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球磨川リバイバルトレイル 2023 完走記 後編

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W5~W6白岩山 13㎞ (累積121km)

 先行していた3人にまた追い付く。ウォーターエイドにも関わらず、うどんとエナジードリンクがあった。この区間はトレイルの登りが長く続くため、エネルギー補給のため両方頂く。美味しかったし気分転換になり、3人の後に出発。ちょっとロードを走りトレイルの登りに突入。ここからが本当に長かった。そこまで急な斜度ではないが、自分のライトが照らす範囲しか見えない暗闇の世界では、永遠と登りが続くように感じられた。そして、さらに追い打ちをかけるようにまた胃腸のむかむかが出る。力が入らない感はさっきと同じだが、眠気はない。あれこれ要因を考えるがここで思いついたのが、カフェインの摂取し過ぎだった。トメルミンとエナジードリンクで150mgくらい一度に摂った影響なのではと思え、冷静な判断ができてなかった自分を悔やむ。ただ、もうどうしようもないので、またしてもカロリーを摂るのをやめ、水のみ補給でひたすら消化を待ち、その間耐え進む事にする。遅くて抜かされるのではと常にヒヤヒヤしていたが、幸運にも抜かれる事はなく、抜かれる事で起きる更なる落ち込みは避ける事ができた。何とか調子を戻す糸口を探っていたところ、バックヤードで吉田さんが言ってた、自分に”楽しんでいるか?”と問いかけるを思い出す。念のため周りに人がいないことを確認し、何度も何度も声に出して自分へ確認する形で鼓舞していた。大体2時間くらい苦しんだところで、少し胃腸に空腹感が出始め、そうすると体も動くようになる。その後走れそうな緩やかな斜度になってきて、走りを混ぜて進めるようになってきたところでW6に到着。

W6~A5公民館川島分校 10km (131km)

 やっぱり前の3人には追いつけなかった。空腹感がある時点で胃腸が動いている証拠だが、念のため胃腸をいたわりたいと思っていたところ、ありがたいことにお湯があったため頂く。ちょうど気温も低く寒さを感じていたので、身体に染み渡る感じで生き返った。もう少し飲みたかったので、お湯をボトルにも補給して出発。この辺りから、100㎞の部の参加者を抜くことになるが、相当キツそうだった。気分転換を狙って、抜く時になるべく元気に声掛けをして、自分が元気を貰えるように心がけた。事前確認では大したアップダウンはないと思っていたが、実際は激登り/下りがたびたび続き、かなり脚とメンタルを削られていった。本当に100kmの選手がいなかったら発狂してたんじゃないかって思えた。そして自分よりフラフラな100kmの選手達は、この斜面を本当に進めるのだろうかと感じていた。そんな上り下りを何度も繰り返し、ようやくエイドに向けた林道の下りに出る。ここもエイドに行って戻ってくるピストン区間のため、前の選手とどれだけ離れているかを確認しようと思ってた矢先に、下りをゆっくり歩いている直樹君に遭遇。自分より早い13時の飛行機を予約していて、飛行機は諦めるがゴールは絶対目指すと語る目には力が宿っていた。改めて強さを感じ刺激を貰いつつ、完走を誓い合い先行させてもらう。その先でいいペースで登ってきた長谷山さんとすれ違い、ちょっと行ったところでA5に到着。

A5~A6田上社会教育センター 20km (累積151km)

 エイドで先行していた2人追いつく。この2区間は苦戦していた感があったが、それでも大して差がなかったことに安堵した。うどんとイチゴを食べ、コーラをボトルに入れて2人より先にサクッと出発。最近、レースの終盤はボトルにコーラを入れて、カフェインとカロリーを気軽に摂取できるようにするケースが多い。エイドを出てちょっとしたところで1人に抜かれるが、他にすれ違う事もなく、他の後続は結構離れていることを確認してまた1人旅が始まる。相変わらず激登り/下りが続き、本当によくこのルートを作れたなと感心させられっぱなしだった。何としてでも100マイルの1本線を通すんだという強い意気込みを感じ、苦しめられてはいたが同時に感謝もした。そして、夜が明ける前のタイミングで、複数の仲間から9位だと知らされ絶対続けなきゃと気合が入る。徐々に明るくなるにつれ元気も出始める。まだ下りや平地を走れる脚が残っていたのが救いだった。

