ゲーム開発者から見た PlayStation のヤバさ
という話題がありました。
この数字の信憑性はさておき、少し前から開発者サイドから見て PlayStation というハードには色々思うところがあって、何人かで集まると「最近プレステってヤバイよね」という話がぽつぽつ出てきたりします。
デベロッパーからしてみれば当然全ハードでゲームが売れてくれるのが一番好ましいわけですが、素直に「SIE 頑張って!応援してるよ!!」とは言えないくらいの状況になっていることは確かで(そしてそれを招いたのは他ならぬ SIE なわけで)、そういうモヤッとした気持ち、もっと言えば危機感を共有するために主観的な話をしたいと思っています。でも、ネガキャンしたいわけじゃないんですよ。この気持ちのせめぎ合いをわかってほしい。
というわけで、PlayStation に対する今の思いを一つ。
*画像は DALLE2で出力したサイバーパンクシティにたたずむ犬です。
開発しづらい
任天堂は結構前から個人開発者でもいわゆるデベロッパー向けポータルサイトに登録できるようになり、開発機を買ったりソフトをリリースしたりできるようになっていますが、PlayStation では未だ法人しかその門戸が開かれていません。
というのは序の口で、とにかく PlayStation のポータルサイト(NDA に引っかかりそうなのであえてボカして書いていきます)は使いづらい。周知のように SIE のコアが米国に移転してしまったせいか、主要な情報でも英語が多く(*)、フォーラムは英語のみ、サポートは少し踏み入ったことになると部署間の連携が取れていないのか非常に反応が遅い&悪い。検索機能が貧弱で必要な情報に行き着くのが難しく、リリース時に遵守が必要なガイドラインも厳しく複雑で分かりづらい。総意とまではいいませんが、とにかく開発しづらいというのが異口同音に言われることです。他にもサンプルがガイドラインをガン無視してたり(何故?)、[NDA]が[NDA]だとか、[NDA]が[NDA]でマジ[NDA]だとか色々あります。
ここ十年でゲーム開発環境は急速に民主化していきましたので、デベロッパーは簡単に Nintendo Switch や Steam と PlayStation の開発環境を比較できます。サンプルが丁寧で、日本語で対応してくれる掲示板(しかもレスポンスが早い!)が完備されている任天堂、サポートこそやや遠いですが日本語のマニュアルがみっちりと書かれていて、ストアの情報からビルドのアップロードまでワンストップでできる高機能なコンソールを有する Steam と比べて、PlayStation の状況はやや見劣りせざるをえません。
「とりあえず PS 版も開発しとくか~」ができる体力も人員もある大手と違って、中小やインディーはここらへんがダイレクトに響いてきます。ともすれば、必然的に PS 向けに供給されるソフトラインナップは大手のものばかりになってきます。特に海外では PS 向けの代わりに XBOX 向けという選択肢もありますしね。
一時期の PS はめちゃくちゃインディーに力を入れていて、国内でも先頭を切っていました。TGS のインディコーナーも SIE (SCE) 様々です。が、当時のその熱心な人員はバラバラに放出されてただの飲み友(?)になりましたので、今の状況はさもありなん……。
売れない
売れません。もちろん状況によってバラツキはあり、AAA タイトルかどうか、全プラットフォーム同発かそうでないかで大きく違うのですが、例えば PC 版を最初に発売し、後から Switch 版と PS4/PS5 版を発売したりすると、これがなかなかに売れません。しかも、開発コストは前述した通り PC << Switch <<< PS なので……。
PS を初回リリース時に入れないと全然取り上げてすらもらえないよ!みたいな話はたまに聞くのですが、 PS 専売とかならまた話は違うんですかね。有識者求ム。
デベロッパー側からは数値しか見えないので、何が原因かはぶっちゃけわかりません。Nintendo Direct や Indie World のようなユーザの期待を集めるストリーム配信がめったに開催されないからか、ストアが見づらく導線が悪いので大作しか売れないからか、Steam のように定期的なセール祭りが行われないからか……。
あるいは、冒頭のデータのように「単純に PS のシェアがめちゃくちゃ低い」というのは説得力があります。PS4 から PS5 への世代交代に失敗している、ともよく言われてますね。その原因が、転売ヤーの仕業なのか、供給自体が足りてないのか、独占タイトルの問題なのかは謎ですが……。
