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夏のカナダのブラックベリー

 初めての海外は、大学2年の夏。カナダのバンクーバーだった。目にするもの、耳にするもの、口にするもの、何もかもが珍しくて新鮮だった。

 ドキドキしながら乗り込んだ国際線、機内食、緊張の入国審査……。あれから20年以上が経ち、ありありと覚えていることもあれば、写真を見て思い出したこともあった。少し色あせたアルバムをめくりながら、懐かしい記憶をたどった。

 時差ボケとのたたかい

 バンクーバーには父の兄にあたる伯父一家が住んでいる。大学の友人たちから海外旅行の話を聞き、私も行ってみたいと夏休みに旅行を計画した。短期間の滞在のつもりだったが、伯母側の姪のMちゃんが語学学校に行くことになっていて、私も便乗して同じ学校に行かせてもらうことになった。

 そんなわけで、初めての海外なのに現地までは一人。緊張して飛行機に乗り、旅の英会話集を機内で何度も何度も読み返した。当時はまだ入国審査も厳しくなかったので、拍子抜けするくらいあっさりと税関を抜けた。

 空港には、伯父と伯母が迎えに来てくれた。昼食の後、時差ボケにならないようにと伯父が用意してくれた『ターミネーター2』の映画を見ながら、一生懸命起きていたのだが、だんだんまぶたが重くなっていく。「Shokoは寝とるぞ」と話す伯父の声を聞きながら、心の中で「起きてます」と呟いていた。

 滞在中は、いとこ3人や伯父と伯母があちこちに連れて行ってくれた。渓谷にかかる地上70メートルの高さにあるキャピラノ吊り橋では、揺れる橋をこわごわ渡りながら、なんとか写真を撮った。冬はスキー場になるグラウス・マウンテンではロープウェーやリフトに乗って、街を眺めた。

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 スリリングなラフティング 

 1泊2日のラフティングも体験した。従姉のCちゃん夫婦と友人たちが計画していたのだが、1年以上も前から予約が必要な人気のツアーだという。行けなくなった人の代わりに、運良くMちゃんと私が連れて行ってもらえた。雄大というしかない景色の中を、ボートでくだる。夜はテントを張り、キャンプファイヤーを囲んだ。日本では見たこともないような長い長い貨物列車に驚き、空一面に広がる星に見とれた。何の光もじゃましない闇の中で、天の川がきれいに見えた。

 昼食は、自分でパンに具を挟んで作るサンドイッチ。夜は炭火でバーベキュー。確かカリフラワーやマッシュルームが生で出てきて驚いた。お米は野菜感覚だ。デザートのケーキには、ヘアームースのような缶に入ったクリームを添える。ふざけてクリームを腕につける人もいた。

 2日目は急流つづきで、日記に「I'm tired. つかれた」と書き残している。流れが急なところではボートの中央に張ったロープにつかまり、ゆるやかなところではロープをつかんで川に入った。ボートから投げ出される人が出るくらいで、スリリングだ。水につかった後は寒くて震えていたのだが、他の人たちは平然としていた。急流は少しこわかったけれど、忘れられない体験だ。

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 道端でベリー摘み

 ベリー摘みに行ったのも懐かしい思い出だ。伯父の家から少し車を走らせただけで、道端にブラックベリーがいっぱい生えている。

 こんなところに野生のベリーがあるんだと驚いたけれど、私も子どものころは、自宅の近くで野イチゴを摘んで遊んでいたので同じようなものかもしれない。野イチゴはそのまま食べてもあまりおいしくなくて、たった数粒の赤い実を、ジャムにしてくれと言って母を困らせた。

 この日はブラックベリーがどっさりとれた。料理上手な従姉のRちゃんが、フレッシュなベリーにクリームをのせてデザートを作ってくれた。ブラックベリーは甘い香りだけれど、口に入れると少し酸っぱい。翌日、残りのベリーでジャムを作った。このジャムは、Rちゃんが瓶に詰めて、お土産にしてくれた。

 ウィスラーでカヤック体験

 語学学校では、勉強だけでなく、いろいろなアクティビティがあり、リゾート地・ウィスラーへ1泊2日で出かけた。冬はスキー客でにぎわう地域だ。バスはモミの木のような針葉樹が生い茂る中を走っていく。遠くの山の頂には、雪が残っていた。

 講師のL先生とMちゃんと一緒に、湖でカヤックに乗った。自分たちだけでは、うまく漕げず戻ってこれなかったかもしれない。L先生によると、夏はカヤックやラフティングを楽しむのが、真のCanadianだという。ウィスラーでは、山の頂上でオーケストラコンサートが開かれていた。

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 ある時は、ビーチに花火を見に行った。音楽に合わせて、船の上から海上に花火が上がる。日本からの花火もあり、ドドンパ節に合わせて上げられた。

 エアショーを見物し、フェリーで州都ビクトリアへ日帰りで出かけ、車でアメリカのシアトルにもつれて行ってもらった。個人旅行ではできないような盛りだくさんの体験ができたのは、あたたかく迎えてくれた人たちのおかげだ。

 帰国する飛行機の中では、レポートのために平家物語を読みながら帰った。「絶対また行きたい」と書き残したけれど、再訪できたのは何年も経った後だった。

(text & photos : Shoko) ※一部写真を除く  Ⓒelia

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