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no.15 着想 ― クリエイト(創造)



テーマとコネクトする、そして次にあなたはそのテーマの実現のために何ができるか―コントリビュートの方法―を昼夜問わず考えている。
そして、思いがけない瞬間に、貢献のアイデアが熟し、啓示が起こる。インスピレーションが湧くのだ。
 
クリエイト―創造とはこのインスピレーションである。
テーマを具現化する鍵となるアイデアは、たいてい突然頭に浮ぶ。
 
JP Gilford の思考段階で言えば、「創造」とは「収束:つまり集中」だ。コネクトしたい、貢献したいというプロデューサーの想いが混ざり合い、 「これだ!」という発想に集約される。 
 
ウォルター・アイザックソンが書いたジョブズの伝記の中での、アップル社の創業者の一人であるエンジニア スティーブ・ウォズニアックの経験。彼は、最初のデスクトップ パーソナル コンピューター Apple 1を着想するきっかけになったときのことを思い出した。 
1975年、コンピューターに興味のある若者が友人の自宅ガレージに集まり、この場面が起こった。
 
「あの夜は、僕の人生でも有数の大事な夜になったよ。」とウォズ(ウォズニアック)は言う。その夜は30人ほどが集まり、フレンチのガレージに入りきれなくてアプローチまで人が溢れていた。順番に自己紹介をして自分が何に興味を持っているのかを話していく。ウォズはとても緊張していたそうだが「ビデオゲーム、ホテル向けの有料映画のシステム、関数電卓の設計、スクリーン付端末の設計」に興味があると語ったらしい(ムーアが作成した議事録にはそう書いてある。)アルテアのデモも行われていたがウォズにとってはマイクロプロセッサーの仕様書を見せられたことが重要だった。マイクロプロセッサーとは、中央処理装置のすべてが一つにまとめられたチップのことで、それについていろいろと考えていたウォズは、ふと素晴らしいことを思いつく。ウォズはキーボードとモニターを持ち、遠くのコンピューターに接続できる端末を設計した経験があった。マイクロプロセッサーがあれば、ミニコンピューターの機能を部分的に端末に組み込み、ちょっとしたスタンドアローンのコンピューターをデスクトップに置けるのではないかと気づいたのだ。これは、将来、すべてをまとめたパッケージとし個人に提供することを可能にするのだ。「この時、パーソナルコンピューターと言ってもいいビジョンが僕の頭の中に浮かんだんだ。そして、その夜僕は後にアップルⅠとして世に出る物のスケッチを描き始めた。」(㉕)
 
コネクトしたテーマに関わる多様な経験と、自分に何ができるかを考え抜くことが、世の中から必要な情報をキャッチするアンテナの役割を果たす。
 

クリティカルコアの発見


「創造」とは、テーマを実現するための鍵を見つけること。
 
この鍵/クリティカルコアは、テーマを実現するためのさまざまな手段の中でも最も重要な要素だ。ビジネスの場合、成功の核となることから、ビジネスプロデュースの「クリティカルコア」と呼ばれる。
 
シャネルのクリティカルコアは、相反する2つの要素「モード/現代性、およびスタイル/普遍性」の絶妙な組み合わせだ。 IKEAの場合は、低コストで商品を提供する「大型倉庫型セルフサービスストア」である。
 
スターバックスの例では、最高品質のコーヒー豆を使用して、ファッショナブルでロマンチックなコーヒー ショップを展開するための条件は何だったろうか?
 
l   プレミアムコーヒーが楽しめる広々とした居心地の良い店内
l   各種コーヒーの品質や製法を知らせる情報
l   好きな飲み物を選ぶ楽しさを味わえる豊富なメニュー
l   スターバックスを特別な場所として認めてもらえ、経済的に余裕のある客に選んでもらえるような高価格設定、スタイリッシュな立地と店舗
 
これらの条件が実現され、お客様一人ひとりに喜んでいただくためには……、お客様の満足度とリピート客となってもらうための鍵は……シュルツは、それはそこで働く従業員一人ひとりのサービスの品質にあると認識している。
スターバックスでは、従業員の質と行動、そして彼らの能力がクリティカルコアである。
 
スターバックスでは従業員をパートナーと呼ぶ。パートナーの日々の業務がこれらすべての条件を満たす鍵であることに、シュルツは気づいたのだ。
 
コーヒーをつくり、それをカップに満たしてくれる人、バリスタ。
彼らの自由裁量を拡大し、率先して顧客にサービスを提供してもらう。最終的に、シュルツは本当のパートナーとして彼らに会社の株を所有する権利も与えた。
 
米国の新しいコーヒー文化は、マニュアルではなく、スターバックスのスピリットを強調した小冊子「Little Green Book」にデザインされている。
 
このようにクリティカルコアはいったんこれが確立すれば、様々なほかの条件を結び付け、テーマを実現するための鍵となる。
 
だからこそ、私たちはインスピレーションを辛抱強く待つのだ。
 

創造は推移的


 
ひらめきは突然湧いてくる。多くの場合、ある無意識の状態で。たとえば深い眠りの後や、のんびり散歩をしている時、お風呂に入っている時など。くつろぎとリフレッシュのひとときに。
 