山の夜明け前は静かで神々しい

 走れているお陰で気分も前向きになり、楽しくなりながら大きく下り、球磨川沿いに降りる。そこからロードを2㎞くらい走って、今回追加された山へ登り返す。この山がまたしても相当な急登で、さっきの元気が一気に吹っ飛び泣きそうになる。そのため、ひたすら自分に”楽しんでいるか”や、”ここまでやってきた努力を報うために完走するするんだ”と、声に出して問いかけ続けた。本当に人が全くいない山域だからできる事で、誰かに見られていたら相当ヤバい奴だった。何とか止まることなく粘って登り続け、命からがらピークに到着。
 ついに待ちに待った下りに入ると、今度はすぐに林道が出てきて下る。この、ピーク近くまで林道が通っている山が多いという点が、大山丹沢山塊とは違うところの1つだった。ただ、この林道は崩れ気味で、一部慎重に降りる所もあった。もう少しで球磨川沿いかなっと思ったところで、先行者が登り返しているのが見える。ここにきてまた急登かと思いつつ登るが、どうやらミスコースだったらしく、引き返して林道に戻り、ちょっと走ったところで球磨川沿いのロードに降りた。そこで上流側を見ると工事のため封鎖されていた。そしてそこから少し走ると、流されたままに繋がっていない鉄道橋や、線路に岩が崩れて乗ったままだったりして、改めて復興の最中である事を思い知らされる。

穏やかな球磨川と、その川に押し流されて分断された鉄道橋のギャップに、心を揺さぶられた

 この災害の爪痕や復興工事の間をぬうようにして、100マイルの線を引いて貰えたんだと思え、あと1区間ちょっとを絶対頑張って線をつなぎきろうと思えたし、感謝の気持ちでいっぱいになった。そして3㎞くらい球磨川沿いを走り、渡ってちょっと走ったところで応援している集団が見えた。近づくにつれて妻と息子がいる事を認識する。それだけではなく、義母や義理の姉やお会いした事がある妻方の親戚、その他数名がわざわざ応援にきてくれていた。全く予想していなかったので相当元気を貰い、最終エイドに前の選手と一緒に到着。ただ、義理の姉と、お会いしたことがある方は、似ていた別の親戚だった事がゴール後に発覚。やはり1日以上走っていると脳は少なからずバグるらしい。(ちなみに、実際結構似ていたのでバグは軽症)

A6~ゴール 16km (累積167km)

 A6では楽しみにしていたカレーを食べる。とても美味しいが1口で相当スパイシーであることが分かった。ただ、エイドにはあとから来た選手を含め3人しか選手がいないため、残すのも申し訳なかったので食べきったが、胃腸にも相当な刺激を入れてしまった事がすぐにわかった。そのため、緩和するために水を飲んだりイチゴや晩白柚を食べ、コーラを補給して2人より前に出発。これで7位でエイドを出発したことになるが、後ろ2人は自分より大分登りの脚が残ってると感じていた。最後の区間は、2山超えで900m D+はあるので抜かれるだろうと思いつつ、行けるところまで頑張ってみることにするか、ジョグはできるが明らかに胃がおかしかった。1km位走ったところでまた家族&親戚が待ってくれて、改めて元気を貰う。事前に妻に共有していた、予定ゴール時間にはギリギリになりそうだと伝え、最後の区間を踏ん張ることを誓う。

