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英語のそこのところ 第23回 子ども扱いしないでよ。

著者 徳田孝一郎
イラストレーター 大橋啓子

 ピンポンと呼び鈴の音が鳴る。徳田の前に立つ碇肩(いかりがた)の首のない男はインターフォンに向かって、話しかけた。
「夜分恐れ入ります。A学院のものですが」
「ああ、今さっき夫も帰っておりますので、話せます。どうぞあがってきてください」
 堅い声で、お母さんが答える。
「とく、上がって来いってよ。どうする?」
 いたずらを仕掛けるように碇肩の男が徳田に振り返っていった。徳田はカクカクとうなずく。顔に血の気がない。真っ白だ。
「お前だけ行ってくるってのはどうだ?」
 男の言っていることを理解しているのかいないのか、徳田はまたうなずく。怒鳴られるか、殴られるか、それとも刺されるかはわからないが、ともかくも逃げることはできないという覚悟を固めている。
「お前、顔が白いぞ」
 徳田はまたカクカクとうなずいた。やっぱり、男の言っていることを理解していない。
「そうはいかねぇやな」
 徳田と対照的に、色黒の男はオールバックにした髪の後頭部をかいた。ロックが解除され玄関ドアが開き、マンションに入る。徳田もそれに続く。
 エレベーターに乗って7階まで上がる。エレベーターのモーター音ですら、徳田には不快に響く。もうここから出してくれと叫びたくなる。さっきの逃げないという覚悟はどこへやらだ。
 碇肩の男が先を歩き、目的の部屋のインターフォンを押す。
「A学院のものですが」
「は~い」
 と、平静を装ったと明らかにわかるお母さんの声。
 恐ろしい。
 ロックが解除され、どうぞという声とともにドアが開いた。
 硬い表情のお母さんが立っている。背後には、むっつりとしたお父さんらしき男性がいる。
「申し訳ありません……」
 と、徳田が言おうとした瞬間、碇肩の男の躰が沈んだ。
「!」
「申し訳ございません。最終チェックを怠った私のミスです」
 という声とともに、男が膝を折り、額を廊下につける。土下座だ。
 徳田は慌ててその横に土下座する。と、同時に額を廊下につけていた。

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