有名なアルキメデスの話がある。
国王から「王冠に使われている金属の構成を、――純金以外の金属が使われているかどうかを判断して報告してほしい」との依頼があった。
古代ギリシャの、物理学がまだ確立されておらず、物質の比重の概念がまだ明確でなかったとき、アルキメデスは純金の重量と容量を王冠の重量と容量とに比較することによって金属の純度を決定しようとした。その手段を思いついたのは、湯を張った湯船に沈み、湯があふれているのを見たときだ、彼はいきなり「エウレカ!」と叫んだ。彼が国王の要求するテーマに深くコネクトし没頭していたからこそ、クリティカルコア――この場合、それを判断する技術的手段――が発見された。
 
創造は天からの贈り物と言える。苦労だけではたどり着けないレベル、正解へと導くひらめきだ。
 
アメリカの心理学者ワラスの解説によると、このインスピレーションは、準備期、孵化期、啓示期、そして最後に実証期の4 つのフェーズを経て得られるという。
 
l   準備期はコネクトと貢献のフェーズであり、真剣にテーマに向き合い、達成指向力をフルに発揮して、どれだけ深く、広く、遠く、テーマ実現への貢献を模索できるか、をいう。
l   孵化期とは、人間の潜在意識で思考が熟成されている時間のこと。発酵の時。プロデューサーはアイデアが核となって形になるのを待っている。
l   啓示期とはインスピレーションである。それはアイデアの誕生であり、クリティカルコアの発見である。
l   最後の実証期は、発案/プレゼンテーションのステージの最初の 2つのステップ、コンポーズ(I)とコミュニケート(I)である。コネクトする、貢献する、創造するというプロセスを、まとまったストーリーにまとめられるかどうかをチェックするのだ(この方法については後ほど説明する)。実証期は、それらを分析・検証し、ステークホルダーを納得させる。クリティカルコアを再定義していく段階である。
 

クリエイト(個性について)


 
さまざまなプロデュースにおいて個性が重要であるとよく言われる。
 
この個性に関しては、すべての人間にはもともとそれぞれの個性、一人ひとりユニークなものがあるのである。もっと広く考えれば、植物も動物も……すべての生物は固有のDNAを持って生まれてくる。
そして、それぞれの種やDNA(インスピレーション)は、土、水、空気、光、温度などの環境に恵まれて芽(アイデア)となり、根は強くなり、環境に適応した一本の木となり、歴史を生み出す。ひとつの種と他者とのつながりが活かされて、DNAが個性を具現化し、開花する。
 
つまり、インスピレーションに関しては、ユニークであることにこだわる必要はないのだ。
 
テーマへのコネクトと貢献が本物であれば、クリエイションは特定の個性を持つことになる。
 
インスピレーションは、技術革新、さまざまな要素の組み合わせ、または既存の技術の新しい分野への応用かもしれない。
あるいは、これまで見過ごされていた未知のニーズを顕在化し、それに応えようとすることから生まれるかもしれない。
 
例えばソニーの大ヒット商品であるウォークマンは、イヤホンの形状以外には、これといって革新的な技術を使った製品ではなかった。単純に持ち運びやすい音楽プレイヤーで、機械としての要素は当時のままだった。しかし、それは商業的イノベーションとして成功した。
このウォークマンが現在のアップルiPodやiPhoneなどの誕生のきっかけとなったといっても過言ではない。
 

クリエイトの段階で求められる能力


 
判断力
 
クリティカルコアのインスピレーションには、アイデアが本当にテーマに貢献しているかどうかを判断する能力が必要だ。
 
この力は、プロデューサーの知性と感性の混成であり、創造の源となる力である。
 
理解の広がり、深さ、将来の的確な認識が正しい判断につながる。
ひらめきはリラックスしている時に得られることが多いのだが、その前にコネクトや貢献の段階での精神的な粘り強さも求められる。
 
一方で、スポーツの試合の審判のように瞬時に判断する能力はどのようにして生まれるのだろうか?
 
高岡英夫は幼少期から武術を学び、宮本武蔵をはじめとする剣聖の研究を長年続けた。高岡は、心と体の「リラックスする才能」において周囲の環境と調和することの重要性を強調している。彼はこれを「ゆるい状態」と呼んでいる。(㉖)
 
英語では柔軟性と自信の重要性。「ふわりと浮かびながら静かに待っている」状態だ。
 
あなたはリフレッシュしてリラックスして、自分の可能性を最大限に引き出すインスピレーションを得ることができるだろうか?
 
インスピレーションを得やすい環境を作る方法の 1 つは、生活のリズムと空間、そして自分自身の健康のバランスを保ち、動きやすく、自分なりの方法でオーガナイズすることだ。
また、さまざまな自然環境や季節の流れ、刻々と変化する日々の時間に気持ちよく触れることも、インスピレーション発動のきっかけになるかもしれない。

参考文献:

㉕ 「スティーブ・ジョブス I」ウォルター・アイザックソン著(講談社)

㉖ 「宮本武蔵はなぜ強かったのか? 『五輪書』に隠された究極の奥義【水】」高岡英夫著(講談社)