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少し泣いて、少しうれしくて。

私の大好きなスーパー銭湯へ車を走らせた。

小一時間のその場所は、私の唯一の癒しの場所だ。2カ月に一度、訪れている。とてもいい天気だ。ここのところ仕事も忙しかった。この日を楽しみに頑張ったと言ってもいいくらい。

それくらい私のお気に入りのスーパー銭湯が・・・

潰れていた

文字通り潰れていたのだ。まさか経営難だったとは。ショベルカーが数台、駐車場にあって瓦礫の山がいくつもあった。入口のあたりだけ、なんとか形が残っているだけで、その扉の取っ手が、まるでつぶらな瞳に見えてきて、なんだか私に涙目で訴えているような気がした。

何とも言えない気持ちになって、思わず奥さんにメールした。

「温泉、潰れていた」

返信は「まじか!」の一言。

半べそをかきながら家に戻ると、彼女が腹を抱えて笑っていた。別に温泉が潰れていたことじゃなくて、私の人生が、なぜだかいつも、そんな目に出くわすことが多いからだ。

最近も私が通っていた散髪屋が、いきなり閉鎖されていた。どうすりゃいいんだ?なんだか世の中みんなが私を避けてる感じだ。

「あなたって、ほんと、運がないわよねー」

彼女がまだ、笑ってる。しかもちょっと涙を流してる。そこまで笑うことはないだろう。私がちょっと落ち込んでいると、見かねた彼女がこう言った。

「よしよし、じゃあ、何か美味しいものでも食べに行こうか?」

「うん」と私は言う。

「なにがいい?」と彼女が聞く。

「お寿司」と答える。

「わかった!じゃ、今から行こう!でも、回るやつだよ!」

そう言いながら彼女はもう、身支度をして玄関に向かってる。

「うん!」と私は元気になって

車のキーを持って玄関に急ぐ。

あぁ、この人と結婚してよかった。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一