをどう活かしていくのかってことを考えると、やり過ぎないことも重要。私がギターでメロディーを弾くにしてもそこに何が乗っているといいのかってところは曲ごとに遊べる部分でもあったので、やり過ぎないことはとにかく意識してましたね。

――このアルバムのインスパイア源にもなっているかもしれない「あなたが好きなストリングスの入ったアルバム」を教えてください。

最も好きなのはビョーク『Vespertine』(※オーケストレーション/ストリングス・アレンジはヴィンス・メンドーサ)。もう発売から20年くらいたっているなんて信じられない。
あとはローラ・マヴーラ『Sing To The Moon』。すごくインスパイアリングだった。
エスペランサ・スポルディング『Chamber Music Society』(※アレンジはエスペランサとギル・ゴールドスタイン)。
チリ出身のクラウディア・アクーニャ『Wind From the South』ビリー・チャイルズのアレンジが素晴らしいからおススメ。
弦が入った音楽を作った作曲家や編曲家だったら、ドビュッシーラヴェル。ノームが作ったこのアルバムの「Interlude」はその2人からの影響が大きいと思う。

ブラジル系だとアントニオ・ジョビンエリス・レジーナのアルバムに「Modinha」(編曲César Camargo Mariano)って曲があって、ストリングスが入った瞬間に泣きたくなるような美しさだから聴いてみてほしい。

――アルバムのアートワークを見てても、そのサウンドにしても淡い色彩感みたいなものがあるから、ラヴェルやラヴェルの影響を受けた作曲家のことが好きなんだろうなと思っていました。

私はトーナリティーから色が見えることが多くて、Gメジャーは青、Dメジャーはオレンジって感じで色が必ず浮かんでしまう。ネクター・オーケストラの音楽はいつもオレンジっぽい。だからアートワークにはオレンジ色を入れなきゃって思ってた。不思議な話なんだけどね。

――あと、自分の声を重ねているところが何か所かあると思いますけどそれについて少し聞かせてもらえますか?

私は声によるハーモニーが好きだから、可能ならライブでも13人くらい連れてステージで歌ってもらいたいと思ってるけど、それは難しい。でも、スタジオでのレコーディングならそういう贅沢ができるので、ここでは自分の頭の中に鳴っている音をそのまま実現させようと思った。ステージではできないことを許可して、ディテールに凝ってみたのがこのアルバム。かなり細かいことにこだわることでそのパートがより活きてくることもあったし、「Awaken」のエンディングでは自分の中にああいう声がたくさん聴こえてきたから、頭の中で聴こえるままにそれを実際に形にしてみた。「Awaken」はコミューンのようにみんながみんなを受けて入れている幸せな状態を音で表現してる。

――「Kallfu」もほんとに微かに声を重ねてますね。

そうなんです。あれは洞穴の中みたいなところでいろんな安らかな声が鳴っているイメージですね。

――カヴァー曲についても聞きたいのですが、ブラジルのシンガー・ソング・ライターのミルトン・ナシメント「Milagre dos Peixes」を選んだのはなぜですか。

ミルトンは自分のアルバムだけじゃなくて、ウェイン・ショーターと一緒に『Native Dancer』でもカヴァーしてますよね。「Milagre dos Peixes」は複雑さとわかりやすさが絶妙なバランスで混在していて、インスパイアリングな曲。この曲を譜面に起こしてみようとするとハーモニーも複雑だし、リズム的にも4/5だと思ったら、その後がワルツになってて、みたいな何がどうなってこうなるのかが全く理解不能なんだけど、曲として聴いてみるとほとんどフォークソングのようにナチュラルに聴こえたりする。それこそがミルトンのすごさだと思う。
あと、この曲を選んだ理由はメッセージ性。この曲が書かれた(※アルバムのリリースは1973年)ころ、ブラジルは軍事政権下の大変な時期で、検閲も厳しかった。そんな時代に書かれたこともあり、ものすごくため込んでいて、抑え込まれていた感情みたいなものを感じさせる。

それに当時の子供たちが花が咲いている様子を見たり、太陽が昇っていくような様子を見たり、そういうことがなくなっていく現代文化に対する批判も込められている。その部分はスマホに縛られているような状況になっている今の時代を考えると、より意味を持つはずだし、むしろ今は当時よりもひどくなっているかもしれない。だから、こんな時代に自然との繋がりみたいなものを自分なりに訴えようと思った時に、この曲なら橋渡しをしてくれるはずだと思って、選んだ。

――「Milagre dos Peixes」が収録されたアルバム『Milagre dos Peixes』はミルトンのアルバムの中で最も政治的なアルバムのひとつですよね。ここでのミルトンは、軍事政権の検閲を避けるために直接的な言葉を使わずに、スキャットを使ったり、読み解くのが困難な比喩や表現を多用した難解な歌詞を歌いました。そこには現状に対する強いメッセージが確実に込められていた。そんなミルトンの曲を今、あなたが取り上げたのは、ただ単に曲がいいってこと以上の意味があるのかなと思ったんです。そして、この曲はこのアルバムに収録されているパット・メセニー&デヴィッド・ボウイ「This is not America」と同じような意味を込めた部分もあるのかなと思って聴きましたし、様々な社会的メッセージを度々発していることでも知られるハリー・べラフォンテカエターノ・ヴェローソの愛唱歌「Cucurrucucu Paloma」(※最近では映画『Moon Light』にも使われている)をあなたが歌うこととも通じるのかなと僕は思いました。

私がこの曲を選んだ意図は「会話の口火を切る」ってこと。

そうしたいと思うのは私自身の背景がゆえかもしれない。チリは歴史的に厳しい時代(※チリ・クーデター)があって、読者たちの歴史が積み重なってくる中で、ほとんど暴力的な政治が組まれている時代があるわけだから、私自身が最初から分かっている、共感できる部分なのかもしれない。そういう社会状況において、政府が真っ先に攻撃するのはアーティスト。アーティストは真実を語ってしまうし、会話の口火を切ろうとするから。アーティストは「自分たちにはもっといい場所があるはずだ」ってことを表現してみんなの共感を得る中で「今とは別の人間にとってよりふさわしい現実を目指そう」ってことを訴えていこうとする。私にとってはそれがアーティストなので、そういう内容を歌っている曲に私自身は惹かれてしまうし、自分でも取り上げようと思ってしまう。「This is not America」なんてまさにそういう曲。今、アメリカはストレンジになってしまっているから。

必ずしも政治的なことを直接的に訴えるのではなくても、もっと普遍的な価値観、つまり人間はもっとお互いに対してもっといい形で接していくべきだってことは議論の余地のないことだから、そういったことは言いたいと思ってる。だから、私が選ぶ曲はそういった「普遍的な価値観を歌っている曲」と言えると思ってる。
前作『Traces』ではジャヴァン「Amazon Farewell」を歌っていた。これはアマゾンが危機に瀕している今こそ歌うべき曲。同じくアルバムで歌っているヴィクトル・ハラ「Luchin」もそういった(自然賛歌の)内容だから。私はいつもこういう曲を選んで、歌っている。

2020年5月19日にこれの続編のインタビューをやりました。以下のリンクで公開しました。併せてどうぞ。

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柳樂光隆

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うれしいっす!!
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79年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など

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