ラブハンサム
「ふむ・・・。可憐なレディに手をあげるとは、感心しないな」
「あ、あなたは!」
「ラブハンサム様!!!」
私、半澤三郎はアマチュア魔法少女界隈で、魔法少女達のヒーロー『怪盗ラブハンサム』として活動している。
あまりこの界隈には明るくないという人もいると思うので、アマチュア魔法少女界隈について簡単に説明させてほしい。
アマチュア魔法少女界隈とは、演者が怪人側と魔法少女側の勢力に分かれ、各々アドリブで演技をするという・・・要するに、ごっこ遊びの大人版を楽しむ界隈だ。(幼少期にやったセーラームーンごっこ等を想像してほしい)
台本が無いため、演技によってはカオスな展開になることも少なくはない。
そんな時、ストーリーが破綻しないようにする、総監督というものが存在する。
総監督は全体の指揮を取り、冷静に演技をジャッジし、場合によってはリテイクさせる権限を持つ。
基本的には週に1回集まって演技を行い、録画した物をニチアサキッズタイムを意識した時間、毎週日曜日の9:00にyoutubeで配信しているが、再生数は平均100回行くか行かないか程度で、残念ながら収益化には至っていない。
******
「えー、じゃあ『魔法少女 ツインローズ』第45話、本日の撮影終了でーす。お疲れ様でしたー」
『魔法少女ツインローズ』は、主人公であるピンクローズ・ホワイトローズの二人組が平和を守るために怪人達と戦う設定の作品だ。
今日の撮影は長丁場で、終わった頃にはとっぷりと日が暮れていた。
疲れていた私は、総監督の言葉に「おつかれしたー」と、適当に挨拶を返して撮影場所の公園からそそくさと駅へ向かう。
「あれ、半澤くんじゃない」
駅のホームで声をかけてきたのは怪人役の村上さんだった。
村上さんは私より10個以上年齢が上だったが、同じ特撮好きという事で、話す事が多かった。
「あれ?村上さん、電車こっち方面でしたっけ?」
「あぁ、今日はちょっと、ね」
何か意味ありげにしているが、どうせ村上さんの事だ。秋葉原にでも寄って特撮グッズでも買いに行くんだろう。
私は深くは気にしなかった。
「・・・で、シン・仮面ライダーは特撮好き的にはアリだったと思うんですよね」
「確かに。ガンダムはポケットの中の戦争が1番名作だよね」
「いや、今仮面ライダーの話してたんすけど・・・」
村上さんの様子が変だ。
いつもなら特撮の話を1振ると100返して来るような人なのに、こちらの話を全く聞いてない。
電車に乗ってからずっとソワソワしており、しきりに携帯を気にしている。
流石に気になり「どうかしたんですか?」と聞こうとすると、村上さんのスマホに表示されたLINEのやりとりが目に入ってしまった。
maho*「きょうのお泊まりたのしみ ꒰⌯ •· •⌯ ꒱♡ 」(媚びた感じのマイメロのスタンプ)
ん!?
コイツ、ピンクローズ・・・いや、真帆ちゃんとそういう関係だったの!?
あの清楚な真帆ちゃんが、もう40歳近い村上さんとそんな関係だったなんて・・・。
私はとてもショックを受けた。
実は、かく言う私も真帆ちゃんを狙っていたからだ。
そもそも、ラブハンサムは「役柄上、主役の女の子達とワンチャン狙えるのでは」と思い、監督に無理を言って追加してもらった役だった。
動機的には全然ハンサムではなかった。
ま、まぁ村上さん良い人だし・・・。
真帆ちゃんが幸せならオッケーです!と心の中で自分を納得させた。
動揺を隠すようにして、村上さんとの会話を続ける。
「・・・そういえばこの間、ガブリボルバーをメルカリで買ったんすよ」
「え!マジで?いやー、私はサンリオピューロランドは行った事ないなぁ」
「いや、今キョウリュウジャーの話してたんすけど・・・」
また村上さんはうわの空の様子だった。
サンリオピューロランドの話が出てくるあたり、真帆ちゃんの事を考えていると思った。
すると、村上さんはまたソワソワした様子で、今度は鞄から別の携帯を取り出しLINEを開いた。
江田夏希「えー じゃあ今度いつ会えるのー」
江田さんまで!?
