不染鉄 山海図絵
日本画とは何か、の話題が途中になっていたのを今更ながら思い出しました。
これは説明が難しい。
なぜかというと、ちゃんと説明しようと思うとひたすら長くなるし、
「じゃあ、短くいってよ」とよく言われるけど、
かといって端的にいうと「ふーん」という感じでまるで伝わらない。
なので、その中間をいく説明を心がけて、画像を使いながら、できるだけ短く、説明しようと思う。
まず、以前の記事にも書いた通り、多くの人が「日本画」と聞くと思い受かべるものは、北斎、浮世絵、水墨画、という感じ。
でも人によっては、もしかしたら
雪舟とか!あれは?
美人画ってあるじゃない?
なんつっても狩野派だよ!
いや、山水画こそ!
あ、仏様の絵のことかと思ってました!
あの源氏物語のやつ、あれって日本画じゃないっけ?
えー、花鳥画でしょー
という具合に、いろいろ出てくるのではないかと思うのです。
いや、出てこないか。すいません、出て来たことないです、笑
でも、いわれてみれば、「あ、あるある、知ってる」
とは、なるとは思います。
では、これらを見た時に「で、一体日本画ってなんなんだよ!!?」
と思いませんか?
ここで少し西洋絵画の歴史をみてほしいのです。
厳密に言えば色々あるものの、大まかに見た時、西洋絵画って、まず、題材はキリスト教を中心としています。で、下のざっくりとした表を見てもらえば、技術的には写実に向かうことを前提として様々な「様式」が展開してることがわかると思います。
(対比して説明するために、ちょっと極端な言い方してます。西洋絵画ファンの方すいません)
でも日本画は、これは主に中世以降に顕著になる傾向なのですが、先ほど見ていただいたように、バラバラです。
これ、描いたことある人ならわかると思いますけど、材料こそ同じでも、描き方の概念とか、技法が違ってくるんです。
つまり、様式が違う、という以前に、根本的に「別物」といってもいいほどの表現が、常に同時並行的に発展して来た・・・
それが、「日本画」ってことなのです。
少し分かりやすくまとめますと・・・
やや極端ないい方になりますが、
西洋絵画は、ヨーロッパの国々全土で、印象派までキリスト教をモチーフにひたすら「写実へ向かう」という「一本の柱」を追求してきました。
対して
日本画は、日本という国一つで、絵巻物もあれば仏画もあれば山水画もあれば水墨画も、浮世絵も、障壁画も、、、、という具合に、いくつもの柱があって、しかも、それぞれが独自に進化発展させてきたものである、といえるのではないかと思うのです。
このことから、個人的には、日本の絵画の歴史は、正直いって、人類有史以来、最高に「豊か」なのではないか、と感じています。
ちなみに、中国の絵画も素晴らしいものがたくさんあるのですが、柱という意味ではそんなに数は多くないように思います。その代わり、中国絵画の特徴というのは、表現や様式の幅の広さというよりは、どんどん密度が濃くなっていくようなところに、その特徴があると思います。
故宮博物院などでみる工芸作品などが分かりやすい例ですが、中国の芸術の良し悪しの判断基準は、「表現としてどうなのか」というよりも、「いかに高度な技術が発揮されているか」の方に重きをおかれていることがわかります。中国雑技団とか、ああいう発想です、笑 なんというか、シルクドソレイユみたいに表現や世界を広げて行くのではなく、縦に深く、深く、他の追随を許さないほど深くなって行く。一台の自転車に何人も乗っちゃう、とか。それだけに、その技術力は尋常じゃないレベルですけど、笑
これに気がついた時、僕は結構驚いたのですが・・・
みなさまはいかがでしょうか。
でも、反面、これはちょっと言いにくいことでもありました。
というのも、こういうことをいうと、「日本文化万歳的なアレね」とか、極端な人は「右翼か!」とか、そんなリアクションがきた経験があって、言わないほうがいいか、と思わされることが多かったからです。
ただ、こうした意見は昔もありました。
かつて近代日本画の巨匠、横山大観も「西洋絵画は行き詰まっている、日本画こそは云々・・・」という発言をしていたようです。(どこかで見たはずなのだけど原典がどこだった忘れてしまいました・・・見つけたら修正します)
大観は当時国粋主義者と呼ばれてしまった岡倉天心を師に持ち、戦中、戦後を生きた人だったのもあって、そうした趣旨の発言は日本画家からの視点の、「単なる国粋主義的な発言」というところで片付けられてしまっていたようです。
実際そうだったところもあるとは思いますが、個人的に色々調べてみて、もともとそんなつもりのなかった自分としても、それはあながち「単なる主義主張ではなかったのではないか」と考えるようになりました。
で、なぜ日本画がそんなに豊かなのか?
