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たたく女性 「英語のそこのところ」第54回
【前書き】
今回、投稿するエッセイは7年前の2014年12月4日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
Native Japanese Speakerはあまり気にしないことをNative English Speaker はかなり気にすることがあります。特にお酒の席ではご注意を。(著者)
【本文】
たたく女性というのがいます。
独立してからは、基本一人で仕事をしているのでスタッフと呑みに行くということはなくなってしまいましたが、会社勤めをしていた頃はよくみんなで呑みに行ったものです。とくに初めに就職した進学塾は仕事が激しいということもあって、よく同僚で連れ立って呑みに行っていました。
最後の授業が終わって、居残り勉強させている生徒たちも帰った後、ちょっと呑みに行く。私が行こうぜという時は、なぜか大所帯になって講師の人たちも営業事務をやってくれていた女性たちもよくついてきてくれていました。
そのなかの女性の一人が、たたく女性だったんです。
東京の下町の生まれで、ちょっと男勝りの姉御肌、生徒のお母さんたちからの相談もうまく処理しちゃう。昔、ちょっとグレてたこともあったみたいで、高校生の女の子がタバコを吸っているのを見つけて
「齋藤専務に見つからないようにしなよ。あいつ、融通が利かないから」
なんて注意の仕方をする。そうすると不思議なもので、高校生はタバコをやめてしまう。好きで吸っているわけではなかったんでしょうね。背伸びしたいだけだったんでしょう。判ってもらったと思えれば、タバコなんて必要なくなる。
背もすらっとしてましてね、ああ、これが噂に聞く「小股の切れ上がった女」というやつかぁとへんな江戸情緒を感じていました。
で、呑み始めるんですが、これが豪快に呑む。ほかの女性陣がサワー、烏龍茶なんて言っている中ひとりで「熱燗ちょうだい!」なんて言ってくる。じゃ、おれもおれもと男性陣はお猪口をもらっていきなり熱燗で始まる。
そのときも、決して手酌させないんです。なくなったなと見て取るとすぐにお酌してくれる。よく見てるんですね。たまに、すきを見て手酌しようものなら、
「あんた、あたしを気が利かない女にするつもり?」
なんてかわいい絡み方をする。気を使っているんだけど、それを相手に負担に思わせない、押し付けがましさのないやさしさでした。
私も若かったですからね。気持よく呑ませてもらっているから、自分の馬鹿話をしてしまう。
「この前新宿で朝まで呑んで、終電で帰ったんだけど、乗り過ごしちゃってさ。ついたら全然知らない駅であたりは真っ暗。原野だよ原野。東京であやうく遭難しそうになった」
「遭難って! 原野って!」
「いや、ホント原野なんだよ。駅の外に出たら、あたり一面ススキが生えててさぁ。灯り一つ見えないの」
「すすきっ! どこまで行ったらあるんだよ!」
なんてこと言いながら、馬鹿笑いして、私の肩口をたたいてくる。こうなると、酒の席は基本何でも面白くなっちゃうんで、なにを話しても笑いながら周りの男性も女性もたたく。
もちろん、たたくと言っても軽くです。しかも笑いながら、お酌しながら、しまいには面白さのあまり涙を流しながら、たたく。なんとも忙しくて愉しい女性でした。
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でも、今、考えてみると、ああいう女性はNative English Speakerには通じないでしょうね。う~ん、百歩譲って、Native English Speakerが男性なら通じるのかもしれませんが、女性同士なら確実に喧嘩になる。Native English Speakerたちのたたかれることに対する意識は、われわれNative Japanese Speakerが思う以上に重いものだったりします。
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