#私を構成する9枚③:ゆらゆら帝国「3×3×3」
はじめに
本作は、ギター・ボーカルの坂本慎太郎、ベースの亀川千代、ドラムの柴田一朗の3人で結成されたバンド「ゆらゆら帝国」が1998年に発売した1stアルバムである(インディーズを含めると4作目)。
ゆらゆら帝国といえば「空洞です」が最も有名であるとされているが、個人的にはサイケで勢いや実験性をビシビシと感じる本作がお気に入り。
最も好きなバンドだが、自分が知った時には既に解散しており、リアルタイムで経験することができなかったので、後追い世代の音楽レビューとして暖かい気持ちで読んでほしい。
全曲レビュー
※:☆の数は自分の好みの程度
1.わかってほしい ☆☆☆
記念すべきメジャー1枚目の1曲目は、音量調節をミスったかと疑うほどの衝撃的な轟音から始まる。初めて聴いた時はかなり度肝を抜かれた。音数の少ないシンプルなリフに乗せて歌われる「○でも×でもないもの わかってほしい」という歌詞が印象的。
坂本慎太郎は、表現するのが難しい感覚的なものを子供でもわかるような簡単な言葉を用いて緩くシュールに、それでいてかなり的を得た表現をするのが魅力だと思っていて、この歌詞はまさにそのような魅力が感じられる。
子供でもわかりやすいようにっていうのがみそで、個人的にゆらゆら帝国〜坂本慎太郎の楽曲には童話のような世界観を感じることが多い。
2.昆虫ロック ☆☆☆☆
ゆらゆら帝国の中でも知名度が高い一曲。ご機嫌でドライブ感のあるギターリフに対して、シュールで虚無感漂う歌詞が歌われる(まず昆虫をテーマにしていること自体かなりシュール)。
「雨が降る日は何もしない 髪がベタベタするから」というヘンテコな歌詞から「風が吹く日は何もしない どこか消えたくなるから」と急に詩的で空虚な表現をするのがなんとも味わい深い。
「ぼく綺麗な虫のように生きたいんださりげなく ただそこにあるもののように生きたいんださりげなく」という歌詞は自分みたいに響く人が必ずいるはず…!!
3.ユラユラウゴク ☆☆☆
ロックンロールな1,2とは違い、浮遊感が漂いトリップしそうになる感じのサイケデリックな一曲。ベースの音を始め、どの音も優しく鳴っていておもわず身を預けたくなる。
ライブでお酒を飲み、目をトロンとさせながら、何も考えずにこの曲を浴びてみたかった。
4.ドックンドール ☆☆☆☆☆+☆
個人的な本作のベストトラック。初めて聴いた時はそれほど響かなかったが、聴いていくうちにだんだんとハマっていった。ゆっくりなテンポでノスタルジックな演奏に乗せられて歌われる歌詞はどこか悲しげで切なくなる。
自分の解釈を書こうとも思ったが、人によって異なるし、自分の語彙力でも十分に説明することができないと判断したので、レビューを書いておいて言うことではないが、この曲は歌詞カードを手元に持って聴いて欲しい。
5.発光体 ☆☆☆☆☆
ゆらゆら帝国の中では有名な曲で、1stシングル。自分はこの曲と出会ってゆらゆら帝国の沼にハマっていった。スネアが入ったと思ったら(今ではこの音だけでテンション爆上げ)、いきなり聴いたことのないようなサイケな音のファズギターと動きまくるベースがなだれ込んだ上に、「緑の液体」や「光るちっちゃな粒」のように明らかに異様な歌詞が耳に入り、初めて聴いた時にあまりのショックでゾワゾワした。「もう一度頭搾って〜」から演奏がドラムだけになる展開にも鳥肌が立った。
初期のゆらゆら帝国を上手く表したような名曲。
6.つきぬけた ☆☆☆
ギターの音がデカすぎて、歌詞が聞き取れない(しかも早口気味な)怪曲。歌詞に登場する「け、だ、い、た、け、ぬ、き、つ」は、「つきぬけたいだけ」の逆さ言葉。二番に登場する逆の世界にいる「裏返しの俺」が言ってるから逆さになっていると個人的に解釈している。
「何もかも忘れられる真っ白になれる時があるならそれだけでいい」はお気に入りのフレーズ。1分弱の短い曲だから、ストレス発散目的でカラオケでよく歌う。