平地や緩やかな登りは最後まで走れていた

 その先がロードの峠だとわかっていたので、できるだけ走ろうと頑張るが、峠手前で傾斜が急になり我慢できず歩いてしまい1人に抜かれる。そして少しロードで下り、きついロードの登りが始まる。暑さとカレーの影響か、かなり汗が止まらない。登りの脚も限界に近付いているかのように、だんだん力が入りにくくなる。トレイルの登りに突入するあたりで、更に明らかに動きが悪くなり、とぼとぼ歩きになってしまった。その間に、また1人に抜かれ結局9位に後退。ダメダメモードに入り心が折れ気味ではあったが、何とか1つめ山のピークに到着。ただ、やっぱりここまで来て諦めず粘りたいと思い直し進んでいると、下りは脚が残っているようで動きが良くなり始め、気持ちよく走れるようになる。四頭筋に刺激を入れる練習を続けてきた効果を感じながら、良いリズムを取り戻し下ることができた。下り切ったところで、ちょうど新幹線が通りテンションがあがり、更に水場もあったので顔を洗ってさっぱりする。
 そしてついに、最後の300mアップのラスボストレイルに突入する。”最後は気持ちよく登るぞ”と意気込み踏み出すと同時に、明らかな登れない感に驚く。急登なのもあるがそれ以上に苦しさがある。登りの脚がほぼ売り切れたのに加え、気持ち悪さが出てしまい、またもフラフラしてしまう。10歩進んでは立ち止まるという状況に陥ってしまう。そのため、何度か出てきた10mとか20m位の下りですら、勿体なくてしょうがない気持ちだった。そこで、またも”楽しんでいるか?”、”頑張れ”、”あとひと山”などひたすら声に出して自らを鼓舞していた。急登過ぎて足元しか見ていなかったのもあり、上から降りてきたマーシャルに気付かず、盛大な独り言を聞かれて恥ずかしい思いをした。ただ、広い心の持ち主だったようで、その事には触れず優しく応援してくれて本当にありがたかった。相変わらず人と話すと少し元気が出るものの、やっぱり気持ち悪さが良くならず、ついにもどしてしまう。最後の最後でヤバいと思ったが、もどしたことで少しスッキリする。このちょっとしたスッキリ感がきっかけとなり気を取り直し、水とカロリーを摂取しながら進み始める。結果、遅いなりにも止まらずに登れるようになり何とかピークに到着。眺めの良さとやり切った達成感にしばらく山頂で佇みたかったが、ゴールで家族や親戚を待たせているのも気になったので、さっさと下りへ突入する。するとまだ下りの脚は残っていたようで、テンション高く降りる事ができ、あっという間にロードに到着。そこで残り3㎞と教えて貰い、ジョグができる脚も残っていたので走り始める。そこから少し走ったところで、今度はご夫婦に名前での熱烈応援を頂きより元気になる。そして1㎞くらい走って球磨川の河川敷に到着する。
 長く険しい山々のキツさや、各エイドやマーシャルの方々の暖かさ、仲間からの応援を思い出し、これはまた泣くパターンだなって感傷に浸り気味で1人走る。ゴール手前1km位に居たご家族に応援されるが、その男性の方が義理の兄に似ていて、もしやと思ったらやはり親戚だった。30時間以上寝ずに走ってきた頭はやっぱりおかしいようで、何故か半そで短パンなのに身なりを整えようか一瞬迷う。当然、整えられる要素は1つもないので、挨拶をさせて頂きながら走り続ける。もう泣く感覚はどこかへ消え去った。そして、ちょっと走るとゴールエリアが見えてくる。すると20人くらいの大集団が見え、その中に妻と息子の姿が。正直まじかと思った。親戚がゴールにも来るとは聞いていたが、こんなにいるとは!阿部家は親戚が集まっても10人にもならないのに、妻方の親戚が好き勝手走ったおっさんの為にこんなに集まってくれるなんて!ありがた過ぎて、泣くどころではなく笑ってしまった。そして、つい10分前くらいに名前で応援してくれたご夫婦も親戚だったことがわかり、改めて挨拶とお礼をする。いちおうゴール前だったので、走りながら通過させてもらい、息子と一緒にゴール。30時間58分 9位という出来過ぎの結果で終える事ができた。そして、親戚一同から花束と大きな寄せ書きを頂き、まるで優勝したかのような状況で、若干混乱するがとてもありがたかった。そして、次の日は仕事だったため、予約してた17時半発の飛行機に間にあう時間にゴール出来て心から安堵したw

こんな花束優勝でももらえないかも!

