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シラバス | 昭和音楽大学 ジャズ科 2023年後期 《ジャズ史特殊講義》講師:柳樂光隆

◉講師プロフィール

◉教育到達目標と概要

21世以降、ジャズミュージシャンは様々なジャンルの要素を取り入れ、様々な技術を導入し、新たな音楽を生み出しています。またジャズミュージシャンがヒップホップやR&B、ポップスやロック、エレクトロニックミュージックなど、ジャズ以外のシーンで貢献するケースも増えています。そういった現代のジャズとジャズミュージシャンの活動における文脈を把握し、そのディテールを理解することがこの講義の目的です。

◉学修成果

これからのミュージシャン、プロデューサー、エンジニアはジャズを軸に活動をするとしても、様々なジャンルに関する知識を付けておくことは制作や仕事をするうえで、大きなメリットになります。この講義ではジャズを中心に様々な音楽の文脈を学ぶことで、同時代の音楽、もしくは今後出てくる新たな音楽をより深く捉えるための知識を身に着けることができます。

◉教科書・参考書

なし。
ストリーミング・サービス(アップル・ミュージック、スポティファイ、アマゾンミュージックなど)を使えるようにしておいてください。

◉授業外学修の内容と時間

準備は必要ありませんが、講義後の復習としてストリーミング・サービス(アップル・ミュージック、スポティファイなど)を使って、出来るだけ多くの音楽を聴いてください。


◉授業展開と内容

①「現代ジャズ概論」

ジャズ史を学ぶ際にまだ言及されることが少ない90年代以降のジャズについて学びます。ジャズミュージシャンの活動範囲がジャズシーンの枠を大きく超えて広がった現状をジャズ以外のジャンルとの関係性とともに解説します。現在のジャズミュージシャンが生み出す音楽を理解するために必要な流れを学んでもらいます。

②「ジャズとヒップホップ前編」

ヒップホップやR&Bを聴いて育った世代のジャズミュージシャンによる音楽が世界中を席巻しています。現代のジャズミュージシャンがヒップホップの影響を受けて作った音楽をヒップホップとの関係や、両者の融合の成立過程を解説します。現代のジャズミュージシャンが作っている音楽を理解するためにヒップホップやR&Bを知っておくことの意義を学び、身に着けてもらいます。

扱う作品:ハービー・ハンコック、GURU、ブランフォード・マルサリス、ザ・ルーツ、Jディラ、ディアンジェロ、ロイ・ハーグローヴ、ロバート・グラスパーなど

③「ジャズとヒップホップ後編」

ヒップホップやR&Bを聴いて育った世代のジャズミュージシャンによる音楽が世界中を席巻しています。現代のジャズミュージシャンがヒップホップの影響を受けて作った音楽をヒップホップとの関係や、両者の融合の成立過程を解説します。現代のジャズミュージシャンが作っている音楽を理解するためにヒップホップやR&Bを知っておくことの意義を学び、身に着けてもらいます。

扱う題材:ザ・ルーツ、Jディラ、ディアンジェロ、ロイ・ハーグローヴ、ロバート・グラスパー、マッドリブ、マカヤ・マクレイヴン、シオ・クローカー、カッサ・オーバーオール

④「ジャズとロック」

ジャズだけでなく、ロックも大きく変化し続けています。その変化し続けるロックにジャズも影響を受け続けています。90年代以降、ジャズがロックから受けてきた影響を解説します。現代のジャズミュージシャンが作っている音楽を理解するためにロックの流れも知っておくことの意義を学び、身に着けてもらいます。

扱う題材:ブラッド・メルドー、ジョシュア・レッドマン、ロバート・グラスパー、クリスチャン・スコット、レディオヘッド、エリオット・スミス、ニルヴァーナ、ボン・イヴェールなど

⑤「ジャズとエレクトロニック・ミュージック」

テクノ、ハウス、エレクトロニカ、ドラムンベースといったエレクトロニック・ミュージックは90年代以降、その存在感を大きく伸ばしていきました。ジャズミュージシャンはそれらの影響もどん欲に吸収していきました。エレクトロニック・ミュージックとジャズミュージシャンが作っている音楽の関係を紐解きます。エレクトロニック・ミュージックのジャズへの影響を理解してもらいます。

