【2024年大統領選】「隠れトランプ」は存在しない 過去の世論調査から見えること
こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、2016年と2020年の世論調査と実際の選挙結果の「ズレ」について、これまで示されてきた検証をもとに考えます。
2016年、2020年ともに、世論調査は民主党候補(クリントン・バイデン両氏)の支持率を過大に評価し、共和党・トランプ氏の支持率を過小に評価してきました。この要因については、様々な仮説が提起されています。
この記事中では、科学的に「隠れトランプ」の存在が否定されていることを紹介し、世論調査の「ズレ」がどのような要因で引き起こされてきたと考えられているかを見ていくことにします。
過去2回の世論調査と選挙結果
世論調査平均と実際の結果
2016年はクリントン氏とトランプ氏が対決しましたが、世論調査では基本的にクリントン氏が上回っていました。
一方で、実際にはトランプ氏が勝利したため、世論調査が「外れた」とする論調が広がることになりました。
2020年は、世論調査が「外れる」のではないかという懸念がある中で、世論調査でリードしていたバイデン氏が、トランプ氏に勝利しました。つまり、世論調査は「当たった」ことになります。
しかし、世論調査の検証からは、2016年よりも2020年のほうが世論調査と選挙結果の「ズレ」が大きかったことが示されています。
世論調査は2016年と同様にトランプ氏を過小評価し、その幅は2016年よりも大きかったことがわかっています(AAPOR:p.8)。
過去2回の世論調査は、いずれもトランプ氏を過小評価しました。その要因は何でしょうか。
まず世論調査を見る上で、全米規模(national)の世論調査は必ずしも重要ではないことが重要です。大統領選は州ごとに割り当てられた選挙人の獲得総数で決するため、激戦州での勝敗が勝敗に影響します。
一般的に、勝敗を分ける州は全米レベルの得票率と比較し、2~3pt程度は共和党に有利なことが知られており、単純計算すると全米レベルの世論調査では民主党が2~3ptリードするあたりが勝敗のラインになる、ということになります。
世論調査そのものの誤差ではなく、全米レベル/激戦州レベルで勝敗ラインが異なることも、「世論調査が外れた」ように見える原因の1つです。
ただ、それを考慮しても世論調査は実際の結果と乖離しており、その要因の分析が行われました。
「隠れトランプ」仮説とは
2016年に世論調査が「外れた」要因として提起されたのが、「隠れトランプ」説です。
これは、政治的・社会的にトランプ氏が不適切とされる発言を繰り返す中で、回答者が「トランプ支持」と答えにくかったとする説です。
つまり、トランプ支持者の中に「社会的にはトランプ支持は望ましくない回答だ」「トランプ支持と答えるのは恥ずかしい」という考えがあり、トランプ支持を「隠した」のではないか、と考えられていました。
しかし、隠れトランプ説では、2016年、2020年の世論調査のバイアスを説明できないことがわかっています。
「隠れトランプ」は存在しない
まず、今回の記事では、主に次の3つの検証を参考にしています。
共和党優位の州で拡大したバイアス
全米で調査が行われていますが、世論調査がトランプ氏を過小評価する傾向は、どのような州で大きく見られているのでしょうか?
