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イマーシブシアター『藍色飯店』がとてもよかった(中編)

おまたせしました。「イマーシブシアター『藍色飯店』がとてもよかった(中編)」です。
……はい、すみません、「後編」ではありません。書きたいことがまだまだあって、今回も完結しませんでした💦
自分でもよくまあここまで書くことが出てくるなと呆れるばかりですが、とにかくここまでで書けた内容をアップします。次回こそは!
(「後編その1」とかになりませんように…)

「前編」はこちら


演劇としてのイマーシブシアター

タイトルを見て「イマーシブ『シアター』なのだから、演劇であるのは当然では?」と思えるかもしれませんが、2つの意味があります。
1つは、ノンバーバル(台詞がない)なダンスパフォーマンス中心のイマーシブシアターとの違い。
もう1つは前2作のライブ版「泊まれる演劇」との違いです。

まず、ノンバーバルなパフォーマンス中心のイマーシブシアターとの違いについて。
海外でイマーシブシアターの代表としてよく取り上げられる『Sleep No More』や『Then She Fell』は、セリフのない、いわゆるノンバーバル形式のイマーシブシアターでした。

その影響もあってか、国内でもDAZZLEやego:pressionなどが制作するイマーシブシアターは基本的にノンバーバル形式です。(録音した台詞を被せることはありますが)。

もちろん、国内でも台詞のある演劇形式イマーシブシアターは存在していて、例えばUSJで過去2回行われた『ホテルアルバート』や、以前noteに記事を書いた『パンドオラ』などは台詞のあるイマーシブシアターです。

(ちなみに関東はノンバーバル形式、関西は台詞のあるイマーシブシアターが多い気がします。偶然なのでしょうけれども)

ただ、これら台詞のある作品でもルート固定が強めで演者との会話が限定されているものや、最初から観客が能動的に会話することを禁止している作品が多い。
これは、基本的に台本通りに演じればよい通常の演劇に対して、特に会話の自由度を入れると演者の対応負担が極端に跳ね上がるからです。
何を聞かれるか分からないのに、それに対して台詞をその世界や役に反しないようにアドリブで返さなければならない。これはなかなかにハードです。

以前、参加者と会話ができるタイプの演劇イベントを作っている方にお聞きしたところ、役者として通常の演劇をうまく演じるスキルと、こういった双方向の会話をするためのスキルはまったく異なる(=通常の演劇では要求されないようなスキルを身につける必要がある)という話を聞いたことがあります。

演者と自由に会話できた方が、個々の参加者にとっては自分だけの体験感が跳ね上がりますが、上記のような理由からイマーシブシアターにおいても会話が制約されることが多いのではないかと思います。

しかしながら、ライブ版「泊まれる演劇」は、ずっと自由会話可能なイマーシブシアターの形式を貫いてきました。これはなかなかにチャレンジングですが、3作の間には微妙に形式の違いがあります。

「泊まれる演劇」3作の違い

まずは1作目の『STRANGE NIGHT』(2020/08/01 - 31 HOTEL SHE, KYOTO)

(公式サイトがアクセスできなくなっているようなので、公式ムービーをリンクします)

この作品はルート固定が強めの形式になっています。
参加者毎の分岐はあり、部屋の中の探索などの自由度はありますが、基本的に参加者は決められたルートに沿って進んでいきます。

また特長として、参加者が達成を目指すミッションのようなものが明確に存在します。
これは制作メンバーに「リアル脱出ゲーム」などを手がけるSCRAPのきださおりさんがいることも影響しているのかなと思いますが、参加者は達成目標を中心に物語に参加していくわけです。

この方式は、自由行動の範囲が狭く、また物語がミッション的な目標に向かって進むため、演者と会話ができるといっても、そこまで自由な形式にならない利点があります。
フリーな会話が発生したとしても、固定されたルートの中で参加者が体験したことや目標達成に関連した会話にフォーカスする場合がほとんどで、演者もその範囲で会話を想定していればほぼ対応できるわけです。

続いて、2作目の『MIDNIGHT MOTEL』(2021/06/03 - 27 HOTEL SHE, KYOTO)

この作品の特長は、前作と同じような達成目標のミッションがありながら、中盤までは参加者が自由に動ける点です。そのため、参加者によって、入手した情報もばらつきがあり、会話の幅が前作よりも広がることになります。実際、自分が体験した範囲でも、役者さんの対応は『STRANGE NIGHT』に比べてかなり大変になっている感はありました。

ただ、これもミッションによってプレイヤーが会話で入手したい情報がある程度方向があり、会話がそこからは大きくは逸脱しにくい。
また、後半は物語が収束していき、結果参加者の自由会話も抑制される物語構造になっているので、その中である程度コントロールされてる状態でした。

自由会話と『藍色飯店』の工夫

それに対して3作目の『藍色飯店』は、上演側からミッション的な目的がまったく提示されないイマーシブシアターです。
プレイヤーの行動指針となるミッションを持っていた前2作に対して、『藍色飯店』はどちらかというとその世界に浸るような演劇体験がメインとなっており、ここが『藍色飯店』を演劇的なイマーシブシアターであるとわざわざ言う理由です。

ミッションによって演者との自由会話をうまくコントロールしていた前2作に対して、『藍色飯店』はミッション達成のために引き出したい会話情報がないために、演者との会話はフリーな形式にならざるをえません。
おそらく、演者の方の負担はかなり大きかったのではないかと思います。
(何度か質問をうまく切り返している場面に遭遇して、とても感心しました)

もちろん、『藍色飯店』としての工夫もあります。
部屋ごとの設定がかなり個性的に作られているために(インパクトのある舞台美術がそれを後押ししています)、参加者はそれぞれの部屋に入ったときに、まずは
「ここはどこで、何が起こっているのか?」
を知りたくなります。
さらに演者からもその設定に沿った質問が参加者に投げかけられることで、会話の中心が物語に沿ったものに流れやすい状態を生み出しています。

ちなみに部屋毎の設定が非常に個性的であることは、自分から会話を進めていくことが苦手な参加者でも参加しやすいという利点にもなっています。
「ここはどこですか?」
「あなたは何をしているのですか?」
といった質問をきっかけに会話しやすい雰囲気が出てくるので、イマーシブシアターが初めての人でも自分がその世界の一員として振る舞いやすくなるのです。

世界観を引き出す美術

さきほど「インパクトのある舞台美術が部屋の個性を後押ししている」と書きました。
『藍色飯店』の舞台美術を担当しているのは、竹内良亮さんです。

上記のツイートからの飛び先で分かるように(一応、どんな部屋あったかのネタバレになるので注意)、非常に幻想的な舞台美術です。

竹内さんはライブ版の「泊まれる演劇」の舞台美術をずっと担当されています。
いままでの「泊まれる演劇」でも、ここはホテルの部屋の中か?と思えるほど独特の世界を生み出していましたが、本作では作品の世界設定に非常にマッチして、個人的にはシリーズの中でも一番竹内さんのテイストが活かされているのではないかと思います。


ということで中編はここまでとなります。
次回こそは、必ず完結!……するといいなあw


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