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ポルトガルの緑のワイン

 ポルトガルにはヴィーニョ・ヴェルデ、緑のワインと呼ばれるワインがあるという。その美しい響きに惹かれ、ぜひ現地で飲んでみたいと思った。今から20年近く前のことになる。

リスボンからポルトへ

 かつて「7つの海を制した」といわれるほど繁栄を極めたポルトガル。空港に降り立つと、それまで訪れた他のヨーロッパの国とは雰囲気が違う。ああそうか、ここはもうアフリカに近いんだ。そう思った。

 ポルトガルへの旅を計画してくれたのは、このnoteを一緒につくっているNoriko。イギリスに住むMihoko夫婦も誘って4人で旅をした。

 旅の直前まで、私はフランス菓子の短期集中講座に通っていた。当時28歳。製菓の基礎を学び、将来、自宅でお菓子教室など開ければ、なんてそれこそ甘い夢を見ていたのだが、自分の不器用さを思い知らされるばかりの日々だった。しかし、フランス人シェフが講義の合間に時折話してくれるフランスの食文化に興味を引かれ、食への関心はますます深まった。

 ふんわりしたフィンガービスケットで周囲を囲み、中にババロアを流し込むケーキの作り方を教えてもらっていた時のこと。「ビスケットは白ワインやシャンパンに合わせてもいい」というシェフの言葉に驚いた。ワインって、お菓子と合わせてもいいんだ。お菓子を習いに行って、ワインにも興味を持つようになった。

 講座の修了に合わせ、ポルトガルへ旅立った。リスボンの街に着いたのは夜。翌日、ユーラシア大陸の西の果てといわれるロカ岬やシントラの街を観光してから、列車でポルトを目指した。

ポートワインを飲み比べ 

 ポルトはポートワインの産地として知られる世界遺産の美しい街だ。街の一角には有名なワインメーカーの案内板が掲げられ、川沿いにはメーカーのロゴをデザインしたボードのようなものがずらりと並んでいた。川を行く船にもシンボルマークが描かれている。

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 夕食の後、私たちはポートワイン協会直営のバー「ソラール・ド・ヴィーニョ・ド・ポルト (Solar Do Vinho Do Porto)」に行った。ゆったりとした店内にはいろいろなメーカーのワインが並び、4種類の飲み比べセットを注文した。

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 白いシャツに黒いベストの紳士がワインをグラスに注ぐ様子を、ワクワクしながら見守る私たち。ポートワインを飲んだのはこの旅が初めてだった。とろりと甘くてアルコール度数の高い酒精強化ワイン。隠れ家めいた雰囲気のバーで、少しずつ味の違いを楽しんだ。

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ワイナリーとアズレージョ

 翌日はワイナリー見学に出かけた。船のマークがシンボルのCALEMに向かう。ポートワインといってもいろいろな種類があると初めて知った。黒ぶどう品種でつくるルビー・ポート、白ぶどう品種が原料のホワイト・ポート。収穫年や樽熟年数を表示した特別なタイプもある。

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 本によると、長い年月樽熟成させた「トウニー」というタイプは、10年、20年、30年、40年ものがあり、この年数は平均を表す。樽熟年数と瓶詰め時の年を記載するそうだ。ボトルに数字が書いてあった理由が分かった。見学を終え、お待ちかねの試飲。熟成年数の違うものなど数種類を飲み、お土産を購入。巨大な樽の前で記念撮影した。

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 一緒に行った3人はもう一カ所、黒いマント姿の男がシンボルのSANDEMANのツアーに参加するという。私はガイドブックで紹介されていた教会のアズレージョが見たくて、別行動をした。

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 アズレージョはポルトガル独特のタイルで、家の壁の装飾などにも使われている。教会で美しい青いタイルに描かれた天使や貴婦人の姿を眺め、写真を撮った。その後、ドウロ川にかかるドン・ルイス1世橋を渡ってワイナリーのある対岸へ戻ったのだが、私は高所恐怖症。一人で橋を渡るのが少し怖かった。

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 SANDEMANの見学ツアーに参加していた3人と合流するため、ワイナリーへ入ると、3人は試飲を終えたところだった。シンボルの男と同じように黒いマントをまとったスタッフがいる。調べてみると、マントはポルトガルの学生のもの、帽子はスペインのもので、男にはDonという名前もあるそうだ。
 ツアーの案内スタッフも黒い帽子とマント姿だったらしく、テーマパークみたいだ。面白そうだったので、参加してみればよかったと思った。ワインが好きになった今なら、喜んでワイナリーをはしごしただろう。

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ヴィーニョ・ヴェルデと対面

 念願のヴィーニョ・ヴェルデを飲んだのは、ポルトのレストランだった。塩ダラをジャガイモや卵と炒めた料理と一緒に、白ワインを飲む。緑色のボトルからグラスに注ぐと、グラスの縁に小さな泡が生まれる。
 ヴィーニョ・ヴェルデは爽やかな酸味のある微発泡性のワインで、ポルトガル北部、ミーニョ地方で生産される。地図を見ると、ポルトの北側に当たる地域だ。ヴェルデは緑を表すが、若いという意味もあるそうだ。ヴィーニョ・ヴェルデという名は若々しさを表現したもので、若いうちに飲むべきタイプのワインが多いという。てっきり白だけだと思っていたが、赤やロゼもあるらしい。

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 念願かなって口にしたヴィーニョ・ヴェルデ。ポルトガル名物の塩ダラ料理とよく合う。テレビ番組で見たのだが、大きな塩ダラを長時間水に浸けて塩抜きをしてから調理する。魚介類のソテーやフライ、米料理やスープなど、ポルトガルの料理はどれも食べやすく気に入った。ワインのラベルをきれいに剥がすことができたので、レストランのショップカードと一緒に記念に持ち帰った。

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 旅先でその土地のお酒を飲む楽しさを知ったポルトガル。ワインにも興味が湧き、帰国後、ワインセミナーに通った。ワイナリーでミニボトルのポートワインセットを買って帰ったが、甘くて料理には合わないし、何と合わせて飲めばよいのか分からない。セミナーの先生に尋ねると、チョコレートに合うと教えてもらった。ワインとチョコレート! 白ワインは魚、赤ワインは肉、と思い込んでいて、デザートワインという存在も知らなかったので、ワインの奥深さに興味が深まった。フランス菓子を習っていたとき、シェフがビスケットと白ワインの話をしてくれたことを思い出した。

 お酒を飲めるようになって、旅はより楽しくなった。今でもポルトガルのワインを見かけると、旅した街を懐かしく思い出す。 

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ポルトガルで食べた料理についての思い出にも触れた記事はこちら。

この時のポルトガルの旅について書いたNorikoの記事はこちら。

(Text:Shoko, Photos:Shoko & Mihoko)  ©︎elia
※「日本ソムリエ協会 教本」参照



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