トランプ氏を過小評価する傾向は、民主党優位の州で少なく、共和党優位になるほど拡大していくことが示されています(AAPOR:p.31)。
これは、隠れトランプ仮説を否定する1つの根拠となっています。つまり、周囲にトランプ支持者が多いはずの共和党優位の州で、誤差が大きく出ていることは、回答者の社会的なバイアスが要因ではない可能性を示しています。
民主党優位の州 < 激戦州 < 共和党優位の州、の順にトランプ氏を過小評価した差分が拡大していることから、世論調査の誤差は構造的に共和党支持者を取り逃していることに由来する可能性があります。
大統領選以外の選挙でのバイアス
ここまでは大統領選挙の結果に注目してきましたが、大統領選と同じ日には連邦議会議員など、他の選挙も実施されています。
大統領選以外の選挙で生じた世論調査との誤差は、同時に実施された大統領選と比較して、さらに共和党候補を過小評価する傾向が大きかったことが示されています(AAPOR:p.20、Kennedy:p.28)。
この結果からは、世論調査が持っているバイアスは「共和党候補を一般に過小評価する」傾向であり、「トランプ氏個人への支持を表明することが望ましくない」ことによるバイアスは、傾向として確認できないことがわかります。
世論調査の方式
世論調査には、様々な方式があります。電話を使った調査や、オンラインのパネルを使った調査、対面形式の調査に大別されるほか、電話による調査も人間のオペレーターが電話をかける方式と、自動音声による方式などがあります。
隠れトランプ説が有効であれば、調査員の性別や人種によって、調査の正確性に影響が出る(例えば、白人男性の調査員であればトランプ支持と答えやすい、など)可能性があります。
しかし、2016年の世論調査では、調査員の特性が調査全体の正確性に影響を及ぼした根拠は確認できませんでした(Kennedy:p.29)。
さらに、2020年には人間のオペレーターによる電話調査が減少したにもかかわらず、依然として世論調査の誤差は続いています(AAPOR:p.11)。
このことからも、「隠れトランプ」が世論調査に影響した可能性は低いと考えられます。
何が世論調査の誤差を生むのか
隠れトランプ説が世論調査の誤差を生む要因ではないとすると、いったい何が誤差の原因なのでしょうか。
これまで、様々な課題が挙げられてきました。
人口動態での調整に失敗(2016)
2016年は、世論調査が(特に白人男性の)非大卒有権者を見落としていたことが、誤差を生む要因になったと考えられています。
現在では、民主・共和両党間の分極化の主要因として、学歴による分断があると認識されています。民主党は大卒以上、共和党は非大卒の有権者で支持を強める傾向があります。
2016年当時、このような認識は一般に共通のものとはいえず、学歴による調整をかけずに実施された世論調査もありました。
この結果、政治意識がより低い非大卒有権者調査を見落とし、結果的にトランプ支持者の数を過小評価かけなかった世論調査で誤差がより大きくなったと、後の検証においても考えられています。
2020年は学歴による調整が図られましたが、結果的には2016年よりも大きさな誤差が発生しました。
「世論調査に答えないが投票に行く人」?
2020年の世論調査について、実際の選挙結果と合うように結果の補正を試みた検証が公表されています(AAPOR:p.61)
世論調査では、設問の中で2016年大統領選など過去の投票先を答えさせる場合が多くあります。これは、過去の投票先割合を実際の選挙結果に合うように調整することで、回答者の偏りを補正しようとするものでした。
この設問の回答に対し、2020年の選挙結果と合うようにサンプルの補正をかけると、2016年の実際の選挙結果から、さらにトランプ氏の得票率を最大で5ポイント程度上昇させることとなりました。
その一方で、学歴や人種、年代、性別など、様々な人口統計学上の分類は実際の値と補正後の値で大きな違いは見られなかったということです。
つまり、2020年の世論調査で集められたサンプルは、実際の社会や世論の構造を反映していたにもかかわらず、共和党支持者のみを過小評価していたということになります。
このことから、世論調査に答えていないが投票に行く有権者が存在し、そのような有権者は、世論調査に答えた有権者とは違った投票行動をする傾向があるのではないか、という可能性が指摘されています(AAPOR:p.71、PANAGOPOULOS:p.13)。
より具体的にすると、共和党支持者が世論調査に答えていない可能性や、共和党支持者でも世論調査に答えた人/答えなかった人の間で投票行動に違いがある、といった可能性が考えられています。
これとは別に、投票への熱意が低く、政治意識の低い有権者はトランプ氏を支持する傾向があるという分析結果もあります。
このような分析を踏まえ、筆者は世論調査の射程に入らないような、政治意識の低い有権者の間では共和党支持の傾向があり、概ね投票する可能性は低いものの、投票に来れば共和党候補を押し上げる可能性があると考えています。
今年の大統領選はまもなく行われますが、世論調査と実際の選挙結果がどのような関連を見せるのかにも、関心が集まっています。
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