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現代ジャズ・ヴォーカル特集 booklet:CORE PORT Jazz Vocal Collection & PLAYLIST

ベッカ・スティーブンスやグレッチェン・パーラト、カミラ・メサなどの国内盤をリリースしているレーベル“コアポート”

海外のアーティストからも信頼の厚いコアポートをJazz The New Chapterは創刊時からサポートしていますし、コアポートもまたJazz The New Chapterの取材などに協力してくれています。

2017年にサラ・エリザベス・チャールズ『Free of Form』のリリース時にコアポートと柳樂光隆(Jazz The New Chapter)のコラボで冊子を作って、レコードショップやジャズ喫茶、カフェなどに配布しました。それをここに転載します。

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CORE PORTのカタログの中のジャズボーカル・アルバムからの曲でプレイリストを作りました。冊子のBGMにどうぞ。

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■Sarah Elizabeth Charles『Free Of Form』

現代ジャズ屈指のトランぺッター、クリスチャン・スコットとのコラボレーションをはじめてから大きな注目を集める気鋭のジャズシンガー、サラ・エリザベス・チャールス。

彼女の新作は同時代のUSのトレンドなど様々なジャンルのサウンドを大胆かつ丁寧に取り入れている。共同プロデューサーのクリスチャン・スコットが自身の近作でトラップ的なビートを導入した流れからか、本作にもトラップ経由のR&BやアンビエントR&Bの要素が感じられる。そして、そのリズムや音響に合わせるようにフランク・オーシャンにも通じるフォーキーなUKのインディーロックっぽさを持ったメロディーを書き、展開もシンプルにしてモーダルな構造の曲に仕上げた作曲家としてのサラの進化がこのアルバムを成功に導いている。

ローレン・デスバーグ『Twenty First Century Problems』と全く別のやり方で作り上げたポップサイドの現代ジャズボーカルの新たな傑作だ。

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■Becca Stevens『Regina』

現在のジャズシーンの中でも屈指の歌唱力で知られているベッカ・スティーヴンスが、意識的に「自分の声をフィーチャーしようと思った」初めてのアルバムだったというのは意外な事実。ローラ・マヴーラやデヴィッド・クロスビー、ジェイコブ・コリアーらゲストの声だけでなく、時に自身の声をも多重録音で重ねて、人間の声の美しさや力強さで「レジーナ=女王」をテーマにストーリーを紡いだ。自身の声を前に出した結果、作曲家としてのベッカによる美しいハーモニーがさらに輝きを増すことに。スナーキー・パピーのマイケル・リーグのサポートも的確。

■Becca Stevens Band『Perfect Animal』

これまではあくまでアコースティック楽器による生演奏で勝負していたベッカ・スティーヴンスがエレクトリックなサウンドを導入しながら、ベッカ・スティーヴンス・バンドの演奏の可能性をさらに拡張した3作目。ベッカらしい個性的なリズムやハーモニーを維持しながら、よりポップに聴かせようとした意図も見える。ハイライトはフランク・オーシャン「Thinking Bout You 」のカヴァー。UKのオルタナティブロックやインディーロックからの影響を昇華した新世代R&Bの名曲がベッカの歌唱にばっちりはまっている。アッシャーやスティーブ・ウィンウッドといったアーティストの埋もれた名曲を掘り起こしてカヴァーするセンスにも唸らされる。

■Becca Stevens Band『Tea Bye Sea』

ベッカ・スティーヴンスがその名を広めた『Weightless』以前に録音していたデビュー作が日本初CD化。当初からジャズとフォークが融合したような独自のサウンドがあったことがわかるだけでなく、大学時代に学んだクラシック~先鋭的なジャズの理論や作曲法などを歌ものとして実践していたのがこのアルバムだと彼女自身が語っているように、ベッカの音楽性の中に見える様々な要素をチャレンジングに織り込んでいるフレッシュな楽曲たちも面白い。ジャズボーカリスト的に歌唱力を聴かせる場面が多いのも魅力。後の飛躍へのハイレベルな出発点。

■Gretchen Parlato『The Gretchen Parlato supreme collection』

僕が現代ジャズを本格的に聴き始めた頃、

「グレッチェン・パーラトというシンガーがゲスト参加している音源を探せば間違いない。」

という法則に気付いて彼女の参加作を片っ端から買っていた。現代ジャズの高度で繊細なリズムやハーモニーに時に完璧に溶け込み、時にそれらの演奏の美しさが歌の後ろに透けて見えるように歌う彼女は、現代ジャズの重要なポイントでもある「バンドによるアンサンブル」の一員になるための能力が圧倒的に優れているシンガーでもある。つまりグレッチェンは楽器演奏家と同じ立場のシンガーなのだ。
(※グレッチェン・パーラトが客演した音源を集めた編集盤。彼女がシーンにとってどれだけ重要な存在なのかがわかる。)

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■Tillery『Tillery』

グレッチェン・パーラト、ベッカ・スティーヴンス、レベッカ・マーティンという現代ジャズ・ボーカリストによるオールスター・トリオ。

きっかけはレベッカの家のキッチンでハモってみたことだったとか。圧倒的な技術と個性を持った彼女らが声を重ねると、誰の声か判別できなくなるほど完璧に混ざり合い、優しく、柔らかく、同時に刺激的な化学反応を起こす。プリンスやファーザー・ジョン・ミスティ、ジャクソンズの名曲たちが新たな響きを纏ってしまう瞬間に安らぎと興奮が同時に訪れる。

