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イマーシブシアター『藍色飯店』がとてもよかった(後編)

大変お待たせしました、ようやく「後編」をお届けします。
今度こそ、これで完結です!
前編と中編はこちら↓


人間関係が見えてくる快感

『藍色飯店』の登場人物たちは、それぞれが1人ずつホテルの部屋という空間に仕切られています。そして、彼ら彼女らとの会話によって、お互いの人間関係が少しずつ見えてきます。
人間関係が最初に明示されずに、会話の中から少しずつ見えてくるというのは、一般の演劇や映画などでもよくある手法ですが、ここでイマーシブシアター的な面白さが出てきます。

例えば、Aさんと会ったあとにBさんがAさんを暗示するような話をした場合、Bさんとの会話の最中に「あ、これはAさんのことでは?」という理解をする。
でも、Bさんと先にあった場合は、Aさんを暗示するような話を聞いても「ふうん、そういう人がいるんだ」と思って、そのあとAさんと会った時に「あ、この人はBさんの言ってた人では?」とそこで理解する。

『藍色飯店』の場合、部屋にいるメインキャストだけでもそれなりの人数がいるので、部屋をどの順番で回るかによって、人間関係の把握を中心とした物語体験にかなりの変化が出てきます。
場合によっては、人間関係を再確認するために、同じ部屋にまた向かう人も出てきます。

そして、それらの人間関係が頭の中に仮構築されてきた時に、人間関係について重要な特別イベントが発生したりする。
仮構築の内容も人によって違ってきますから、「ああ、やっぱり!」だったり、「えっ、そうだったの!?」と受ける印象がまた変わってくる。ますます、「自分ならではの体験」になってくる訳です。

『藍色飯店』のイマーシブ体験の中心に、この人間関係が少しずつ分かってくるというのを据えたのは非常に効果的だったと思います。
部屋単位でキャストとシーンが分断されているという構造と非常に相性がいいのと、人間同士の関係性というのは観客にとっても理解や共感しやすい切り口であり、積極的に知りたくなる能動的な行動を引き起こすものだからです。

実際、イベントが終わったあとのロビーでの飲食タイムでも、多くの参加者の話題は「Aさんの正体は?」「BさんとCさんはどういう関係だったのか?」といった内容が圧倒的に多かったです。
特に、特別イベントは前編で書いたように同時多発的に発生することが多く、自分が見ていない所で人間関係についてのイベントが発生していることも多々ありました。
終わった後も、他の参加者と見れなかったイベントの情報や考察の議論をすることによって人間関係の想像はさらに膨らんでいき、物語が終わっても『藍色飯店』の体験が続いていくのです。

ちなみに、毎回アフターで議論になっていたのが、ある二人の関係性でした。この二人については、2つの矛盾するような情報が『藍色飯店』の中でそれぞれ示されており、どちらが正しいのか、いつも議論が白熱していました。
制作者側の意図として、どちらかが正しいと考えているのか、どちらも正しくなるような設定があるのか、それともあえて正解を決めていないのか。このあたり非常に気になったところです。

終わったあとの交流の場

上で書いたように、イマーシブシアターはそれぞれの体験が独自であるがゆえに終わった後も議論が白熱しやすいイベントです。
『藍色飯店』では、終わったあとにロビーが食堂として開放され、台湾料理を楽しみながら参加者同士で交流したり議論することができました。

終わったあと交流できる場というのは『Sleep No More』や『ホテル・アルバート』などにもあり、同じイベントに参加した人同士であり、イマーシブシアターとして個々の体験を語れるというのもあって、初対面であっても会話も弾みます。
さらに『藍色飯店』の場合は、全員宿泊者ということで帰りの心配をしなくてよいため、アルコールを飲みながら思い切り夜更かしして交流できるというのも良かったです。(ビールがなかったのだけが残念)

ちなみに料理はイベント中も(特別なタイミングをのぞき)注文することができました。終わるのが0時近いのと、ホテル内を歩き回るのでけっこうお腹が減って、途中で食べられるのはありがたいのですよね。
が、部屋を一生懸命回っていたり、いつ特別イベントが起きるかと見守っているタイミングではなかなかに腰を落ち着けて注文できないのが正直なところ。私も3回目でようやく食事をするタイミングを見つけて、空腹を満たすことができました(笑)

気になった点

ここまで絶賛の内容ばかり書き連ねてしまったので、最後に少し気になった点を3つほど書きたいと思います。

部屋入場の待機問題

ここまで書いたように『藍色飯店』の主なイベントは各部屋で行われます。その部屋に一定以上の人間が入らないよう、入出時に各参加者が持っている札を入れる袋がドアにぶら下がっており(部屋によってその袋の数は違います)、その袋がすべて札で塞がっている場合は、廊下で今の参加者が出るまで待つしかありません。