結局、めちゃくちゃ開発しづらくても売れるプラットフォームは正義なんですよ。今までのコンシューマはそれで食っていたようなものです。しかし、開発しづらくて、売れないプラットフォームだと当然そっぽを向かれます。Steamworks も、Appstore Connect も、Google Play Console も、それを知ってかものすごくコンソールに気合を入れています。
ゲーム開発が民主化し、個人やチームが今後ますます力を持ってくると、プラットフォーム同士の競争は更に熾烈を極めて行くと思います。昔と比べて力関係は完全に逆転していますね。ここが正念場なのではないかなとおもいます。
PC に侵食されている
ちょいちょい話題になっていますが、日本の PC ゲーマー人口はめちゃくちゃ増えていますし、世界はそれ以上です。エルデンリングの売上は推算すると殆ど PC みたいですね(8月までの累計で 1660 万本らしいですが、デベロッパーはあるテクニックで Steam の売上を推測できますので、割合がわかります)。
とりあえず PC と PS と XBOX にマルチ展開しておけばいいんじゃない、というのが2010年代までの風潮ですが、開発コストの高騰に従って「PC 版が一番売れて一番作りやすいなら PC だけでいいか」となりつつあります。そうして末端のデベロッパーから PC メインで出していくようになると、今度はユーザも「どうせマルチ展開しているし PC で買えばいいか」となり、負のスパイラルが始まります。いや、すでに始まりつつあります。
で、この流れで誰が困るかというと、Switch では動かないグラフィックをしている、A~AA くらいの日本向けタイトルを作るような中堅企業がコンシューマにリーチする方法がなくなります。端的に言えば死にます。
PC ユーザが爆増したとはいえまだまだ日本ではコンシューマが強いですし、特に子供(小学生~中学生)で PC ゲーを遊ぶ人はかなり少数でしょう。昔我々が遊んだような古き良きコンシューマ向け AA タイトルを作っていたようなメーカーが今同じノリで作ると販路が極めて限定されてしまうわけです。
「スマホで流行るゲーム」が結局ゲームデザインを大きく制限したように、プラットフォームの都合でゲームスタイルが制限される、これはゲーム文化にとって大きな損失だとおもいます。売れれば正義とはいえ……。
これ、Switch が爆売れしているのでまだまだ大丈夫に見えていますが、もし Switch が五年前盛大にズッコケてたりしたら、早々に PC とスマホ向け以外ゲームが売れなくなってコンシューマは死んでいたんじゃないかな、とよぎることもあります。
まとめ
開発しづらい・売れない・PC に圧されているの三重苦
Bitsummit などゲームイベントで担当者が遊びにきたり、Indie World の取り組みがあったりと歩み寄りを感じる任天堂に比べて、物理的・精神的な距離が遠い。どこにいるんですかね。「元」SIE しかいないよ!
我々はどう歩み寄るべきなのか?
冒頭で書いた通り、「どのハードで出してもそのハードのファンにリーチしてちゃんとゲームが売れる」という状態がデベロッパーにとっては最も好ましい環境ですが、だからといって「俺たちが頑張って SIE を立て直してやろうぜ!」とはなりません。商売の話ですし。SIE は自分で頑張るしかありません。
なので、とりあえず「こんなことになっているんだ」という危機感を我々(開発者)は共有しておくべきなのだとおもいます。その思いはきっと届くハズ。届くだろうか? でもサポートで直接「こんなガイドライン不条理ですよ」って言っても全然聞いてくれませんでしたよね。もし、この件に関して思うところがある人はコメントやDMなどください。(→たくさん頂きました。ありがとうございます)
そして、ポジティブなニュース、あるいはそうでないニュースでも、ある人はぜひ声をあげてください。積極的に色んな声が上がるほど健全だと思うので。
ところで、最近 BitSummit で SIE の人(現役)が来ていたという話も複数方面から聞いているので、SIE ももう対策に乗り出しているのかもしれません。頑張ってください。あとパラッパラッパーの新作出して。
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