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アナログとデジタル

アナログとは、連続的な値の表現法です。アナログデータは、連続的な変化を持ち、とりうる最大値と最小値の間で無限に細かく分割(たとえば数値2の前後で1.999…2.000…)することができます。物理的な量や現象を直接的に表現するため、自然界の現象や人間の知覚に違和感のない表現が可能です。

デジタルとは、離散的な値の表現法です。デジタルデータは、離散的な数値で表され、既定の最小値と最大値(たとえば0〜1023)の間で有限個の値(たとえば0,1,…,1022,1023)をとります。ここを間違えて理解している方がいるのですが、デジタルは決して0と1しかない世界ではありません。デジタルデータは、アナログデータを時間軸上一定の間隔、または単発で観測(標本化)し、観測したデータをたとえば小数点以下切り捨てする(量子化)ことによって作成されるものです。

時間軸における標本化は離散的ですが、あくまでもプロセスであって、表現としてのアナログやデジタルとは関係ない直交した操作です。たとえばAMラジオは、音声を何百キロヘルツもの周波数で標本化していますが、標本化された音声データは量子化されずアナログのままです。フィルム写真(単発で標本化)やフィルム映画(24枚/秒で標本化)やテープレコーダー(100キロヘルツで標本化)も同様に、データはアナログのままです。標本化はデータがアナログだろうとデジタルだろうと、観測の必要に応じて行われる操作です。

オーディオにおいてデジタルを忌み嫌う理由として、「CDは標本化周波数の制約で20キロヘルツ以上の音が入っていない。」と言われますが、FMラジオもカセットテープも、標本化によって20キロヘルツ以上の音は入っていませんし、実はほとんどのレコードにも入っていません。20キロヘルツ以上で入っているのは、録音装置やレコード自体のノイズがイコライジングされたピンクノイズです。なぜなら、録音に使われたマイクが構造上の制約で20キロヘルツ以上の音を録れなかったためです。CDの再生周波数を20キロヘルツ以下にしたのもそれが主な理由です。デジタルの欠点を、標本化周波数を論点として語るのは、全く何もわかっていない頓珍漢です。

デジタルとは量子化、つまり観測したアナログデータをいかに上手に丸めるかの技術です。アナログとデジタルは対立するものではなく、実際はアナログの集合の一部としてデジタルが存在しているのです。

デジタル技術は、量子化する際必ず元データと丸め誤差が発生し、その誤差を五感は歪みと認知すること、そして量子化されたデータ自体が完全な正確さで自然界に戻しにくいこと、量子化と戻し処理それぞれにある程度の時間が必要で、リアルタイム性が失われることがネックとして存在します。あまたある量子化・戻し処理方法におけるトレードオフが意外と大きい(画竜点睛を欠くか牛刀割鶏に陥りがちな)ことがデジタルの本質的な欠点です。お金をかければ良くなるという問題でもありません。

デジタルの音がアナログに比べて悪いなどということはありません。16/44のCDも、最適解を選択すれば素晴らしい音になります。そもそもデジタルの再生が満足にできない様では、アナログの再生など満足にできるものではありません。逆に両方とも満足にできている場合、その再生音はどちらも甲乙付け難く美しく感じることでしょう。

最後に。
「私はアナログ人間で」という言葉は、アナログとデジタルを二元論として見ている時点で非常に離散的で、かつ本質をわかっていないのでまったく愚かだと思います。

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