見出し画像

果たしてAIは心の病を診ることが出来るのか?

ChatGPTに代表されるように、私たちの生活に身近になったAI(人工知能)

精神科医療において、その技術はどのくらい進歩しているのでしょうか。

不知火塾 第11回目は二部構成でした。
前半は慶応義塾大学精神・神経科特任教授 岸本 泰士郎先生による「AI時代の精神科医療の展望」がテーマでした。

後半はこちら。




不知火塾の詳細はこちら
次回案内はこちら


コロナ禍前後のオンライン診療の現状

岸本先生らは、コロナ禍前からオンライン診療に取り組んでおられたそうです。

コロナ禍の影響でオンライン診療の活用が非常に活発になりましたが、その程度は国によって格差があると話されます。

各国での活用方法を調査したところ、すべての国でよりオンライン診療を使用しやすくなっていることが判明されたそう。

日本は対面同様の診療報酬が算定できないことがオンライン診療の障壁になっていましたが、アメリカでは精神科患者の4割がオンライン診療を経験したほど積極的に活用された、と説明されます。

日本ではコロナ禍後の診療報酬改定でオンライン診療が恒久化しましたが、精神科は通院精神療法がオンライン診療では同様に算定できず、ほとんど活用されていないとのこと。

遠隔と対面の治療効果に大きな差はないことが報告された比較研究もあると述べられました。

識別系AIを活用した挑戦

岸本先生は、AI技術は透明性や倫理、法的、社会的な議論が必要であり、情報漏洩や過剰診断、デジタルを活用できない人々に不利益が及ぶ可能性(デジタルデバイド)などの課題があるとおっしゃいます。

一方でオンライン診療を危険視するだけで何も行動しないことは、他国が積極的にAIを活用しているなか、日本の医療水準が大きく遅れる可能性を示唆されました。

IoTという言葉に象徴されるように、ICTの発展により様々なものがインターネットに繋がり、スマートフォンやウェアラブルデバイスで患者の負担なく、観察がしやすくなり、ビッグデータの解析技術も発展しているようです。

多くの精神疾患は明確的な生物学的マーカーまたは重症度の評価に有用な臨床尺度がないことから、診断基準に示された正常と病理症状の表現を完全に分けることはいまだできない、とお話されます。

そのような現状と課題があるなかで、講座では多岐にわたる新しい技術を紹介いただきました。

◆ デジタルフェノタイピングを活用した診療支援技術開発

岸本先生が所属する慶応義塾大学医学部と企業が協力し、デジタルフェノタイピングを用いた新しい技術開発、うつ病患者の精神運動抑制の定量化に向けたプロジェクトが行われました。

表情・音声・日常生活活動の定量化から精神症状の客観的評価をリアルタイムで届けるデバイスを活用し、患者の日常生活の様子や活動の量、睡眠の様子をデータ化したものを用いて機械学習のアルゴリズムを構築されたとのこと。

一例として表情分析ツールを拝見しました。

このツールを用いて、うつ病の診断等に役立てられないかと考えたそうです。

プロジェクトの一環として、医師と会話する患者の関節位置を人工知能が自動的に見つけ出す技術を用いたところ、うつ病の方は健常者と比較して体動がゆっくりでその範囲も狭いことが観察されたそうです。

話速(反応時間・単位時間・単語数など)を計測するソフトウェアでは、うつ病の重症度に話速が相関しており、治療反応も検出可能になったそう。

現在リストバンド型ウェアラブルデバイスのデータを用いて、うつ病スクリーニング及び重症度評価を可能とするソフトウェア医療機器を開発されているとのこと。

心拍の連続測定でうつ病の早期診断が可能になる例や、スマートフォンを用いた異常検知システムによって統合失調症の再発徴候を同定する例も紹介いただきました。

◆ 自然言語処理を用いた精神疾患の定量技術開発

上記を可能にしたのは、コンピュータによる、話中でよく使用された単語やフレーズを特定、数値化によるもの。

他にも文章全体をベクトルで表現する技術も活用されており、これらの技術を使用して、言葉に現れる精神疾患の特徴を抽出しようとされていらっしゃいます。

約500例のデータセットを収集されており、精神疾患に関する詳細なデータ情報と会話文を紐づけたものとしては世界最大とのこと。

これらのデータを活用し精神疾患のリスクを定量化、可視化することで有用な情報を得られると説明されました。

統合失調症のハイリスクの方に自然言語処理を用いたところ、将来発症する方を高い精度で同定できた報告もあり、同様の技術を用いて、認知症の疑いも検出できるようです。

デジタル技術を活用する近未来の医療

◆ オンライン上の自殺関連事象リスクファクター

アメリカの報告書によれば、オンライン上の行動により自殺関連の兆候のリスクが高い子どもを見つけることができるとのこと。

高リスクの子どもへの早期介入と支援を提供できる時代になる可能性を示唆されたうえで、個人情報の取り扱いなどの倫理的な問題もあるため議論が必要とおっしゃいます。

◆ 睡眠障害に対するアプリ治療

スマートフォンではさまざまなアプリが提供されています。

睡眠障害に対するアプリも日本で認可されていますが、薬物ではなく、まずはこれらのアプリを試すフローがあっても良いのでは、とおっしゃいました。

うつ病軽症者に対し、認知行動療法アプリを推奨する国もあるそうです。

◆ ゲームによるADHD治療医療機器

アメリカでは医療機器として認可されたゲームがあるそう。

ADHDの子どもがゲームのデュアルタスクを楽しむことにより、注意機能が向上すると報告されているとおっしゃいました。

自閉症スペクトラムの子どもは相手の表情を理解し、適切に対応するのが難しいことから、Googleグラスが相手の感情を視覚的に提示することで、社会性が向上したとの報告もあるそうです。

◆ 生成系AIによる今後の医療

一般的な内科の195の医学的な質問に対する回答を、人間が提供したバージョンと、チャットボットが提供したバージョンを用意し、3人の医師にどちらが良かったかを判断させると、品質面でチャットボットの方が3.6倍も優れていたことが判明したとのこと。

共感度においても、チャットボットが人間よりも約10倍も優れていたそうです。

精神療法はより複雑な問題であると認識されてるものの、AIの進化は、品質の高い医療を提供する手段として期待されていると述べられました。


私たちの生活の一部にもなりつつあるAIですが、精神科医療においての活用がこれほどまでに進んでいることには驚きました。

新しい情報ばかりでしたが、特に文字や写真から精神症状を分析する研究が印象的でした。
AIが精神疾患の診断や治療に貢献できる未来も近いのだと感じました。

最新の知見を共有いただき、ありがとうございました。


不知火塾の詳細はこちら
次回案内はこちら



この記事が参加している募集

AIとやってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?