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クリスマスの約束。

「今、君に何を言えばいいのだろう?」

僕がそう言うと、君は頬杖を突きながら
そのときだけ、僕の目を見てこう言った。

「それが今から別れようとしている彼女に言うべき言葉かしら?」

12月17日の別れというものは、ある意味、とても残酷なものかもしれない。あと1週間もすれば、クリスマス・イブだ。そんなわずかな時さえ待てずに、ほんの小さなすれ違いで、僕の、いや、僕たちの心はここまで離れてしまった。

街はきれいなイルミネーションに包まれている。恋人たちが肩寄せあい、僕たちの横を通り過ぎてゆく。君の小さなため息が、かすかに白くなってゆく。僕は彼女の言葉に身動きも出来ず、次の言葉を捜していた。

「最後だからじゃないけれど、せめて君が本当に望んでいるものを今、僕は知りたいんだ」

いつしか声が、大きくなってた。言葉も投げやりになっていた。

何も答えを出せない僕は、やさしさのかけらさえ見つけられずに、また、彼女を傷つける言葉だけを、繰り返すばかりだった。君は少し驚いて、そして、何かをあきらめるように、うつむいたまま、僕に答えた。

「あなたに望んでいるものは、確かにあったわ。あなたがそう聞くまではね。あぁ、ひとつだけあったわ。予約していたあの店、あなたがキャンセルして。それくらいいいでしょう?」

僕の小さな過ちは、何度も君を傷つけたけれど、君のそんな過ちは、僕をこんなふうに変えた。一度も涙を見せなかった君には、もう、他の誰かがいるのだろう。ふたりがいる理由なんて、どこにもなかったんだ。

・・・・・・・
イブの日に、僕はひとり、あの店にいた。それが僕のささやかな抵抗だった。隣のテーブルでは恋人たちが、”雪が降るかも”とささやいている。イブの日に雪なんて、そんな都合のいいこと僕は信じない。

気づけば時計は、もう、明日になろうとしていた。にぎやかだった店内が、静かな時に包まれている。今頃、君は誰といるだろう?

そんなこと・・・僕にはもう関係ないんだ。

気づけば遠い窓側の席に、ひとり女性が座っていた。表情は薄暗くて見えないけれど、小さく肩が揺れている。泣いているのかもしれない。

こんな時間にひとりだなんて。こんな最悪なクリスマスはこの世に最低、二人はいるということらしい。やがて音楽がバラードに変わってゆく。そのとき気まぐれな車のライトが、一瞬、窓辺の彼女を照らした。

頬杖ついたその横顔、細い指に光るあの指輪。そのきれいなひと筋の涙は、あの頃、僕が、ずっとなくしていたものだった。

今の僕はサンタの奇跡を、信じていいのかもしれない。

今、言えることは確かに、あの頃交わした約束が
まだ、ふたりを離してはいないんだ。

粉雪が街に舞い降りてくる。
僕は席を立って、ゆっくりと君へ歩き始める。

君が本当に望んでいたものを
今なら僕は、言えそうな気がする。

ありがとう。
今までのどんな小さなこともすべて。
君に、メリークリスマス。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一