見出し画像

【2024年大統領選】バイデン大統領は再選できるのか 年齢に高まる懸念

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、歴史的な低支持率となっているバイデン大統領が、11月の大統領選で再選を果たすことができるのかについて検討します。

 バイデン大統領の支持率はなぜ低く、4年前とはどう構図が異なっているのか。また、それは大統領選挙にどう影響するのか考えます。


バイデン大統領の支持率推移

アフガン撤退“失敗”の余波

 まず、バイデン大統領の支持率がどう推移してきたかを捉えます。2021年の就任時は、60%近い支持率からスタートしましたが、同じ年の8月にアフガン撤退が事実上失敗し、支持と不支持が逆転しました。

バイデン大統領の支持率(FiveThirtyEight集計)

 そこから大きく支持が持ち直すことはなく、現在は支持率が30%台まで低下していて、40%を割る「危険水域」に入っています。

支持率低下はなぜ起きたか

 バイデン大統領の支持率低下は、大きな流れとしてはアフガン撤退を機に指導力への疑問から大幅に支持層が離脱し、その後は低空飛行が続いているとみられています。
 ただし、時期によって離脱した有権者の性質が異なっていることも明らかになってきました。

 まず、2021年の支持率急落時に、バイデン大統領の支持層から離脱したのは無党派層が中心だったと考えられます。次に示すのは、民主党支持層と無党派層の支持率の動きです。サンプル数が少なく、統計的な誤差による変動が含まれていることには注意が必要です。

民主党支持層の支持率変動(YouGov/The Economist)
緑が支持率、赤が不支持率
無党派層の支持率変動(YouGov/The Economist)
緑が支持率、赤が不支持率

 2021年8月15日にカブールが陥落しましたが、この前後で無党派層の支持率は8ポイント程度低下し、不支持率も同様に急上昇しました。これに対し、民主党支持層では大きな数字の変動は見られていません。
 バイデン大統領の指導力に疑問符が付き、支持率が急落した一連の動きの中心となっていたのは無党派層で、この時点では民主党支持層の熱意に大きな影響がなかったことがわかります。

 この後、民主党支持層でも支持率が8割台を割り込むようになります。バイデン政権下で激しいインフレが問題となり、経済状況の苦しさから政権への不信感が高まってきたとみられます。

”中絶”の争点化 成果とともに再始動

 2022年6月に、米最高裁は全米で中絶権を保障していたロー対ウェイド判決を破棄し、中絶権を州の判断に任せると判断しました。全米レベルでは中絶権を認める意見が多数派で、特に中絶権保護に熱心な民主党支持層では支持結集の動きがみられました。

 さらに、同じ時期には奨学金ローンの返済免除も部分的に実現し、バイデン政権は大きな成果を手にしました。これを受けて民主党支持層で支持率が回復し、後を追うように無党派層でも緩やかな回復傾向がみられることになりました。

民主党支持層の支持率変動(YouGov/The Economist)
緑が支持率、赤が不支持率
無党派層の支持率変動(YouGov/The Economist)
緑が支持率、赤が不支持率

2023年から現在まで

 中間選挙後は大型選挙がなく、共和党が予備選に集中する一方で民主党は早々にバイデン氏の指名が固まるなど、バイデン政権にとって2023年は比較的政治的な変動が少なかったともいえます。

 2023年は、支持率で見ると大きな動きがなかったものの着実に支持率を落とした1年だったといえます。その背景には、「若年層」「有色人種」というバイデン政権を支えてきた中核的な層の支持離れがあります。

 まず、若年層の動きについて考えます。様々な要因があるものの、昨年末以降に関しては、イスラエル=パレスチナ紛争について、バイデン政権がイスラエル支持の立場を示していることへの反発が主要因だとみられています。これについては、次の記事で詳しく分析しました。

 また、バイデン政権が進めた奨学金ローン免除が最高裁判決で覆されたことや、環境問題での動きが鈍いと考えられていることも、要因です。

 有色人種については、FiveThirtyEightが興味深い分析を出しています。

人種別の支持率推移(FiveThirtyEight集計)

 バイデン政権と民主党の中核的な支持層である黒人では、2022年半ばから回復傾向だった支持率が2023年春頃から下落傾向に転じ、昨年末には60%を割り込んでいます。
 この理由について、FiveThirtyEightは黒人有権者との「コミュニケーション不足」を挙げています。黒人有権者は政治への継続的な関心が低い傾向があり、選挙の時期になって運動がリーチし始めると政権の成果などが認識されるようになる、との見方も示しています。

 直近の支持率漸減については、中道・無党派層よりも足元の若年層や有色人種層に要因がある可能性が高いことにも留意が必要です。

バイデン大統領の年齢は影響するか

バイデンvs.トランプ “高齢対決”の見方

 バイデン大統領は81歳、トランプ前大統領は77歳ですが、両者の年齢についてアメリカ国民の見方は少し異なっています。

 次に示すのは、バイデン氏とトランプ氏の年齢が大統領としての職務に与える影響についてどう思うかを尋ねた世論調査の結果です。

 バイデン氏の年齢が厳しい影響を与えると答えた人は、全体の54%にのぼりました。これに対し、トランプ氏について同様に回答した人は、全体の24%に留まっています。

 支持層の中でも、両氏への評価は異なっています。バイデン氏については、身内の民主党支持層でも2割は厳しい影響があるとしました。これに対し共和党支持層では、トランプ氏の年齢は大統領としての職務に何の影響もないとした回答者が半数以上になっています。
 さらに、無党派層では65%がバイデン氏の年齢は「厳しい影響がある」としたのに対し、トランプ氏について同様に回答した人は22%でした。