ということなのですが、それはまた次回。
今日の日本画
不染鉄 山海図絵 1925年(大正14年)第6回帝展 木下美術館蔵
この画家の存在を知ったのはもう10年以上前で、当時は日本画のアイデンティティ、ということで日本画には元々どんな作風や技術があって、どんな画家がどこで、どんな作品を残していたのだろう、ということを色々調べていた時期でした。
当時は、いや、最近開催された展示までは、この画家に関する文献はおろか、まとまった図像の資料は20年前に開催された展示の白黒の図録くらいしかありませんでした。あとは京都の、とある画廊に少し資料があるくらい。
でも、ネットで唯一見かけた不染鉄の「山海図絵」は、西洋絵画の技術である「デッサン」とは全く別の表現を模索していた自分に、一つの答えともいうべきものをはっきりと見せてくれた作品として長らく記憶に残っていたのです。
どこにそんなにインスパイアされたのかというと、なんといっても、この空間構成です。とはいえ、普通の人が「パッ」とみただけでは、富士山とその周辺を書いた風景画のように見えるかもしれません。
でも、よく見ると、富士山の奥の方に手前と同じような大きさで民家が描かれているし、中央の部分の家屋と手前の集落とでは明らかに視点の角度に差がつきすぎているし、しかも海に至っては海底まで表現している、というなんとも画期的な空間構成をしています。
画期的、とはいったものの、これは山水画の表現理論として伝わる、中国絵画の技法で「三遠」と呼ばれる概念で表されているもので、東洋絵画理論の視点から見た時に、実はそれほど「画期的」というものでもなかったりします。
「三遠」とは、中国の北宋時代の画家、郭煕が書いた技法書、というか画論『林泉高致集』に説明されているもので,山水画を描く上での基本的な構図の作り方を説いた画論です。
著書では、
下方から山の頂上を見上げる「高遠」という視点
前山から山の背後の風景を眺める「平遠」という視点
山の前方から背後をのぞきこむ構図の「深遠」という、
これら三つの視点を一つの画面に織り込むことで広大な空間表現ができる、とされています。
これはいわゆる西洋絵画の「一点透視方」や「遠近法」という、三次元表現に欠かせない理論とは全く別のものです。
しかも、西洋絵画でリアリティや立体感を表すために必須となる「陰影」や「色の変化」すらない。
それなのに、広大な空間が表現できている。
これはなぜなんだ、と思っていた時に、出会ったものだから、当時はとても刺激を受けたものです。
このように描くためには、とても「現実の風景を写す」というアプローチでは描けません。山に登って草木をスケッチしたところで、この絵は描けないのです。
よく大学で「デッサンが大事」「スケッチ、写生からしか絵は生まれない」なんてことを教授から言われていた自分としては、「????」「何が起こっているのかわからない」というような状態でした。
本作は全体的に富士山を中心に、斜め45度から見下ろしたような空間で構成しながら、所々に対象を水平に見た時のような視点を織り交ぜることで、箱庭のような空間を作っています。
これが何を意味しているのか、といいますと、この作家の頭の中で完全に世界が構築されている、ということを意味しています。
富士山があって、その麓に向かって森はこうなってる、その森が次第に村になっていって、村ではこんな人たちが、こんな間取りの家々に住んでいて、その村を縫うようにして、草木や田んぼがあって、次第に建物が減っていって漁村になって、港が・・・というように、その土地の地理、村の成り立ち、人々の営みや自然の息遣い、そんな、広大な、一つの土地にある、あらゆるものに対して、一定以上の造詣を持って、イメージとして本人の中で解釈されていなければ描きようがないものだからです。
これは非常に高度なことだと思います。
世界のあらゆることに対して興味や関心を持つ、詩人のような感性がなければ、なかなか描けません。
この絵に出会った時というのは、正直「中国の山水画論を知ったところで、現代の風景画の制作にどうやって生かしたら良いのだ・・」と困惑していた時期だったので、この作品を初めて見た時は大いに発奮したものです。
もっとこの作家の作品を見たいぞ!と思ったのですが、最初に書いた通り、当時は全く情報もなく、探し回っても昔の展示の図録すら見つからない状態でした。
それがなんと!
今東京でまとまって展覧会がされているというではありませんか!
すごい!
何がすごい、って、この作家に目をつけた学芸員と、その学芸員の企画を通した上司がすごい。マニアックすぎる。わかってる!
ということで、ぜひご覧になることをお勧めします!
とかいって27日まで、つまり今週末までなんですけどね・・・
ご都合の合う方、どうぞこの機会に。
東京ステーションギャラリー
会期:2017年7月1日(土)-8月27日(日)
没後40年 幻の画家 不染鉄展
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