7.アイツのテーマ ☆☆☆☆
ゆらゆら帝国の中で、トップクラスに曲名が好きな曲。アイツって誰…
シンプルなギターリフとベースの絡みが気持ちよく、冒頭の「あえてやらない姿勢」がゆらゆら帝国を感じる。
「Aha〜ルビデゥビグバ」は不意に口に出したくなる。
8.3×3×3 ☆☆☆☆☆+☆
本作の表題曲であり、個人的なベストトラック(2)(どうしても一つに絞れなかった…)。ミニマルな演奏と砂嵐の音による不気味な雰囲気の中で、淡々と囁くようにセリフが読み上げられ、「おでこ殴られて〜」から、遠くの方から聞こえるように加工された声で歌われるかなり実験的な構成の一曲であり、さらに6分を超える長尺曲。アメリカのバンド"Suicide"の影響も感じる。ここまで実験的な曲をリリースしてくれたミディには頭が上がらない…
一時期、この曲ばかり聴いていたから、でかい犬を見るたびその存在を疑ったり(今考えると結構イカれてる)、東京都国分寺に対して興味を持ったりしていた。
特に、「心の中にある三つの扉を開くのさ〜」からの歌詞はお気に入り。結果的に最初の扉に戻り、笑った上で「別にどこへも行きたくないけど」と2回言い放つところが痺れる。
9.タートル・トーク ☆☆☆☆
#8と#10のつなぎ的な曲だが、ベースがかなり心地良くふわふわとした不思議な雰囲気のインストナンバー。今まではあまり意識して聴かなかったが、ここ最近で良さに気づき、この曲だけで聴くようになった。タートル・トークと名づけるセンスに憧れる。このようなセンスが欲しいけど、天性のものなんだろうな…(諦め)。
10.EVIL CAR ☆☆☆☆☆
ベースのフレーズから始まり、ギターのリフに乗せられてゆったりと歌われる。しかし途中から「妖精たちと話しちゃいけない」、「鳥の気持ちわかっちゃいけない」などの歌詞で、徐々に不気味な雰囲気になっていき、間奏におよそ5分という規格外の長さのギターソロが入り(カラオケで歌うと間奏が299秒なので要注意!)、最初のテーマに戻り、叫ぶようにして終わるという#8に続きこちらも実験的な一曲で、9分越えの大曲。
ギターソロ前の歌詞で、子供たちをファンタジーの世界のように異様な雰囲気で連れて行こうとし、子供たちも抵抗する様子もなくそのままギターソロに入り、どんどん激しくなっていき、最終的に平然と元のテーマに戻る展開がかなり不気味に感じる。(あの4分のギターソロの間に何が起こったのか…)
そういえば、#8のけずる君って行方不明になり、6時間後発見されたけど誰も変化に気づいていなかったな……
11.パーティーはやらない ☆☆☆
赤ん坊をめでる子守唄のように優しいが、歌詞はどこか切ないし悲しい童話のような曲。アルバムの締めでこの曲を聴くため、本作を聴き終わるといつもセンチメンタルな気分になる。
最後に
本作は、好きな曲ばかりでどれも星3以上にしてしまった。ゆらゆら帝国は本作に限らず全作品のクオリティが高く、他とは異なる雰囲気を持っていてどの作品も好き。(インディーズには手を出せていないけども)
記事でも言及したラストアルバムの「空洞です」は音数が少なかったり、掴みどころが無かったりして本作を初めて聴くと小難しいと思うかもしれないため(現に自分もそうだった)、「3×3×3」を最初に聴いてそこから発売順に聴くことをお勧めしたい。ゆらゆら帝国は3×3×3から空洞ですに至るまでの、いかに帝国として完成したかという物語を楽しむバンドだと思っている。
ゆらゆら帝国は、そのバンド名や風貌から変なことをやっているサブカルバンドとして敬遠されているかもしれないが、実際は音の作りや展開が実験的なだけで、どの時代でもメロディやリフはキャッチーで意外と聴きやすく、そこが一番の魅力だと思っている。
ゆらゆら帝国のボーカル・ギターの坂本慎太郎は、現在ソロで活動していてアルバムも4作出しているので、また今度の機会にレビューを書いていきたい。(1stはレビュー済み)