扱う題材:マーク・ジュリアナ、ダニー・マッキャスリン、ゴーゴー・ペンギン、ディアントニ・パークス、ジョジョ・メイヤー、スクエアプッシャー、アンダーグラウンド・レジスタンスなど

⑥「ジャズとDJ、クラブジャズ」

80年代以降、イギリスのDJたちがクラブでジャズのレコードをプレイしはじめたことで、ジャズのレコードにダンス・トラックとしての新たな意味が付与されました。その文化は形を変えながら、今も続いていて、思わぬところでジャズにも影響を及ぼしています。ミュージシャンとはジャズの捉え方が異なるDJやプロデューサーたちによるジャズ・カルチャーを解説します。通常のジャズ史では取り上げられないトピックについて学び、ジャズという音楽の多様性や多面性を理解してもらいます。

扱う題材:ジャイルス・ピーターソン、インコグニート、ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーション、ジャミロクワイ、ニコラ・コンテ、ジャザノヴァ、STR4TA、ファラオ・サンダース、ドナルド・バード、ロイ・エアーズなど

⑦「イギリスのジャズ」

2010年代半ばからイギリスの若手ジャズミュージシャンたちが話題になっています。彼らが大きな話題を呼んだのはその音楽が個性的だったからです。それはアメリカのジャズとは異なるイギリス独自のジャズの要素が濃厚だったことが主な要因でした。ここではイギリスのジャズ史と、独自性を生んだ背景を解説します。アメリカとは全く違う経緯で発展してきたイギリスのジャズを通じて、ジャズという音楽の懐の深さを学んでもらいます。

扱う題材:コートニー・パイン、シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシア、エズラ・コレクティヴ、モーゼス・ボイド、エマ・ジーン・サックレイなど

⑧「NY以外のジャズ(LA、シカゴ、ルイジアナなど)」

2010年代、まず最初に大きく話題になったのは西海岸LAのシーンでした。フライング・ロータスを中心としたコミュニティからカマシ・ワシントンやサンダーキャット、テラス・マーティンらが出てきて、ジャズのシーンを超え大きな成果を残しました。また、その後、マカヤ・マクレイヴンがシカゴから、ルイジアナから出てきたジョン・バティステの大ブレイクなど、NYだけでなく、アメリカの様々な都市のジャズが注目を集めました。ここではアメリカの各地のジャズの特徴や歴史を解説します。いくつもの都市のジャズの状況を通して、アメリカのジャズの中だけをとっても様々な文脈が入り混じっていることを理解してもらいます。

扱う題材:フライング・ロータス、カマシ・ワシントン、サンダーキャット、テラス・マーティン、ルイス・コール、マカヤ・マクレイヴン、ジョン・バティステ、スナーキー・パピーなど

⑨「ブラジルのジャズ(とアルゼンチン、ウルグアイなど南米のジャズ)」

ブラジルはサンバ、ボサノヴァだけでなく、独自の音楽が生み出される音楽大国です。そこからは新たなアーティストが出てきているだけでなく、過去の音楽も常に再評価が行われ、現在も過去も常に注目され続けています。アメリカのジャズシーンでも常に参照され続けているブラジルの音楽を解説します。現代のブラジルの音楽を知ることで、ブラジルと相互に影響を与え合っているアメリカを中心としたジャズをより深く理解するためのヒントを得てもらいます。

扱う題材:アントニオ・ロウレイロ、ハファエル・マルチニ、アンドレ・メマーリ、ジョアナ・ケイロス、ミルトン・ナシメント、エグベルト・ジスモンチ、ギンガ、エルメート・パスコアル、アルトゥール・ヴェロカイ、レチエレス・レイチなど

