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第25回 初対面の人と上手く話せないのは……

著者 徳田孝一郎
イラストレーター 大橋啓子

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは2014年4月24日に水戸市の「文化問屋みかど商会」にてファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。COVID-19終息後に海外の方との交流が増えた時に備えて読んでいただければ幸いです(著者)。

【本文】

 そろそろゴールデンウィークが近づいてきましたね。みなさん、ご予定はいかがでしょうか? 海外旅行に行かれる方や、山登りに行かれる方、あとは家族サービスで観光に出かけられるという方もおられると思います。海外に行かれる方は思う存分、この「英語のそこのところ」で得た英語の言い回しを使ってきてください。体験談を愉しみにしております。

 わたし自身は出不精であまり旅行などにはいかないタイプで、出かけるといったら呑みに出かけるぐらい。大学からの悪友が二人ほどいて、だいたいゴールデンウィークに一回は朝まで呑む。ほかにも教え子やお客様からのお誘いもあっていろんなところで呑んで、なんとなく予定が埋まってしまいます。

 こう書いてみるとちょっと地味ですねぇ。たまには「あぁ、ゴールデンウィークはモロッコに旅行だから」なんてことをかっこつけて言ってみたいんですが、前もって計画を立てようという気がなかなか起きなくて。
 以前、イングランドに行った時も「あ、このあたり2週間休めそうだ」と2週間前に気付いて、じゃあ行くかとチケットとホテルだけとってふらっと行ってしまうという始末。計画もなにもないものだから、往きの飛行機の中でガイドブックとにらめっこです。それはそれで珍道中になって、面白いのですが。
 これは今の生活を始めてからのゴールデンウィークの過ごし方なんですが、以前、会社勤めをしていた際はちょっと違っていました。大型連休があれば、原則として小説を書く時間と考えていて、徹夜でいろいろ考えて書き上げる。そこで、ちょっと時間があれば呑みに行くというパターンです。
 あまりいいことではないと思うんですが、実はわたしは会社勤めを生活するためと割り切っていました。いつか文筆をメインの仕事にしてやろうと思っていて、休みはそのための修行時間。就業時間以外に仕事するなんてとんでもない、という考えです。
 でも、そうは言うものの自分の能力がおっつかないときは、自宅で仕事をせざるを得ないし、生徒に頼られればほっとくわけにもいかないので、結局就職して2年ほどはほとんど休みなしでしたが。。。

 休みをそんな風に愉しみにしているわたしのような不真面目な人間もいれば、一方で真逆の人もいます。
 初めて就職した進学塾の上司の方なんですが、4月の中旬になるとだんだん不機嫌になる。不機嫌になると生徒にも判るので、教室の雰囲気が悪くなる。これは上司の名誉のために書いておきますが、この上司は八つ当たりするわけではないんですよ。いたって生徒には普通に接している。でも、子供って本当に不思議なもので、そういう大人の気分に敏感ですぐにわかっちゃうんです。
 で、当時一番若手のわたしに耳打ちしてきたりする。
「徳ちゃん、○○先生、怖い。なんかイラついてる」
 という感じです。
 しょうがないからわたしは不機嫌な上司のそばに陣取る。不機嫌な上司と距離をとることは相手を増々不機嫌にしますからね。生徒を怖がらせるよりはいい。そこで上司のそばの机で黙々と仕事をしていると、しばらくして。
「ああぁあ、今年のゴールデンウィークは6連休か」
 なんて始まります。
「そうですね。だいぶ長いですね」
 と、あたり障りのない返事をする。すると、驚きの発言が飛び出す。
「6連休なんかになると、躰がおかしくなっちまうよ」
 わたしはぎょっとして上司を見ます。
「だって、徳、そう思わない? 6日も仕事できないんだぞ」
「……」
「おまえどうするの? 6日間も?」
 家で小説を書いてますとは、まあ口が裂けても言えません。羞ずい。
「大学の友達と呑んで、あとはサッカー観戦です」
 なんてお茶を濁す。
「おれなんか、パチンコ、行くぐらいだなぁ」
「毎日ですか?」
「あれが一番いいんだよ、時間をつぶすのに」
 社会人1年目のわたしとしてはこの会話はかなり衝撃的で、そんな考え方があるのかと思いました。サラリーマンは嫌々やるもので、その分、休みは自分に戻って愉しく過ごすのが普通だと思ってたんです。モウレツサラリーマンって言葉がありましたが、まさか目の前に現れるとは思ってもみませんでした。

 これは20年ほど前の話ですが、今でもあまり変わっていないようで独身男性の余暇の過ごし方として多いのはパチンコだそうです。休みをどう過ごそうかと悩む方も多い。
 一方で、Native English Speakerと休みの話をしていると、わたしの元上司の様なタイプは全く理解できない。
 彼らは生きるために仕事をするのであって、仕事のために生きているわけではない
と高らかに言います。
 じゃあ、休みの日はどうしてるのかと気になるので、訊いてみると、
 仲間とスポーツをしたり、パートナーと散歩、パーティ、博物館や美術館に行ったりする。なかでも多かったのは公園でのんびりというやつです。
 パートナーや家族とお弁当やアルコールを持って行って、公園に寝そべってまったりする。そこでいろんなことを話すのが一番の愉しみなんだとか。
 じゃあ、パートナーや家族と過ごせないときはどうするの? とも訊いてみる。件の上司だって、恋人や友人がいれば、そういうことをしたかもしれませんし。
 そうすると、
「その時は、パブに行くよ」
 とのこと。

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