  他にも、100㎞の部女子優勝かつ総合8位だったチー100チームメイトの松尾さんや、同じく100㎞の部に参加していたきんぴらさんが、わざわざ待ってくれていた。本当に嬉しくて、心地よい感じで終わることができた。この大会は、本当に難関コースである一方、エイドは最高で、選手を拍手で迎えと送り出しをしてくれるし、ボトルに給水をしてくれたり、美味しいものを提供してくれたり至れり尽くせりだった。それだけでなく、コース誘導員やマーシャルもみんな優しく温かい人ばかりで、中には名前で応援してくれる人もいたりで救われたり支えて貰えた。苦しんでいる時間帯も含め、会う人には元気に挨拶とお礼を言い続ける事はできたので、参加者の中では相当楽しめた方に違いない!
 過酷で挑み甲斐がある分、得られる刺激やもらえる感覚は格別で、ぜひ色んな人に参加してもらいたいと思ったし、また自分も参加したいと思える素晴らしい大会だった。本当にどうもありがとうございました!

100㎞余裕だったらしい松尾さん、恐ろしすぎる!
ようやくお会いできたきんぴらさん、声を掛けて貰えて嬉しかった!

ゴール後の振り返り

 今回は、胃腸トラブルでペースを落とす事になったが、登りの脚を結構やられていたので、結局ペースは上がらなかったと思う。やっぱり、まだ登り力を鍛える必要があると感じた。一方、下りや平地の走りについては最後までもったので、練習してきた結果が表れたのは良かった。完走者の上位20名の結果を見てみたところ、後半の方が各区間の区間タイム順位が高かった。ペースをおさえようと思ったW2-A2区間は実際に順位は下位だったし、胃腸トラブルがあったW3-A3区間、W5-W6区間、A6-G区間も、苦戦感はあったがそれなりの順位だった。みんなも苦しむところは同じという事でもあるが、粘ってプッシュできるようになれれば、もう少し上位を狙えるような気がする。

赤が自分の結果、序盤少し飛ばし過ぎなのかも。一方3位だった前田さん(濃いグレー)は、安定感がありつつ後半早く、強さとペース配分の上手さが際立っていて憧れる。

 メンタル的な面で最後まで意識していたのは、”報われたい”ではなく”努力を報うために何ができるか”だった。大会に向けて準備してきた身体や心を労うためには、何かしら納得できる結果を残す事だと思う。なので、たとえDNFでも自分なりに挑み、心から納得できればそれで良いと思う。その結果として、また次の努力につながるとういループが起きる。その推進力を上げるために、努力を報うという感覚がしっくりきている。この言葉を意識すると、”何ヵ月も練習してきたのに一時の気分の悪さで諦めて納得できるのか?”の問いから入り、”今の状態をどうすれば打開できるか?”に繋がり、前向きに解決方法を考え選択できるようになる。お陰で、いくつかあったトラブルに対しても、最小限のタイムロスで進む事ができたと思う。早くまた100マイルを走って、色々試してみたくてしょうがない。やっぱり100マイルは楽しいしやめられない!!
次はUTMF改めFUJI、昨年は霜山でへばったので最後まで楽しみ通したい!

STRAVAの記録はこちら➡https://www.strava.com/activities/8699581955

なんとトレランレース初のTOP10入り!大好きな100マイルで達成できて嬉しい!!

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