⑩「カリブ海諸島・中南米のジャズ」

ディジー・ガレスピーやスタン・ケントンなどの例を上げるまでもなく、キューバやプエルトリコの音楽はアメリカのジャズに多大な影響を与えてきました。それは今も続いていて、ジャズにおける最大のインスピレーションでもあり続けています。そして、21世紀以降、キューバやプエルトリコのジャズも様々な影響を消化し、進化し、音楽性を拡張しています。ここではキューバやプエルトリコを中心に、カリブ海諸島や中南米のジャについてを解説します。カリブ海諸島のジャズの多様さを理解することで、ラテンジャズに関する解像度を高めてもらいます。

扱う題材:ダヴィッド・サンチェス、ダニーロ・ペレス、ミゲル・ゼノン、ヘンリー・コール、アルフレッド・ロドリゲス、ダヴィ・ヴィレイジェス、ファビアン・アルマザンなど

⑪「世界のジャズ(イスラエル、レバノン、アルメニア、モロッコ、南アフリカ、ナイジェリア、エチオピア、韓国など)」

ジャズは世界中に広がっていて、世界各地で独自の変化をとげています。近年ではイスラエルのジャズミュージシャンがアメリカやヨーロッパのシーンを席巻していたり、大きな影響力を持つ国も出てきました。ここでは世界中のジャズを解説します。ジャズがいかに多様で、いかに柔軟な音楽であるかを学ぶとともに、音楽に携わる者としての幅広い知識を身に着けてもらいます。

扱う題材:アヴィシャイ・コーエン、シャイ・マエストロ、イブラヒム・マーロフ、ティグラン・ハマシアン、ンドゥドゥゾ・マカティニなど

⑫「ECMとヨーロッパのジャズ」

ドイツのECMレーベルをはじめ、ヨーロッパには数多くのレーベルがあり、どれもアメリカとは異なるベクトルでジャズの進化に貢献しています。そして、ヨーロッパのジャズにはアメリカのジャズとは異なる影響源があります。ここではヨーロッパのジャズについて解説をします。ジャズの多様性を学んでもらいます。

扱う題材:ECM、ACT、Enja、Edition、We Jazzなどのヨーロッパのジャズ・レーベルの作品

⑬「ジャズとアメリカ」

アメリカのジャズとは言っても、その中には様々なベクトルがあります。過去の音楽を研究し、その要素を取り入れる際にも様々なケースがあります。ここではアメリカの音楽を研究し、その影響を取り入れて、新たな音楽を生み出そうとするアーティストについて解説します。ジャズを生んだ国、アメリカの音楽の奥深さを学んでもらいます。

扱う題材:ジュリアン・ラージ、ジェイソン・モラン、ビル・フリゼール、ブライアン・ブレイド、デイヴ・ダグラスなど

⑭「ジャズと人種問題」

ブラック・ライヴス・マター以降、人種問題に対するメッセージを含む作品が増えています。アメリカだけでなく世界中でリリースされているアフリカ系の音楽を理解するためにはその背景を知ることが不可欠です。ここではアフリカ系アメリカ人を中心に、世界中のアフリカ系のミュージシャンによる音楽を紹介し、ジャズと人種問題の関係を解説します。ジャズを理解するために不可欠なジャズの背景を学んでもらいます。

扱う題材:アンブローズ・アキンムシーレ、クリスチャン・スコット、カマシ・ワシントン、ロバート・グラスパー、テレンス・ブランチャードなど

⑮「ジャズ史と女性」

21世紀に入ってようやくジャズの世界でも女性ミュージシャンについて考える機運が生まれました。性的平等をもたらすために世界中で様々な取組が行われたり、歴史上の成果があるにもかかわらず不当に低い評価しか得られなかった女性ミュージシャンの評価を正当なものに修正していく動きが活発になっています。ここではジャズ史における女性ミュージシャンの功績を解説します。これからのジャズにおいて、知っておくべき知識を身に着けていただきます。

扱う題材:メアリー・ルー・ウィリアムス、ジェリ・アレン、ベティ・カーター、テリ・リン・キャリントン、メルバ・リストンなど

※教科書・参考書の類はありませんが、様々な音楽雑誌、音楽系のウェブ・メディア音楽書籍などを読んでおくと理解がしやすくなると思います。

面白かったら投げ銭をいただけるとうれしいです。