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column is a diary:ミルトン・ナシメント & エスペランサ・スポルディング - Milton + esperanza(11,000字)

エスペランサ・スポルディングミルトン・ナシメントの共作を聴いたときに僕は「バランスがいい」と思った。

つまり、よく考えられているアルバムだと思った。インタビューで何度聞いてもその辺の意図に関してはエスペランサは話してくれなかったが、深く考えてやったのだろうし、深く考えて様々なプランをたてて臨んだが、81歳のミルトンからダメ出しもされたし、変更も余儀なくされたのではないかと思う。随分ラフな仕上がりになっている曲もあるし、エスペランサっぽくないところも沢山あるのはそんな現場の事情なのかなと。でも、それが正解だったんだろうなと出来上がった作品を聴いていて思う。

ベースマガジンのレビューで以下のようなレビューを書いた

「ここではエスペランサは敬愛するミルトンの音楽の多面的な魅力をあらゆる手段を用いて、しかも、彼が過去に奏でてきたサウンドのイミテーションではなく、新たなやり方で具現化しようとしている。讃美歌のようなスピリチュアルな透明感を持ち、ビートルズの影響を受けたサイケデリックなサウンドもあり、ジャズ経由の即興性もある。雄大さや包み込むような優しさもあれば、軍事政権に立ち向かう厳しさもあった。」

https://bassmagazine.jp/notes/discreview-2024summer/#milton

ミルトン・ナシメントの音楽、というか、彼を中心にしたミナスのコミュニティの音楽の特徴は特定のサウンドが存在するというよりは、様々な混在するハイブリッドで幅の広い音楽性にある。端的に言えば、曲によって入っている要素が異なり、アルバムの中に様々なタイプの曲が入っていること。そして、その要素の多くが必ずしもブラジル由来のものではない、ということだろうか。サンバやボサノヴァと比べると「ブラジルの民族音楽」的な雰囲気がかなり薄い。にもかかわらず、ブラジルの、ミナス地方でしか生まれなかったであろうサウンドになっているのが面白いところだ。

そういった幅広さをエスペランサはひとつずつ収めているように思える。例えば、ミルトンはデビューのころからストリングスやオーケストラを入れることが多いのだが、新作ではブラジルはミナスのオーケストラのOrquestra Ouro Pretoを起用して、そこを押さえている。そんな感じで様々なやり方でミルトンがやってきた音楽要素を取り込んでいる。結果的にここまでわかりやすいミルトン・ナシメントへの入門・導入作品はないと言えるようなものになったと思う。

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音楽に関するテキストを書きます。最低週1本で更新していけたらと思っています。インタビューを沢山公開し…

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