■Rebecca Martin『NY JAZZ FEEL COLLECTION』

ノラ・ジョーンズから、ベッカ・スティーブンスやグレッチェン・パーラト、カミラ・メザへと続くフォーキーなジャズシンガーの台頭は、レベッカ・マーティンという存在の登場を抜きには語れない。彼女がカート・ローゼンウィンケルやラリー・グレナディア、ブライアン・ブレイドら、当時の気鋭のジャズミュージシャンと作り上げたサウンドは、そして、ジャズ由来のテクニックや自由な音による交感、そして、ジャズならではの表現力に満ちている。この選曲はそんなジャズボーカリストとしての彼女を炙り出す試みでもある。

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■New West Guitar Group - Gretchen Parlato, Sara Gazarek, Becca Stevens, Tierney Sutton, Peter Eldridge『Send One Your Love』

5人のギタリストからなるフォーキーなジャズ・ギター・グループがベッカ・スティーブンス、グレッチェン・パーラト、サラ・ガザレクなどを迎えて録音した作品。

ジョニ・ミッチェルやエリオット・スミス、ジェイムス・テイラーらの名曲のカヴァーにより、ジャズとフォークの相性や関係が手に取るようにわかる好盤。また、スティービー・ワンダーの楽曲のソウルに留まらない奥深さ、また現代ジャズ以降度々取り上げられるジム・ウェブの名曲「ウィチタ・ラインマン」の魅力など、弦楽器ばかりの編成+ジャズボーカルだからこそ見えてくることも多数。

■Sara Gazarek + Josh Nelson『Duo』

サラ・ガザレクという人は、誰もが「ジャズボーカル」だとわかる形式のままで、21世紀に入ってからのジャズの進化を体現している稀有なシンガーだと思う。ニック・ドレイクやローラ・マヴーラ、ポール・マッカートニーの楽曲が持つ魅力をピアノと歌によるミニマムな編成でシンプルに炙り出すサラの音楽からは、現代ジャズがヨーロッパのフォークや西洋音楽、さらに言うとUKの音楽に惹かれてきた理由が聴こえてくる。サラと同じように自由な音楽性を持ったピアニストのジョシュ・ネルソンだからこそ奏でられる音楽でもある。(後から発売されたUS盤とはジャケットとタイトル、選曲が違う。日本盤のみの楽曲・ボーナストラックあり)

■Jo Lawry『Taking Pictures』

スティングのツアーに参加し続けている実力派シンガーがNYのジャズミュージシャンたちと作り上げた作品。

NYジャズシーン屈指のアルトサックス奏者ウィル・ヴィンソンとの共同プロデュースの本作は、フォーキーなジャズ程度のものではなく、ディテールにはインディーロックにも通じる現代ジャズのエッセンスから、ホーンやストリングスのアンサンブルまで多彩なテクスチャーとアイデアが聴こえるし、スティングやアラン・ハンプトンやテオ・ブレックマンら豪華なゲストが効果的に配されたバンドもレベルが高すぎる。しかもこれが実にポップに響くのだ。

■Erin Bode『Here And Now』

エリン・ボーディーという人が素敵なのは、ジャズやフォークやSSWなど様々なジャンルを自由に取り入れながら、それぞれのジャンルのテイストを的確に歌唱に反映させるポップなセンスの人でありながら、その上で、どこかジャズボーカリスト然としたところが歌の芯に残っているところだと思う。その独特のフィーリングは彼女にしかないものだと思う。

ここでの注目はヴァン・ダイク・パークスとブライアン・ウィルソンが90年代に古き良きアメリカのノスタルジアを描いた「オレンジ・クレイ・アート」。この曲にジャズの香りが乗ったカヴァーはマジカルな響きがしている。
(※ストリーミング無し。)

■Carmen Lundy『Soul To Soul』

カルメン・ランディーという人は、70年代から活動しているベテランでディディー・ブリッジウォーターと近い世代。ジャズシンガーとしての歌唱技術の高さや、ジャズに留まらない幅広い音楽性から幾度となく再評価されている人でもある。それまでの60年代以前のシンガーたちと比べると明らかに洗練されていて、歌唱はナチュラルでスムース、繊細な変化で情感を表現するスタイルなど、現代との繋がりも見えやすい彼女は歌だけでなく、楽曲自体からも現代的な響きが至る所に聴こえるのだ。

現代ジャズシーンで多大な尊敬を集めるジェリ・アレンの参加やメアリー・ルー・ウィリアムスの楽曲のカヴァーなどを現代ジャズ史を再点検しながら聴きたい傑作だ。

■Laila Biali『Live In Concert』

カナダ出身のジャズシンガー、ライラ・ビアリが地元カナダで行ったライブ。

スティングのバックでも歌っている彼女の歌は、ジャズの色は少し薄めで、ポップシンガー的な華やかさを持っている。そこに時折ジャズ的な表現力を挟んでくる技術の高さとセンスの良さがなにより素晴らしい。ジョニ・ミッチェル、ブルース・コバーン、ロン・セクスミス、レナード・コーエンとカナダの巨匠たちによる名曲が並ぶ選曲が生み出すナチュラルで透き通った空気感も絶妙。ベッカ・スティーヴンスらの世代に影響力があるUKのSSWイモジェン・ヒープの「Let Go」の歌を聴くと、現代的な情感を宿らせるシンガーでもあることがわかるはず。

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柳樂光隆

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79年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など

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柳樂光隆の音楽評論
柳樂光隆の音楽評論
  • 98本

柳樂光隆が書いた音楽に関する論考的なものを中心に。ここだけに公開するインタビューもあります。

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