ふ、二股かけてやがる・・・。
携帯複数持ちで連絡先分けるってお前、売れてるホストか何かなの?
何でこのオッサンが良い思いばっかり・・・。
俺はラブハンサムという役名でも全然ラブをハンサムできていないのに・・・。
許せねぇ。
久しぶりにキレちまったよ。コイツは次の回で処刑す・・・!!
*******
翌週。
『魔法少女 ツインローズ』第46話の収録が始まった。
話は定番の流れで、町で悪事を働く怪人を主役のツインローズ達が見つけて戦うというものだった。
「ゲヘゲヘ・・・この世界は俺様の物だゲヘ〜!!」
「くっ・・・!許さないわ!」
村上は何時になくノリノリだった。
「この世界は俺様の物」というセリフが、「真帆と夏希は俺様の物」という隠喩に聞こえて吐き気がした。
「・・・待てい!!」
「そ、その声は!誰だゲヘ!?」
「ふん。いたいけな少女達を手篭めに取ろうとは感心しな『・・・はい、カットカットー!!!』」
そろそろボコるかと思い、颯爽と登場しようとしたところ、総監督からのカットが入った。
「なぜです監督!?」
「なぜってね、半澤君。君、先週も出てたでしょ?2週連続で怪人倒しちゃったら魔法少女じゃなくて君が主役みたいになっちゃうじゃない」
確かに。
監督の言う事はもっともだった。しかし、私にはコイツを成敗する理由がある。
監督の言葉を無視して演技を継続する。
「・・・ふん。いたいけな少女達を手篭めに取ろうとは感心しないな。クズはこの手で・・・潰す!!!」
「ちょっ・・・」
「いいじゃねぇか、監督」
「君は、ウサピー!?」
「アイツ、いつになく生き生きしてるぜ。なぁ、監督。好きにやらせてやろうや」
マスコットキャラのウサピー役である大豆生田さんが監督を引き止めてくれていた。
大豆生田さんは「好きにやりな」と言わんばかりにこちらにウインクをしてきた。私は頷きそれに応えると村上に全力のパンチを繰り出した。
「ハンサムパンチ!!!デュクシ!」
冒頭で言い忘れていたがアマチュア魔法少女界隈のルールとして、効果音は自分で声に出すというものがある。(これはいつまでも童心を忘れないということが狙いである)
「ひっ・・・ば、バリアー!怪人バリアー!」
「はい、バリア無効ー!デュクシ!・・・バリア無効!ですよね監督!?」
私は必死の形相で監督のジャッジを仰ぐ。
監督は少し悩んだ末、「バリア無効!」と口にした。
「よし!・・・ハンサムパンチ!ハンサムキック!デュクシ!キック!パンチ!おら!オラァ!」
「ちょっ、やめ・・・痛ッ!や、やめて半澤くん!」
「コラー!流石にカットだわ、やめろ!やめなさい!!」
監督のストップが入り、撮影は中止となった。
流石にやり過ぎたらしく、監督の怒りを買ってしまった私は、今後怪盗ラブハンサムとして出演する事は一切禁止となってしまった。
・・・ほどなくして、村上さんも二股がバレたらしく出演することはなくなった。
それが影響したのかは分からないが、結局『魔法少女ツインローズ』は打ち切りとなってしまった。
───それから一ヶ月後
「よし!じゃあ『魔法少女ツインローズX』第一話、撮影開始!」
「・・・ハーンサムサム、世の中のハンサムは全て潰すサム」
「あ、アンタはダーク・ラブハンサム!」
村上さんを見て「怪人役ならワンチャンあるのか」と思い、次作で私は闇落ちした。
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