 今回の選挙は高齢対決となっていますが、年齢に関する懸念を比較すると、明らかにバイデン氏への懸念のほうが深刻になっています。
 同様に、指導力(リーダーシップ)についても、バイデン氏よりトランプ氏を信頼する傾向が強まっています。

 指導力について、トランプ氏が「強い」と答えた人は62%、バイデン氏が「強い」と答えた人は40%となっています。無党派層では、トランプ氏について64%が強いと答えたのに対し、バイデン氏については25%が強いと答えるに留まっています。

 異なる傾向を示すのは、バイデン氏とトランプ氏が「自分のような人を気にかけているか」を尋ねた調査の結果です。

 この設問の結果は、バイデン氏が43%、トランプ氏が46%と、拮抗する結果になりました。差がついたのは無党派層の結果で、トランプ氏はバイデン氏よりも10pt高い信頼を獲得しています。

バイデン氏への信頼と年齢

 バイデン氏について、身内の民主党内でも年齢の影響が「全くない」とする回答は23%と少数で、何らかの影響があると広く捉えられていることがわかります。また、NBCの世論調査では81%が大統領としては「高齢過ぎる」と回答しています。

 このような世論調査の結果を分析すれば、昨年の後半からトランプ氏がバイデン氏を上回る結果を見せ始めている背景として、バイデン氏の年齢に対する懸念が存在することは確実です。

 ただし、有権者の投票行動を検討する上で重要な「自分を気にかけているか」という設問では両者に明白な差がついているわけではありません。
 また、指導力については「強権的」「独裁的」との批判とも表裏一体であり、この設問での高い評価がそのまま投票行動に結びつくわけではありません。

 しかし、バイデン氏の年齢は重要な懸念事項であるため、トランプ氏との直接対決を制するためには、世論に広がる懸念を解決する必要があります。これと同様の見解は、FiveThirtyEightのネイト・シルバー氏からも示されています。

バイデン氏の代替候補も不在

 ところが、バイデン氏が撤退したとしても、その代替候補を選ぶという課題は生じます。既に予備選が開始され、また多くの州で候補者登録が締め切られているため、予備選で代替候補を選出することは困難です。

 この場合、DNC=民主党全国委員会が候補を代わりに選出することになります。バイデン氏が現職である以上は、副大統領のカマラ・ハリス氏が大統領候補に「昇格」する形が最も自然ですが、ハリス氏はバイデン氏以上に不人気であり、候補差し替えの意味が実質的には乏しいと言わざるを得ません。

 民主党内には複数の有力候補がいますが、全国的な知名度や予備選を経ずに選出されることを踏まえれば、「正統性」に問題があることなど、このケースでも様々な課題が山積しています。

 民主党内の有力候補については、次の記事で紹介しています。

「投票日だけの民主党支持」?

 ここまで、バイデン大統領の再選について、その年齢を中心に懸念が高まっていることを分析してきました。
 しかし、バイデン氏の支持率は極めて低い水準ですが、一方で補欠選挙などでの民主党候補の成績は、必ずしも低支持率と対応しているわけではありません。

 2022年の中間選挙では、事前の世論調査で民主党の苦戦が予測されていましたが、結果的には若年層や有色人種の有権者が民主党に投票したことで、善戦しました。

 また、議会の補欠選挙などでも民主党は比較的好成績を収めています。世論調査に比べて、選挙結果では民主党のパフォーマンスがよいことについて、若者は「投票日以外は民主党を嫌っている」(“At the moment, young people hate the Democratic party, except on election day.”)との指摘も出ています。

 考えられる背景として、民主党は人口動態上、共和党よりも年々優位に立っていることが考えられます。アメリカでは、共和党を伝統的に支持してきた白人や高齢者層は減少し、民主党支持の傾向が強い若年層や有色人種が増加しています。

 若年層や有色人種層の政治への関心は弱いため、普段の世論調査では民主党(やバイデン氏)の支持率が低く出るものの、実際の選挙ではこれらの潜在的な民主党支持層が動員されて、世論調査よりも民主党の結果がよくなっている、という可能性が指摘できます。

 しかしながら、2022年の中間選挙でもジョージア州では共和党現職のケンプ知事が圧勝するなど、いつでも「潜在的民主党支持層の動員→民主党の勝利」という図式が成立するわけではありません。
 また、補欠選挙の結果は、小選挙区で争われる下院の選挙結果とは対応するものの、州ごとの選挙人獲得を争う大統領選の結果とは、必ずしも対応しないとの分析も出ています。

 若年層や有色人種の間でバイデン氏の支持率が低下する中、選挙が近づけば(そして投票日当日になれば)この層がどのように動くのかは、今後さらに検討する必要があります。

地上戦の重要性

 また、2024年の大統領選は、特に地上戦が重要になるとみています。2020年の大統領選では、コロナ禍の真っただ中で集会や外出にも制限があり、リモート中心の選挙活動となりました。

 しかし、今年はそのような制限がなく、戸別訪問や集会などを通じた従来型の地上戦=実地での選挙活動の重要性が復活することになります。

 さらに、22年中間選挙や24年の予備選の結果では、地上戦の物量を多く投入した陣営が、事前の世論調査を超える票を獲得するケースも出てきています。
 今回の選挙も、投票意欲の低い層や態度未定層のわずかな動きで選挙結果が左右される可能性が高く、地上戦を通じてどれだけ潜在的な支持層を動員できるかが最重要となります。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?