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Unity を捨ててお前は一体どこへ行こうというのだ?


あらまし

 Unity が収益しきい値ありのインストール数ベース課金を突如発表し、それが2024/1/1から強制的にスタートすると告知──を発端とする一連の騒動がありました。↓ここに大体まとまってます

感想

 いやーよくないですね。
 自分は買い切り(ゲーム)畑なので、実害があるかといったら無いんですが(そもそも100万DL行かないと利用料発生すらしないので)、1DL あたり 1~5 円しか売上の上がらないカジュアルゲーム・ツールは大変ですよね。というか、無理。そして、明らかにそういうゲームを標的にしている。

  • プラットフォームがゲームの取捨選択をし、それをユーザに強制することで分断を促している

  • 規約を突如変更し、過去に遡って強制的に適用するという背信行為を行っている

 この二つが大きな問題だと思います。あまりに大きな事件であるためにゲーム業界外まで情報が広がって錯綜している節ありますが、「(払えるけど)お金払いたくない!」みたいに騒いでいる人は基本いません。払えなくて死、みたいな人はいますが……。

Unity の初手は最悪だったが、我々の初手は良かった

 でも、良かった点もあります。それは、ターゲットとなった(ハイパー)カジュアルゲームだけでなく、大手買い切りゲームのデベロッパーがこの背信行為に対して一斉に声を上げたこと。
 こういうので一番良くないパターンは、対岸の火事と捉えて分断を受け入れ、だんだんと味方が減っていくこと。「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」という有名な詩がありますよね。
 今回、Unity は「突然だけど料金体系を変更するし、これは過去のバージョンも含めて強制的だよ!拒否権はないよ!」ということをしたわけで、これが一度だけであるハズがありません。「すべてのコンソールゲームは Unity の審査を受け、1万本以上売ったら半額を渡さないといけない」みたいになる可能性だってあるわけです。

 前例を作ってはいけない。

 そういう意味で、なんとしても一方的に出された Unity の最初の告知は折らなければならないものでした。そしてそれは功を奏したようです。
 バンザイ。

そもそも技術的に不可能では?

 えーこれはスマホでゲームをリリースしたことがあるデベロッパーなら大体知っている知識なんですが、今 GDPR とか COPPA とかで個人情報っていうのは大分センセーショナルになってまして。すべてのスマホゲームは

  • データ収集をする際、プライバシーポリシーを作成する必要がある

  • 必要に応じて、データ収集を拒否できる選択肢を用意する必要がある

 わけです。iOS でトラッキングデータ云々~の奴がありますよね。あれです。すると、Unity が DL 数を正確に計測したくても、端末と紐付けるような情報は個人情報として取得が制限されているわけですから、正規のDLかどうか、重複したDLかどうか、見分けがつかないのです。すべてカウントされる。

 でも、Unity は「海賊版や重複した DL は fee にカウントしない」と発言した。どうやって?

 エンジニアに2秒与えれば答えが出るエラーを、Unity は公言してしまったのです。よっぽど中の統制が取れていないか、Unity にはすでにまともなエンジニアが残っていないかの二択でしょう。

 あ、それと不可能繋がりで、「規約を遡って適用」は多分法律上無効になる気がします。専門家じゃないのでわかりませんが。訴えれば勝てると思います。そんな横暴許されたらたまったもんじゃありませんよね。

代替エンジンなんてないよ

「今回の件でエンジンの信頼度が下がったので確実にシェアも下がるだろう」という意見はよく見ますし、実際そうだと思います。
 が、例えばこれがテスラだったらトヨタに乗り換えればいいだけなんですが、ゲームエンジンってなかなかそうも行かないんですよね。Unity の代替を求めるのであれば、

  • 高度な3D/2Dゲームを作るためのレンダリングシステムが搭載されている

  • (同上)ためのエディタが搭載されている

  • (同上)レベルの処理速度がある

  • Live2D や Spine、Photon や ADX2 などの外部ミドルウェアに対応し、最新版が出るたびアップデートされている

  • 徒手空拳でゲームを作れるほどのアセットマーケットが充実している

  • スマホに対応しており、実績がある

  • コンシューマ(ゲーム機)に対応しており、実績がある

 あたりを満たしている必要があります。デベロッパーによっては、いくつか不足を容認できるかもしれません。うちなんかはほぼすべて必要なので、少なくとも現在進行中の PJ においてはまず乗り換えられません。

 そもそも、ゲームエンジンは過去に大戦争がありまして……2010年代後半~2020年代は戦後だったわけです。色々あったけど安定して大きくなっているゲームエンジンが二つ(Unity/UE)できた、なのでそこに合わせて色々ミドルウェアを作っていこう、ゲーム機も対応しよう、エンジニアを育成しよう、というエコシステムができていました。
 昨今のインディーゲーム隆盛はそのエコシステムの上に築かれた牙城であり、Unity がなくなればその基盤ごと崩れ去ります
 今回の事件はそういう事件です

 このエコシステムを含めて代替できるゲームエンジンは、UnrealEngine しかないですね。ただ、Unity とは根本から思想が異なっているので、スムーズに移行できるかというと……難しいんじゃないでしょうか。
 もちろん、大手ならなんとでもなりますけどね……。

 Godot Engine 、Ebitengine など、イイカンジのゲームエンジンはいくつかありますが、これらを Unity の代替にしたいのであれば育てていく覚悟が必要です。具体的には、世界で一番最初のバグを自分が踏む覚悟です。
(自分も DX ライブラリや黎明期の Unity でよく踏みました……)

 なんにせよ、今回の一件でプラットフォームがご乱心する可能性はすべての開発者に刻まれてしまったので、プログラマーはまだまだ勉強しなければならないことが多そうです。早くAIでなんとかしてくれー!

Ebitengine でなんかゲームつくろかな。


未来はどうなる?

 ひとまず Unity 側がポリシーの変更を発表しているので、そちらを見守りたいところですが……。一度こうなってしまった以上、なんらかの変化があることは確実でしょう。赤字ですしね。

  1. 何も変わらない。あるいは、法律的に怪しい現バージョンへの適用は免除され、新料金は新バージョンから強制的に適用される。ハイパーカジュアルゲームは新天地を求め飛び立ち、インディーゲーム界隈は少しずつ悪い状況へと傾いていく。

  2. Runtime fee は撤回され、エンジンは値上がりし、高額プランが追加される。大規模なレイオフが敢行され、DOTS などの幾つかの開発中の機能は闇に葬られる。Unity は緩やかに死んでいく

  3. Microsoft あたりが買収し、経営層が一掃される。一時の平穏がもたらされるが、Unity アカウントが Micorsoft アカウントと統合され、一部のエンジニアはブチ切れる。値上げとレイオフは結局される。あとやはり幾つかの MS が気に入らない機能は闇へと消える。

  4. Unity 社は滅亡し、Unity Engine が OSS 化して生き延びる。世界中のゲーム会社がスポンサーとなり、元 Unity 社のエンジニアが喜んで保守をし、みな幸せになる。そんなうまくいくのか?

 あたりがぼくの妄想シナリオです。
 Unity が力を失い、様々なエンジンが台頭して戦国時代になる……もシナリオとして考えられると思いますが、自分はあまりその路線はないと思います。エコシステムを作るの、ほんとに大変ですからね……。

 なんにせよ、いい方向に向かうように祈ってます。


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