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Red or Blue? 「英語のそこのところ」第53回

【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2014年11月27日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 Native English Speaker というのはこうやって「人格」を形作るのだなぁっと感心した話です。(著者)

【本文】

 このエッセイを書いているのは11月中旬なので、どうなっているか判りませんが、11月の下旬から12月上旬はJリーグの優勝が決まる時期です。最終節(リーグ最後の試合のことです)が12月6日ですから、この53号が発刊される11月27日はあと2試合を残しています。いったいどうなるのかとそわそわする。

 私がサポーターをしている鹿島アントラーズは、今日の時点で3位につけていて優勝を狙える位置にいるのですが、このところ2連敗のあと引き分けと調子が悪い。ああ、もう何とかしてよって毎週末ドキドキしています。
「へぇ、なんで鹿島なの?」
 ということはよく訊かれて、出身が茨城なんですか? とかも訊かれるんですが、私は福岡の出身なのでそういうわけではなく、ZICOのファンだったから鹿島サポーターになった口です。ほかのJリーグのサポーターと呑んだりすることがあると、
地元を応援しなきゃいけないじゃないですか、
と言われることもあるんですが、子どものころから高校まで福岡、佐世保、久留米、久留米(市内で転校しました)、福岡と転々としていて、あまり地元意識がないんです。それよりも中学1年の時に観た82年のスペインのワールドカップのZICOの印象が強烈で、東京の大学に進学してZICOが日本リーグにいると知ったときは、いそいそとひとりで応援に行っていました。その頃は、スタンドも閑散としていて応援歌もないし、選手の声のほうがよく聞こえる。ZICOがあの甲高い声でよく怒鳴ってましたっけ。
 そんなこんなで、鹿島アントラーズのサポーターを20年以上やっているんですが、やっぱり
「地元を応援しなきゃいけないじゃないですか」(2度大きくしなくても……)
という言葉は耳に痛い。というか、うらやましいなぁと思ったりします。やっぱり自分の根っこというものを持っている人は、いいですよね。

 根っこということで言えば、このエッセイにもたびたび登場するRichやほかのU.K.の友人たちはみんな自分の贔屓のチームを持っていて、Richはトットナム・ホットスパー、Aaronはアーセナル、Peteはリヴァプールとやっぱり生まれた土地土地のチームを応援してました。とくに、トットナムとアーセナルはノース・ロンドンダービーと言って、お互いに不倶戴天の敵、RichとAaronがいるといつも喧嘩になって、みんなで面白がってみていましたね。北ロンドンの片隅で行われる地域戦争が、極東の東京で見られる。なかなかない経験です。

「そういえば、この前のチャンピョンズリーグでアーセナルってどうだったんだっけ?」
 とRichが言うと、
「……」
 Aaron が黙り込んでしまう。
「ああ、バルセロナに5対0で負けだったなぁ」
 なんて知ってるくせにわざわざネットで調べて言ったりする。
「あれは調子が悪かったらさ」
 と、Aaronが力ない返事。贔屓のチームの惨敗ほど意気消沈させるものはありません。
「ふ~ん、でも、その前にトットナムにも負けてなかった?」
「前っていつのことだ? 半年も前のことだろ!
 といいように嬲られるのに飽きたのかAaronが反撃する。
「でも、負けは負け」
「Rubbish! トットナムなんてチャンピョンズリーグにも出られないじゃないか!」
「惨敗しないように力をつけてる最中だから」
 で、2度目のRubbish!
 こういうのはいいですね。お互いにリスペクトがある存在を認め合ったじゃれ合いで、実のところ、トットナムサポーターのRichがアーセナルサポーターのAaronを励ましている。「元気出せよ」というわけ。

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 こういうロールプレイとしての地元意識って、意外と重要なんじゃないかなと思います。
 はっきりした自分の立ち位置があって、それをもとにお互いが違っているのを認めあって、お互いに尊重し合う。子どものうちは、本気で喧嘩することもあるでしょうけど、そういうのは自分をコントロールできていなくて大人じゃない、England 風に言うと紳士じゃないということで窘められる。
 みんな同じ人間です。みんなで仲良くしましょう! というお題目にうなずきながら、ちょっとした違いをあげつらって「キモイ」とか言って仲間外れやイジメをするよりは、よっぽど健全です。だと思います。

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