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もっと泣いてしまおう。

昔のこと、新聞のコラム欄に、私の好きな五木寛之さんの「みみずくの夜メール」というものがあった。私はそれを毎週のように楽しみに読んでいた。

私は好きな言葉を見つけると、それを手帳に書くようにしている。そのコラムの中に、こんな素敵なことが書いてあったので、今日はそれを紹介したいと思う。

行きに比べると帰りの飛行機は、あっという間に成田に着いた。感覚としては、帰りがばかに早かったような気がしたのだ。私だけでなく、ふつう、行きよりも帰りのほうが早く感じるという話はよく聞く。たぶん、往復の復路のほうは、くり返しだからかもしれない。
~中略~
くり返しの日々は、あっという間に過ぎてゆく。一年が短く感じられるというのは、要するに、くり返しの1年だったからではあるまいか。長生きとは、何歳まで生きたか、ということではない。その一年がどれほどめずらしく、驚きや感ずることの多い年であったか、ということだろう。そういう一年は、たぶんじつに長い一年に違いない。今年は長生きしよう、と香港から帰ってきて思った。 五木寛之「みみずくの夜メール」より抜粋。

同じことのくり返しって人間にとって、とても楽で簡単なことなんだと思う。だからつい私たちは、同じことばかりを繰り返してしまう。

今は世の中がどうしようもなくて、みんなが下ばかり向いていて「つまらない、いいことなんて何もない、いっそ死んでしまいたい」なんてつぶやきながらアリの作った道しるべのように、同じ道をただ、くり返しくり返し歩いているだけなんだと思う。

その列から離れることを、意味もなく恐れながら。

あの道の角を曲がったなら、そこには美しい海辺が広がっているのかもしれない。または小さな公園があって、ダンボールの小さな箱に、かわいい子猫が捨てられて泣いているのかもしれない。

子供の頃は、なぜか絶対に、まっすぐになんて帰らなかった。今、私たちは大きな意味で、もっと道草をすべきなんだと思う。新しい発見が、そのたびに大切な何かを与えてくれたように、見えなかったものを知る喜びを、いつしか私たちは忘れてしまった。

子供の頃に出来て大人になると、どうしてそれが出来なくなってしまうんだろう。何を恐れてしまうんだろう。

たそがれに、ため息をひとつつきながら”時が、あっという間に過ぎてしまうなぁ”ってこの頃ずっと思ってた。それを五木寛之さんが、こんなにも簡単に教えてくれた。心から感謝をしたい。

この1年を、もっともっと驚いてしまおう。
そして、もっともっと泣いてしまおう。
悲しみにじゃなく、美しさに、そして喜びに。

だから、私もココに誓いたい。

今年はもっと本当の意味で、長生きをしようと。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一