また、最大人数になってなくても途中で入るとイベントを最初から見ることができないため、結局外で待つ人も多かったです。
そうなると、どうしても廊下で時間を持て余すことが多くなりがちでした。(知り合い同士だと、ここで情報交換とかもできるのですが)

例えば、廊下でいろんなイベントが発生するとか(これはこれで作る側的には大変ですが)、廊下で何か時間が潰せるようなものがある(ドアの前に読み物があるとか)と良かったかなあと思います。

あと人数上限で一番悲しかったのは、1人しか入れない部屋があるのですが、けっこう滞在時間があって回転率が悪い上に、後半パートは終了時間制限があって、1~2回目の参加時は外で列に並んでいても時間切れで入れなかったことです。(3回目の時はもう真っ先に向かいましたw)

この場合、並んでいる時間が完全に無駄になってしまうので、終了時間制限がある場合には、参加できそうにない人には声をかける等で無駄な時間が発生しないよう配慮がほしかった所です(世界観を崩さずにやるのは難しいとは思いますが)

VIP参加者の特別体験が保証されない

『藍色飯店』では、ツインルーム、シングルルーム、VIPツインルームの3つの参加方法があります。
ツインルームとシングルルームは単に1部屋毎の人数の違いだけですが、VIPツインルームは、値段がツインルームに比べて1人あたり3000円高い分、以下のような特典があると書かれています。

①ドリンクチケット2枚
②特別な体験
③チェックインの開始時間が15分早い

私は計3回『藍色飯店』に参加しました。最後の3回目のみVIP参加だったのですが、「②特別な体験」について、以前からSNS上などで「VIPで参加したが、特別な体験は特になかった」といった意見が散見され、これはどういうことだろうかと思っていました。
後半で椅子に座ってお芝居を見るシーンがあるのですが、そこではVIPが最前列となるため、知人は「最前列保証という意味ではないか?」とも言っていました。

結果としては、これがVIP向けの特別体験であろうと思うものに参加できたのですが、それはVIP優先であって、VIP専用やVIP保証ではないために、VIPでありながら特別体験に参加できない人が出てしまう可能性があると分かりました。
それは、イベントのスタートが廊下である点です。

イベントを引っぱる人が最初に廊下で声をかけてくる(おそらくVIP優先で)のですが、都合よくそのフロアの廊下にVIPがいるとは限らず、時間制限もあって、VIPが揃わない場合は、一般でもOKとする(もしくは少ない人数でも進める)ような構造になっているのです。

起きるイベントの内容的に、廊下が起点になってしまうのは仕方ないかもしれませんが、やはりこれはイベントの構造を修正してでも、必ずVIPが参加できるような形式にするべきではなかったかと思います。
(私の回も人数合わせで一般の人がVIPイベントに参加しましたが、イベントに気づかず参加できなかったVIPの人は後で知ってとても悲しそうでした)

アーリーチェックインのメリットが少ない

もう1つ、上記の特別体験ほどではありませんが、VIPの「③チェックインの開始時間が15分早い」ことについても少し不満が残りました。

『藍色飯店』ではチェックイン後、一度部屋に荷物を置き、時計やスマホなどの時間が分かるアイテムをフロントに預けてからイベントに参加することになります。ただ、預けて即スタートではなく、プロローグ的なイベントが行われるため、ある程度人数が揃った段階でスタートとなります。

今までの説明で分かるように、各部屋には人数制限があるため、早めに開始できた方が部屋の混雑に巻き込まれずにすみます。
なので、VIPはその配慮でアーリーチェックインになっていると思っていました。

しかし、結果的にはプロローグ的なイベントの参加人数上限までスタートを待っていたため、VIP+早めに来た一般参加者でスタートとなりました。
ここはVIPのみでスタートさせた方が、VIPの価値がもっと出せたのではないかと思います。
(VIPは最大6名しかいないため、その人数でプロローグイベントをやるのが効率悪いのは分かるのですが)


おわりに

3回にも渡って、ずいぶん長々と書いてしまいました。
それでも、何か書き忘れている気もしますが、ひとまず筆を置きます。
(何か重大な書き忘れを思い出したら続編を書くかもしれませんw)

先日、2022年~2023年にかけて泊まれる演劇が2回開催されることがTwitterで発表されました。

「共にタイトル未定」と書かれていることから、どちらも新作だと思われます。
この公演とは別に再演が計画されているのかどうか分かりませんが、今回の記事が少しでも『藍色飯店』の再演実現に繋がるきっかけになるといいなと思います。再演があれば、もちろんまた行きます!

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